【金管バンドナビ】#16 英国金管バンドのコンテスト③

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

前々回からご紹介しています英国金管バンドのコンテスト集ですが、今回は第3回目ということで4,5月に開催されるコンテストをご紹介します。イギリス、もといヨーロッパではキリスト教のイースター・ホリデー(イエス・キリストの復活祭)に合わせ日本の春休みのように学校も長期の休みに入ることからバンド活動も活発化し、コンテストシーズンも盛り上がりを見せるのです。それでは今週も見ていきましょう。

4月全英ユース・コンテスト(National Youth Brass Band Contest)

毎年春にかけて開催されるユース(Youth=18歳以下のための)コンテストです。今年度は以下の3つのセクションに分かれています。

ショーケース・セクション(Showcase Section)

その年によって変わりますが、今年度はベッソン(Besson)がスポンサーとして開催されたこのセクションには競技性はなく、コンテストというプレッシャーから離れたところで演奏の機会を持ってもらうこと、そしてこのセクションに出場する全ての奏者にポジティブな演奏経験を持ってもらう事でより楽器演奏の楽しみを見出してもらうことを目的に作られたセクションです。どのレベルのバンドも出場を認められ、さらに言えば後述する2つのコンテストに出場したバンドでも出場が可能です。

また4名まで補助要員または首席のパート以外でのエキストラ奏者として大人の出場が認められています。基本的には金管バンドで使われる金管楽器と打楽器を推奨されていますが、トランペット、フレンチホルンやプラスチック製金管楽器での演奏も認められています。

パフォーマンス・セクション(Performance Section)

このセクションは主にコンテストに出場する上での入門編と位置付けられており、特に決められた課題曲などは無く自由に選曲をすることができます。また若い奏者に近い将来吹くことになるであろう難易度の高い最新の曲を吹く前に、金管バンドのオリジナル・ピースに触れてもらう機会ともなっています。

前述の通り課題曲はありませんが、15分の制限時間の中に最低でも1曲金管バンドオリジナル・ピースを入れることが決められています。またショーケース・セクションと同様に、2人まで大人の補助員やエキストラ奏者の参加が認められています。また楽器構成のルールもショーケース・セクションと同様です。

チャンピオンシップ・セクション(Championship Section)

このセクションでは若い奏者たちに高い基準での演奏機会を持ってもらうこと、また今後大学のバンドや一般のバンドでの演奏活動をしていく上での最後のステップとして設置されています。

このセクションもパフォーマンス・セクション同様課題曲はありませんが、20分間の制限時間の中に最低でも8分以上の金管バンドオリジナル・ピースを組み込むことが決められています。このセクションで優勝したイングランドのバンドはイングランド代表として翌年のヨーロピアン・ユース・ブラスバンド・コンテストへの出場権を与えられます。

2023年今年の様子

5月欧州選手権(The European Brass Band Championships)

1978年から開催されているコンテストで、その年のベスト・ヨーロピアン・バンドを決めるコンテストです。その年によって出場国は変わり、1978年当時はオランダ、ノルウェー、スイス、デンマーク、イングランド、ウェールズ、アイルランド、ベルギー、スコットランド、北アイルランド、スウェーデンの11ヶ国でしたが、

2023年のチャンピオン・セクション出場国はスイス、イングランド、ノルウェー、ウェールズ、ベルギー、オーストリア、フランス、スウェーデン、スコットランド、デンマーク、ドイツ、オランダ、イタリアと全16ヶ国が出場しました。

また欧州大会の下位セクションであるチャレンジ・セクションではイタリア、スペイン、北アイルランド、リトアニアと両コンテストともに出場国の数は年々増え、さらにその演奏レベルも軒並み上がっています。

基本的に欧州選手権へ出場するための条件として、各国の全国大会(National Contests)での優勝が必須ですが、英国だけは例外で、

  • 9月開催のブリティッシュ・オープンにおけるイングランドの最上位バンド
  • 3月開催の全英大会地区予選におけるウェールズ地区およびスコットランド地区優勝バンド

上記が選出条件となっていて、3つの国(地域)の代表とそこに前年度の欧州選手権優勝バンドを加え、最大4バンドが英国内からエントリーできる可能性があります。

また毎年開催国出身の作曲家が課題曲を作曲し、それと合わせて各バンドが選ぶ自由曲の演奏も行います。このチャンピオン・セクションでは初日に課題曲、2日目に自由曲と2日間にわたり競い合うのです。

こちらより過去の優勝バンドの記録が見られますが、発足して最初の10年はイギリスの国々が優勝を独占していましたが、ノルウェーやベルギーなど他金管バンドの歴史の長い国々も優勝し始め、徐々に英国一強ではなくなってきたことも面白いところです。今年2023年もスイス・チャンピオンでもあるBrass Band Treize Etoilesが欧州大会を制し、昨今の英国以外での欧州金管バンドのレベルの高さを証明しました。

下の動画では来年2024年、バルト三国では初の開催であるリトアニア西部のリゾート地パランガでのPR動画です。欧州選手権の雰囲気や盛り上がりが期待できる素晴らしい動画となっていますので、ぜひご覧ください。

5月スプリング・フェスティバル(Spring Festival)

金管バンド界最古のコンテストである9月のブリティッシュ・オープン(British Open)の下位大会にあたる総称スプリング・フェスティバルは3つのセクションに分かれており、上位から

  • グランド・シールド(GRand Shield)
  • シニア・カップ(Senior Cup)
  • シニア・トロフィー(Senior Trophy)

となっています。

例えばグランド・シールドで優勝した上位2団体は9月開催のブリティッシュ・オープンにおける最下位2団体と入れ替わります。またシニア・カップとシニア・トロフィーの間は4バンドずつ成績次第で交代が起きます。また最下層であるシニア・トロフィーにおいても下位6団体は除外され、運営が新たに招待する6団体と入れ替わりが起きます。

このように熾烈な戦いが繰り広げられるスプリング・フェスティバルは毎年バンドの入れ替わりが激しく、また課題曲のどれも難易度の高いものになっています。例えば前年度のブリティッシュ・オープンで使用された課題曲がたった7ヶ月後にはグランド・シールドの課題曲となったりと英国金管バンドのレベルの高さの要因の一つになっています。

今週は3つのコンテストをご紹介しました。どれも特色豊かで、とくに難易度や年齢などによってコンテスト中でもセクション分けされているのが特徴的です。次週もさらに金管バンドのコンテストについて深掘りしていきますのでぜひお楽しみにお待ちください。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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