皆さま、こんにちは。
今年から、次年度の全日本吹奏楽コンクールの課題曲の販売開始時期が今までの1月末から2月末へと変更になり、課題曲界隈にちょっとした変革がありました。私はまだ演奏機会が無いのですが、演奏動画を視聴して全4曲の詳細を知ることができました。今年の課題曲は例年よりもそれぞれの個性が際立っていると思いましたが、中でも課題曲Ⅰは『和』を思わせるハーモニーやフレーズが特徴的な作品です。そこで今回は、課題曲を攻略するヒントの1つとして、過去の課題曲の中から和風な作品と、その名演をご紹介しようと思います。雰囲気の作り方や解釈など、通ずるものがあるかと思いますので、参考にしていただければ幸いです。

1980年 吹奏楽のための「花祭り」
課題曲A:吹奏楽のための「花祭り」
作曲:小山 清茂
全日本吹奏楽コンクール
1980年(第28回大会) 金賞
演奏:群馬県立前橋商業高等学校吹奏楽部
指揮:大木 隆明
代表作である 吹奏楽のための「木挽歌」(原曲は管弦楽のための「木挽歌」)が大変有名で、神楽や民謡、祭囃子をモチーフにした日本情緒に満ちた温和な作風に特徴がある、作曲家の小山清茂さんが作曲した1980年度の課題曲Aで、「奥三河(愛知県)に伝わる花祭りの郷土芸能を素材とし、祖先の息吹に触れたいとの願いをこめて作曲した」(フルスコアより)とのことです。
フルートソロや素朴な民謡調のメロディ、和の打楽器によるリズムが祭りそのもので、そこで祭りを見ているような体験ができる曲です。大木隆明先生時代の群馬県立前橋商業高校は小山清茂作品を得意としており、和の空気感の表出が大変素晴らしくてこの曲の良さを最大限に引き出しています。
1984年 吹奏楽のための土俗的舞曲
課題曲B:吹奏楽のための土俗的舞曲
作曲:和田 薫
全日本吹奏楽コンクール
1984年(第32回大会) 金賞
演奏:関西学院大学応援団総部吹奏楽部
指揮:田中 良紀
演奏会用音楽から映画音楽、「金田一少年の事件簿」「犬夜叉」などの劇伴音楽まで幅広いジャンルにわたり活躍する人気作曲家の和田薫さんが作曲した1984年度の課題曲Bで、初めて日本的な書法で作曲した作品とのことです。
冒頭の特徴ある激しいリズムに興奮し、中間部の日本的なメロディとの対比が際立っていて素直にかっこいいと思える曲ではないでしょうか。関西学院大学の演奏は快速なテンポによってスピード感に溢れた爽快な部分と中間部の歌い込みの対比が見事で、この曲の良さがよく分かる演奏になっています。
1996年 般若
課題曲Ⅱ:般若
作曲:松浦 欣也
全日本吹奏楽コンクール
1996年(第44回大会) 金賞
演奏:札幌白石高等学校吹奏楽部
指揮:米谷 久男
作曲当時は北海道旭川市の小学校教諭であった松浦欣也さんが作曲した1996年度の課題曲Ⅱで、「能面の般若のイメージから、怒り、悲しみ、歓喜等の喜怒哀楽を音として表現したものです」(フルスコアより)とのことです。
メロディが分かりやすい日本的なものという訳ではないですが、打楽器の使い方やフルートソロ、そして曲全体の表現方法が日本的に感じさせる曲だと思います。札幌白石高等学校の演奏は全編で緊張感を保ちながら各部のメロディの歌い方や各場面の空気感がずば抜けて素晴らしく、コンクールの枠を超えて1つの作品として聴くことができる貴重な演奏だと思います。
2000年 をどり唄
課題曲Ⅱ:をどり唄
作曲:柏崎 真一
全日本吹奏楽コンクール
2000年(第48回大会) 金賞
演奏:大津シンフォニックバンド
指揮:森島 洋一
武蔵野音楽大学のトロンボーン専攻を卒業され、作曲・編曲家としても活動されている柏崎真一さんが作曲した2000年度の課題曲Ⅱで、千葉県佐原市に300年近く続いている「佐原の大祭」で演奏される「佐原囃子」を伴奏に踊らされる「手古舞」の旋律を基に作曲されたとのことです。
全曲を通してトゥッティ(総奏)がとても多い作品で、トゥッティで演奏される素朴なメロディは懐かしさを感じさせながらも感動的で、吹奏楽の良さが存分に堪能できる曲だと思います。大津シンフォニックバンドは和風な作品を得意としている印象が強く、スケールの大きなトゥッティサウンドの力強さがこの曲にぴったりで曲の良さを最大限に引き出しています。
2014年 「斎太郎節」の主題による幻想
課題曲Ⅲ:「斎太郎節」の主題による幻想
作曲:合田 佳代子
全日本吹奏楽コンクール
2014年(第62回大会) 金賞
演奏:横浜創英中学・高等学校吹奏楽部
指揮:常光 誠治
大阪音楽大学大学院の作曲研究室を修了され、作曲・編曲活動の他にピアニストとしても活動されている合田佳代子さんが作曲した2014年度の課題曲Ⅲで、宮城県民謡でカツオ漁の大漁を祝う大漁唄として有名な「斎太郎節」を主題とした幻想曲になっています。
「斎太郎節」のメロディのシンプルさと曲の作りのシンプルさが相まってか、2010年代の曲なのに昭和の香りが漂う曲で、初めて聴いた時から私にはとても懐かしさを感じる曲でした。横浜創英中学・高校の演奏は曲のシンプルさに溢れる歌心と常光先生の名タクトによる緩急が加わった名演で、全国大会の会場で聴けたことが幸せでした。
あとがき
いかがでしたでしょうか。私が課題曲の和風な作品の中で特に印象に残っている作品と演奏を5つご紹介しました。
次回は、昨年もご紹介した「マーチ」の第2弾をご紹介する予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。