【金管バンドナビ】#19 英国金管バンドのコンテスト⑥

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

先週は、英国で最も勝ち上がるのが難しいとされるブリティッシュ・オープンの特集でした。日本の吹奏楽コンクールは基本的に出演する人数で出場枠が変わりますが、金管バンドのコンテストでは主にバンドが属するグレードや過去のコンテストの成績などで出場できる枠が変わる点など、日本と比べながらお読みいただくのも面白いかもしれません。

本日は英国国内での1番を決める、全英大会(National Brass Band Championships of Great Britain)を特集してご紹介します。

全英大会下位セクションの部

全英大会の下位セクションの部であるこのコンテストは、毎年9月にイングランド西部にあるグロスターシャー 州(Gloucestershire)、この州にあるチェルトナム(Cheltenham)で開催されます。ちなみにこのグロスター州は数多くの偉大な作曲家を輩出した地域としても有名で、G. ホルストやR. ヴォーン・ウィリアムスなど日本でも有名なクラシック名作曲家たちの銅像や生家もあります。

『ケンタウロス』と名付けられ座席数2,000席を超えるこのホールでは、ファーストからフォース・セクションの1位を決める熾烈な戦いが毎年繰り広げられています。

この全英大会下位セクションの部も3月に開催される英国の8つの地域で開催される各予選より選抜されたバンドによって競われ、毎年6月ごろに課題曲が発表されます。このコンテストも先述の予選大会ブリティッシュ・オープン同様課題曲のみで構成をされ、審査員はカーテンなどで仕切られた演奏バンドが見えない箱型の審査員席で審査を行います。

下位セクションの課題曲といってもその難易度はとても高く、ブリティッシュ・オープン同様、最上級クラスであるチャンピオン・セクションで課題曲として使われた作品が翌年には下位セクションの課題曲として使われることもあります。

2023年今年の課題曲を以下にご紹介します。

ファースト・セクション

St. James’s — A New Beginning / Philip Harper

セカンド・セクション

Lakeland Variations / Philip Sparke

https://www.brassband.co.uk/sheet-music/lakeland-variations-philip-sparke-dehaske

演奏動画は見つかりませんでしたが、楽譜のサンプルがダウンロード出来ます。

サード・セクション

Lost Village of Imber / Christopher Bond

フォース・セクション

Saddleworth Festival / Goff Richards

全英大会チャンピオンシップ・セクションの部

3月開催の地区予選(Regionals)を勝ち抜いた英国中のチャンピオン・セクション・バンドが集い、チャンピオン・セクションの中の王者を決める大会です。

1860年に始まったこの大会は、当初ロンドンのハイド・パークに建設されたクリスタル・パレス(The Crystal Palace)で開催されていましたが、1945年より現在の会場であるロイヤル・アルバート・ホール(The Royal Albert Hall)に会場を移しました。

英国で最も偉大なホールの一つとして有名で、その座席数は5,272席と建物自体の大きさもそうですが、ホール内部も舞台や客席など全てとても大きく広い会場となっています。

筆者も何度もこのホールでの演奏やコンテストへの出場をしましたが、このホールの舞台に立ち満員の客席を舞台上から見ると、あまりの広さに遠近感がおかしくなり、まるで現実の世界ではないような見え方をしたのをよく覚えています。

またこのコンテストは初めて金管バンドのためのオリジナル課題曲を採用したことでも有名で、1913年パーシー・フレッチャー(Percy Fletcher)によって作曲をされた『労働と愛(Labour and Love)』は、その後の金管バンドオリジナル曲の発展に大きく寄与しました。その歴史的価値についてはこちらの記事でも解説しています。

このコンテストの課題曲は全英No.1を決める大会に相応しいレベルの高さで、過去には『ミュージック・フォー・バトルクリーク』、『楽園』、『ハイパー・リンク』などイギリスやイギリスにゆかりのある作曲者の作品が多く採用されていましたが、近年ではオーストリアのトーマス・ドス(Thomas Doss)ラヴェルの『ダフニスとクロエより第2組曲』など幅広い作曲家の作品が使用されるようにもなりました。

今年2023年の課題曲は、過去何度もこのコンテストの課題曲として自身の作品が採用されているエドワード・グレグソン(Edward Gregson)によって、詩人ウィリアム・ブレイク(William Blake)を題材に作曲され、英国金管バンドレジェンドの1人であるエリック・ボール(Eric Ball)と彼の妻スーに捧げられた作品『男たちと山々(Of Men and Mountains)』です。当初はオランダの全国大会のために1990年に作曲をされ、同年の全英大会でも使用される予定でしたが、長すぎるということで不採用、今年2023年まで採用されることはありませんでしたが、30年にも渡るこの曲のドラマがどのような名勝負を生むか楽しみです。

この全英大会も2020年はコロナによるパンデミックの影響で中止、その後2021年と2022年はイングランドの名門フォーデンス・バンド(Fodens band)が栄誉あるチャレンジ・トロフィーを2年連続で勝ち取りました、今年はどのようなコンテストになるか要注目です。

もし実際にロイヤル・アルバート・ホールでご覧になりたい方はこちらからチケット予約ができます。

2023年10月21日(土)

https://www.royalalberthall.com/tickets/events/2023/national-brass-band-championships/

また昨年と同様であれば、以下に掲載する「wobplay」というwebサービスでライブ録音を聴けると思います。クレジットカード1枚で英国内外の金管バンドの最新音源やライブ録音を聴ける便利なサービスです(9月のブリティッシュ・オープンも聞けます)。

https://wobplay.com/

今週は各セクションのNo.1を決める『全英大会』についてご紹介しました。本戦と予選に分かれるこのコンテストは歴史も古く、とても英国らしいコンテストとも言えるでしょう。また英国で最も偉大なホールの一つであるロイヤル・アルバート・ホールでのコンテストはまさしく激アツです、もし機会があればぜひ実際に観覧に行かれることを強くお勧めします!

さて、全英大会も終わり残りの主要なコンテストは残り1つ、バンドたちがお互いのエンターテイメント力を競い合う『ブラス・イン・コンサート(Brass in Concert)』を次週ご紹介いたします。ぜひお楽しみにお待ちください。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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