【吹奏楽ナビ】#86 作曲家 真島 俊夫②

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皆さま、こんにちは。

前回に引き続き、作曲家の真島俊夫さんをテーマに、吹奏楽コンクールの自由曲として全国大会で多く演奏されたことのある作品を、コンクールでの名演を通してご紹介します。

三つのジャポニスム

三つのジャポニスム
I.鶴が舞う II.雪の川 III.祭り
作曲:真島 俊夫


全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:春日部共栄高等学校吹奏楽部
指揮:都賀 城太郎

三つのジャポニスム は、2001年に東京佼成ウインドオーケストラの委嘱作品として作曲され、同年4月に開催された第68回定期演奏会においてダグラス・ボストック氏の指揮で初演されました。「鶴が舞う」「雪の川」「祭り」の3つの曲によって構成され、日本的な題材を西洋的技法で表現した作品となっています。後に、作曲家自身によるリアレンジで、コンクールでの演奏のためにオリジナルのテイストを損なうことなく再編集し、演奏時間を短縮した「三つのジャポニスム コンポーザーズ・エディション」という版も生まれました。

西関東支部・埼玉県を代表する強豪校である春日部共栄高校は、1990年代から2000年代前半までの自由曲はオーケストラ作品の編曲版がほとんどでしたが、2004年に邦人作品を選んでから2010年代まではほとんどの自由曲が邦人作品になっており、2005年は初めての真島作品として 三つのジャポニスム を演奏しました。
I.鶴が舞う《0:00~》の冒頭からキレの良いサウンドによって和の世界が広がります。II.雪の川《1:58~》は静寂の中で侘び寂びの風景が見えるような繊細な空気感が漂っていて、2:36のソプラノサクソフォーンのソロはプロでもかなりの難所でウルトラGクラスなのですが、高音Gの音がさらりと当たっていて素晴らし過ぎます。ここから III.祭り《3:18~》の熱狂ぶりの対比が素晴らしく、4:57で一旦落ち着いて木管楽器の美しいソロを堪能した後、青森のねぶたのリズムが聴こえてきて段々と盛り上がっていき、6:48のティンパニソロの乱れ打ちから熱狂が狂乱の域まで達してからは最後まで駆け抜けていって曲が終わります。コンクールとしての完成度も相当に高く、同校のトップクラスの名演だと思います。

鳳凰が舞う

鳳凰が舞う は、2005年に川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団の委嘱作品として作曲され、同年12月に福本信太郎さんの指揮で初演されました。「三つのジャポニスム」と同様に、日本的な題材を西洋的技法で表現した作品で、2006年にフランスのリールで開催された「第2回交響吹奏楽団のためのクードヴァン国際交響吹奏楽作曲コンクール」にエントリーし、グランプリを受賞した作品です。

川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団 (2006年)

鳳凰が舞う
印象、京都 石庭 金閣寺
作曲:真島 俊夫


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団
指揮:福本 信太郎

鳳凰が舞う の全国大会初演団体は、この曲を委嘱した川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団です。この演奏をCDで初めて聴いた時の最初の感想としては「三つのジャポニスムにそっくりな曲!」でした。最初の速い部分のリズム、ソプラノサクソフォーンのソロ、終盤で盛り上がるところがほとんど同じ位置の構成になっていたことが一番の理由で、2006年の時点では 三つのジャポニスム が全国大会でもよく演奏されていたので、次は 鳳凰が舞う が流行るのだろうと思ったのですが、実はこの曲は技術的な難易度が相当に高いということを後に思い知らされます。
川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団の演奏は確かな技術に支えられた圧倒的なトゥッティサウンドと個々の音楽性が融合し、指揮の福本信太郎さんの隙のない音楽作りと見通しの良いバランス設計によってこの曲を見事に表現した名演だと思います。

春日部共栄高等学校 (2008年)

