【金管バンドナビ】#18 英国金管バンドのコンテスト⑤

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最終更新日 2024.01.04

みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

前回のウィット・フライディ、ワールド・ミュージック・コンテストのご紹介はいかがでしたか?これら2つのコンテストが終わるとともにひとまず英国の年度はひと段落します。この後は夏休みシーズンを挟み、多くのバンドは1~2週間のバカンスを取って秋の新年度からさっそく始まる英国でナンバーワンを決めるコンテスト・ラッシュに入ります。

しかし、そんな中、8月に開催される稀有なコンテストがあります、それが英国西部に位置するケルトな国ウェールズ(Wales)、ここで開催されるウェールズ・アイステッドフォッド(National Eisteddfod of Wales)です。この大会も様々な音楽のジャンルのコンテストを複合的に持ちその中に金管バンド部門があります、さらにこのコンテストを終えると9月に待ち構えているのが英国金管バンド史上最古のコンテスト、そして英国でも勝ち抜くのが最も厳しいと言われるブリティッシュ・オープン(British Open)です。

今週はこれらウェールズ生まれのコンテストと英国でも最も歴史のあるコンテストをご紹介します。

8月ウェールズ・アイテッドフォッド(National Eisteddfod of Wales)

驚くべきことにこのコンテストの歴史を紐解くと、今から約900年前の1176年に開催されたという記録が残っています。毎年8日間に渡り開催されるコンテストで、参加者は約6,000人、観客は15,000人にも上るウェールズのみならず欧州においても最大規模のイベントの一つです。

ウェールズは1282年にイングランドに事実上の併合をされてからその言語であったウェールズ語はどんどん話されなくなっていきましたが、2011年よりウェールズ措置法によりウェールズ語に公的位置が与えられ、下の動画のようにウェールズという一つの国や地域として何かを行う際は英語とウェールズ語を必ず併記するようになりました。

このコンテストも英国にある他コンテスト同様にチャンピオンシップ・セクションと、ファーストからフォースまでの全5つのセクションに分かれています。ルールとしては他のコンテストと似て

  • 25名の金管楽器奏者と必要なだけの打楽器奏者(基本編成の3人以下、以上でも可)
  • 課題曲は無し
  • チャンピオンシップ及びファースト・セクションは20分以内最低3曲のプログラムで演奏
  • 他セクションは15分以内最低3曲のプログラムで演奏
  • 主催者の許可がない限り参加者はバンドのユニフォームの着用が必要
  • 奏者は自身が籍を置くバンドに加えてエキストラとして2バンドでの出場が可能⁂

⁂英国の金管バンド奏者はバンドに所属するときにThe Brass Band Players Registryという金管バンド奏者登録協会を通じて自身の奏者カードを受け取ります。このカードがあることで、どの奏者がどのバンドに籍を置いているかが明白となり、コンテストの際の奏者の重複などの不正がされないようになっています。

賞金はチャンピオンシップ・セクション及びファースト・セクションで1位に£750、2位には£500、3位は£300となっており、その他のセクションでは1位£500、2位£300、3位£200です。

9月ブリティッシュ・オープン(The British Open)

2つ前の記事でご紹介したスプリング・フェスティバルの最上位コンテストがこのブリティッシュ・オープン・ブラスバンド・チャンピオンシップ(通称ブリティッシュ・オープンまたはオープン)です。音楽業界的にも英国のみならず世界的に最も初期に始まったコンテストとしても有名でその初年度は1853年、日本はまだ江戸時代の嘉永6年でペリーが黒船で浦賀に来航した年です。

始まった当初はマンチェスターのベレ・ヴーで開催されていましたが、1997年に現在の場所であるバーミンガムのシンフォニー・ホールにその場所を移しています。

最初期はたった8バンドしか出場していなかったこのコンテストですが、1880年代中頃になるとおよそ40団体以上が参加を希望するような大規模なコンテストとなったため、1921年~1922年にかけ先述したグランド・シールド並びにスプリング・フェスティバルという7月開催のブリティッシュ・オープン下位コンテストを開催、そうすることでその出場バンド数を分散、さらにコンテストの難易度をより上げることに成功しました。

英国国内でも最も勝ち上がることが難しいとされるコンテストで、そもそも英国内ではスプリング・フェスティバルに含まれる3つのコンテストを勝ち上がることでしかこの最上級クラスのブリティッシュ・オープンに出場することはできません。

またそのふるいにかけられたバンドたちの中で1位を決めるコンテストということで、課題曲の難易度は超高難度、さらに毎年その難易度は増すばかりで、筆者も2度出場経験がありますが、演奏にとても神経を使うような曲ばかりでした。

このオープンも全英大会やその前哨戦の地区大会同様自由曲無しの課題曲のみの演奏で、審査員たちは丸一日、2023年で言えば17団体にも及ぶバンド全て同じ課題曲を聞き審査をし、また観客たちも17団体全て同じ曲のコンテストを聴くこととなります。そのため人気のないバンド演奏の際は露骨に会場から人が減り、残るのはそのバンドのサポーターや親族だけで残りの観客は休憩などに出掛けてしまうほどです。

今年2023年9月のオープンも日本でも有名な歴戦の強いバンドたちが出場します。

また今年の課題曲はフランス人作曲家シエリー・デレリエル(Thierry Deleruyelle)作曲の砂と星々(Sand and Stars)という2023年5月の欧州選手権で優勝したバンドが自由曲として選んだ作品です。

ここからバンド譜の購入やスコアが少し見られます。

もし実際にライブでご視聴になりたい方はクレジットカードとPCかスマフォがあればこちらからライブ観戦も可能です。

WoB Play

https://wobplay.com/

また実際に2023年9月9日にバーミンガムで観戦したい方は以下のリンクよりご予約してみてください。

B:Music

https://bmusic.co.uk/events/169th-british-open-brass-band-championships#booking-info

2019年の映像

今週の2つのコンテストはいかがでしたでしょうか?両方とも歴史も古く、伝統的なコンテストで多くの奏者たちや金管バンドファンたちにいまだに深く愛されているコンテストです。またこうしたそれぞれのコンテストが英国金管バンドのレベルの底上げに深く関わってきていることがお伝えできたかと思います。筆者自身書いていて出場していた留学時代を思い出してワクワクします。

さて、9月のコンテストに入り、英国金管バンドもコンテスト・シーズンを迎えます。次週も素晴らしいコンテストが目白押しの英国金管バンドコンテスト・シリーズ、ぜひお楽しみにお待ちください。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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