【吹奏楽ナビ】#34 全日本吹奏楽コンクール課題曲① マーチ

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皆さま、こんにちは。

3月になってだんだんと春が近づいてきましたが、いかがお過ごしでしょうか。

私は例年この時期になると次年度の全日本吹奏楽コンクールの課題曲を購入しているのですが、今年は2月末に東京佼成ウインドオーケストラの「課題曲コンサート2024」に出演したことで例年よりも早く課題曲に触れることができました。お読みいただいている皆様も来年度の課題曲に注目している時期だと思いますので、今回は課題曲に注目して歴代の課題曲の中から私の好きな作品と、その名演をご紹介しようと思います。好きな作品ということで、特に私の中高生時代の曲には思い出補正が入ってしまっていることをあらかじめご理解いただけますと幸いです。

さて、全日本吹奏楽コンクールの課題曲は大きく分けて「マーチ」「マーチ以外」の曲に分かれるのですが、今回は「マーチ」の分類になる課題曲をいくつかご紹介しましょう。

1999年 行進曲「K点を越えて」

課題曲Ⅳ:行進曲「K点を越えて」
作曲:高橋 伸哉


1999年 課題曲参考演奏
演奏:大阪市音楽団
指揮:木村 吉宏

私が初めて課題曲に取り組んだ1999年の曲で、いわゆる「課題曲マーチ」の代表的な作品で後の課題曲マーチにも多大な影響を与えた作品と言えると思います。口ずさめるほどの親しみやすいメロディに加えて、オブリガードのかっこよさが際立っていて演奏したいと思う曲です。実際に演奏してみると冒頭のトランペットとホルンのファンファーレが鮮やかに聴こえるか、メロディの4分音符のスタッカートで軽快かつ弾ける表現ができるかなどが参考演奏を聴いた感じよりも相当に難しく、全国大会の演奏でもかっこよく決まっている演奏はなかなかありませんでした。

全国大会での名演としては淀川工業高校や伊奈学園総合高校などが思い浮かぶのですが、私の中では1999年の大阪市音楽団の参考演奏が歴代のマーチの参考演奏の中でもトップクラスに素晴らしい演奏だと思っていて、この演奏のイメージが今でも強烈に残っていますのでこちらの参考演奏をご紹介します。

実はこの曲のスコア上の指定テンポは [四分音符=120-126] となっているのですが、参考演奏のテンポは四分音符=138ぐらいという指定よりもかなり速いテンポで演奏されています。作曲者がこのテンポでOKしたのか、指揮者や演奏者の意向かレコーディングの流れでこのテンポになったのかは分からないですが、結果的にこのテンポでの演奏が曲の魅力を更に引き出してたくさんの団体がこの課題曲を選択することになり、全国大会でもこのテンポでの演奏が主流となったことを見ると、参考演奏がコンクールでの演奏に多大な影響を及ぼした大変珍しい例と言えるでしょう。

1997年 五月の風

課題曲Ⅲ:五月の風
作曲:真島 俊夫


全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 金賞
演奏:川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団
指揮:近藤 久敦

課題曲の8分の6拍子のマーチといえば真っ先にこの曲が出てくるぐらいに有名な作品で、課題曲という分類でなくてもコンサートで演奏される機会が多い曲だと思います。爽やかな風を想像させる曲調の随所に真島さんの特徴の転調やおしゃれさが詰まった魅力溢れる曲になっています。私が東京佼成ウインドオーケストラのある演奏会でこの曲を演奏できた時は大好きな曲だったこともあって感無量でした。実際に演奏してみると冒頭の8分の6拍子のリズムをかっこよく聴こえさせるのが大変難しく、課題曲に相応しいやりがいのある曲だと思います。

私が初めてこの曲を聴いた演奏ということもあるのですが、川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団の全国大会での演奏をご紹介します。8分の6拍子のリズム感が抜群に良く、迫力がありながら繊細さも併せ持っていてコンクールとしての完成度も高いというこの上ない演奏だと思います。トリオ2回目のピッコロソロを複数名で演奏するという人数の多い一般バンドならではの試みや、リタルダンドをうまく使った劇的な表現などの個性豊かな演奏でもあり、今でも語り継がれる名演だと思います。

1993年 マーチ・エイプリル・メイ

課題曲D:マーチ・エイプリル・メイ
作曲:矢部 政男


全日本吹奏楽コンクール
1993年(第41回大会) 金賞
演奏:札幌白石高等学校吹奏楽部
指揮:米谷 久男

中学生で初めて課題曲を演奏してから昔の課題曲はどんな曲だったのだろうと興味がわいて、「吹奏楽コンクール課題曲集」というCDを新しい順に購入して聴いていた時にこの曲と出会いました。とにかく親しみやすいメロディが魅力的で、シンプルでいて上手に聴かせるには奥が深い曲だと思います。1993年はマーチのみ4曲が課題曲となった初めての年なのですが、全国大会では約半数の46.1%の団体がこの曲を演奏するというこの年の一番人気の曲でした。

こちらも私が初めてこの曲を聴いたCDの演奏で、札幌白石高校の全国大会での演奏をご紹介します。札幌白石高校の演奏は爽やかでありながら歌心に溢れていて、聴いていて心が温まる名演だと思います。

2005年 マーチ「春風」

課題曲Ⅱ:マーチ「春風」
作曲:南 俊明


全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部
指揮:丸谷 明夫

近年の課題曲は曲の構成や楽器の使い方などが凝っている曲が多くなってきた印象なのですが、この曲は純粋にシンプルで爽やかな正に曲名通りの曲だと思います。親しみやすい曲調でありながら技術的に演奏しやすい難易度だったこともあり、この年の全国大会中学の部では半数以上の69%の学校がこの曲を演奏するという大人気の曲となりました。

淀川工業高校はこの手の曲を演奏させたら敵なしと言えるほどに課題曲マーチが上手で、屈託のないストレートな音楽表現がこの曲の良さを最大限に引き出していると思います。春に吹く風のように駆け抜けていくスピード感と、マーチを聴いた時のワクワク感に浸れる名演だと思います。

1995年 行進曲「ラメセスⅡ世」

課題曲Ⅰ:行進曲「ラメセスⅡ世」
作曲:阿部 勇一


全日本吹奏楽コンクール
1995年(第43回大会) 金賞
演奏:愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部
指揮:松井 郁雄

課題曲のマーチのイメージである軽快で爽やかとは真逆の超重量級の行進曲で、特に金管楽器の難しさと演奏できた時のかっこよさは他に比類がないほどの曲だと思います。この年の全国大会高校の部では半数以上の62.1%の学校がこの曲を演奏するという人気曲で、たくさんの強豪バンドがこの曲に挑戦しました。現在はマーチ2曲とマーチ以外2曲という構成になっていることもあってオーソドックスな課題曲マーチらしい作品が多く選ばれている印象なので、行進曲「ラメセスⅡ世」のような特徴的で重量級のマーチを課題曲として聴いてみたいという気持ちがあります。

松井郁雄先生時代の愛知工業大学名電高校はパワフル過ぎるぐらいの金管楽器の音圧とスタミナを兼ね備えていて、曲の冒頭から咆えまくるホルンとトランペットを中心とした金管楽器セクションのパワーは圧巻です。それに負けない木管楽器セクションの音圧も素晴らしく、バンドの実力が最大限に発揮された名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。私が課題曲のマーチの中で特に印象に残っている作品と演奏を5つご紹介しました。

次回は、「マーチ以外」の作品と名演を紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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