鳳凰が舞う
印象、京都 石庭 金閣寺
作曲:真島 俊夫


西関東吹奏楽コンクール
2008年(第14回大会) 金賞・代表
演奏:春日部共栄高等学校吹奏楽部
指揮:都賀 城太郎

春日部共栄高校が再び真島作品を自由曲に選んだのは2008年で、鳳凰が舞う を選曲します。全国大会の演奏ももちろん素晴らしいのですが、今回はホールの響きと相性が良かったと思われる西関東支部大会での演奏をご紹介しようと思います。この年の春日部共栄高校は木管・金管・打楽器全てにおいて技術的なレベルが相当に高く、この難曲を普通にさらりと演奏していることに驚かされます。特に、この曲のホルンはソロを含めて相当難しいと思われるのですがほとんどノーミスでこなしており、木管楽器の各ソロの技量も申し分ないレベルの高さです。全国大会では惜しくも金賞に届きませんでしたが、普門館のデッドな響きとの相性か、パワフルで音圧溢れる木管楽器、特にクラリネットがその音圧ゆえに生音寄りに聴こえるバランスになってしまったことも影響しているかもしれません。しかしながら現在まで 鳳凰が舞う が高校の部の全国大会で演奏されていないことを考えると、もの凄いレベルの名演だったと思います。

Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~

Mont Fuji(富士山)は、相模原市民吹奏楽団の委嘱作品として作曲され、2014年12月に福本信太郎さんの指揮で初演されました。真島俊夫さんの作曲手法のひとつである「日本の旋法と西欧のハーモニーの融合」を追求したシリーズの第三作で、「三つのジャポニスム」、「鳳凰が舞う」に続いて題材としたのは富士山。日本人にとって特別な思いのある富士山、雄大なその姿を見事に表現した作品となりました。副題の「北斎の版画に触発されて」は、真島俊夫さんが敬愛する作曲家の一人であるドビュッシーが、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」にインスピレーションを得て「海」を作曲したという逸話に基づいています。

船橋市立船橋高等学校 (2016年)

Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~
作曲:真島 俊夫


東関東吹奏楽コンクール
2016年(第22回大会) 金賞
演奏:船橋市立船橋高等学校吹奏楽部
指揮:高橋 健一

私が Mont Fuji(富士山)という曲があることを知ったのは、2015年にコンクール東関東支部大会で相模原市民吹奏楽団が演奏していたという情報を得た時でした。その翌年の2016年に東関東支部大会高校A部門を聴きに行った時、プログラムを見てこの曲が演奏されるのを知り、初めて聴いた演奏が船橋市立船橋高校の演奏でした。冒頭の重厚な低音群から始まるメロディ、勇ましく威厳のあるホルンセクションのメロディ、腹の座ったどっしりとしたトゥッティサウンドによってそびえ立つ富士山の姿が見えるような素晴らしい演奏で、私がこの曲を好きになるきっかけを作ってくれた演奏です。

作新学院高等学校 (2017年)

Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~
作曲:真島 俊夫


東関東吹奏楽コンクール
2017年(第23回大会) 金賞
演奏:作新学院高等学校吹奏楽部
指揮:三橋 英之

栃木県を代表する東関東支部の強豪校である作新学院高校は真島作品を得意としている印象が強く、三つのジャポニスム は過去に3回自由曲で演奏しており、Mont Fuji(富士山)に至っては2016年、2017年と2年連続で自由曲に選んでいます。作新学院高校の演奏は真島作品にぴったりの変幻自在でパワフルさと繊細さを併せ持つサウンドが特徴で、フランス的なお洒落さを感じさせる音楽性が素晴らしいと思わせる演奏です。

東海大学付属札幌高等学校 (2017年)

Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~
作曲:真島 俊夫


全日本吹奏楽コンクール
2017年(第65回大会) 金賞
演奏:東海大学付属札幌高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳

Mont Fuji(富士山)の全国大会の名演として真っ先に思い浮かぶのが、東海大学付属札幌高校の演奏です。同校の特徴である北の大地を思わせる雄大で懐の深いトゥッティサウンドがこの曲にぴったり合っているのですが、この年はそれだけでなく同校の歴代の演奏の中でも特に個々のレベルが高く、音楽にアグレッシブさを感じられて表現に攻めの姿勢が見えながら繊細なサウンドや表現も併せ持ち、それでいてコンクールとしての完成度が高いというなかなか到達できない次元の演奏だと思います。この曲が広く演奏されるきっかけの一つとなった名演として、私の記憶に強く残っています。

あとがき

いかがでしたでしょうか。真島俊夫さんが作曲した、吹奏楽コンクールの自由曲として全国大会で多く演奏されたことのある作品を、コンクールでの名演を通してご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。