【金管バンドナビ】#43 コンテストシーズン2024開幕その④

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

みなさま、今季のコンテストシーズンも楽しまれているでしょうか?今年も大盛り上がりをみせる英国コンテストシーズンですが、今回は英国全土より地区予選を勝ち抜いたバンドによる決勝戦、全英大会決勝(National Brass Band Championships of Great Britain Final)、本日は最上級クラスであるチャンピオン・セクションと第3、第4セクションをご紹介します。

今年の各セクションの優勝バンドはどのバンドになったのか、要注目です!

全英大会決勝2024チャンピオン・セクション

今年のチャンピオン・セクションの課題曲は、ピーター・グレアム作曲の『ハリソンの夢』(Harrison’s Dream)です。この曲は今より24年前の2000年10月に開催された全英大会決勝チャンピオンシップ・セクションのために作曲を委嘱された作品でした。

これまでの歴史上全くないわけではありませんが、同じコンテストで過去に課題曲として設定された曲が再度選曲されることは稀な事で、今回の『ハリソンの夢』は2度目の選曲となりました。

この作品の物語は16世紀、当時大航海時代真っ只中であったヨーロッパにおけるイギリスでは船の海難事故が多発していました。船は何隻も沈み、多くの船員たちが命を落としていました。

そんな中この海難事故を防ぐため、1714年にアン女王治世期のイギリス議会によって、船舶の経度を測定できる装置を開発したものに懸賞金を払うとした『経度法』という法律が制定されました。

当時フランスと戦争中であったイギリスにとって海を渡った先にあるフランスとの戦いでは船の正確な位置どりは必要不可欠であり、ある時は一度に4隻の船と1,000人以上の犠牲を出す海難事故が起きたりなどしていました。

John Harrison (1693-1776)

この問題に挑戦したのが課題曲のタイトルにもなっているジョン・ハリソン(John Harrison)、彼は当時高精度な時計の研究・開発をしていた時計職人でした。

ハリソンはその後40年もの月日を使い、ついに海上でも正確な時計による計測の開発に貢献し、当時の英国国王ジョージ3世より懸賞金を授与されました。

このジョン・ハリソンの史実、そしてアメリカ人執筆家『ダーヴァ・ソベル』(Dava Sobel)が書いたジョン・ハリソンの挑戦が題材となった『経度への挑戦』(Longitude)がこの曲の題材となっています。

以下の音源は、初演である2000年開催の全英大会決勝チャンピオン・セクションで優勝したコーリーバンドの演奏です。

結果発表

今年も英国各地より勝ち上がってきた20バンドが集い、覇を競い合いました。

注目は2021,2022年と連覇したFoden’s Band、そして昨年王者のBlack Dyke Band、そしてウェールズ(英国の四つある国(地域)の中の一つ)のバンドでは史上唯一優勝経験があるCory Bandです。

今年の優勝はどのバンドになったのでしょうか!?

史上初が連発

最上級クラスであるチャンピオン・セクションバンド、その中でも選りすぐりのバンドたちが英国中より集まり競い合った全英大会2024決勝、今年の優勝バンドはなんとイングランド西部、さらにグロスターシャーのバンドとしては初の優勝であるFlowers Bandがバンド史上初あの偉大なトロフィーを獲得しました。

BBCによる記事

2位にはFoden’s Band、3位にはBlack Dyke Bandの順となりました。(以下の順位はこちらからご覧ください。)

9月に開催されたブリティッシュ・オープンの2位獲得から勢いづいていたFlowersですが、筆者自身このダークホースの台頭には本当に驚かされました。さらにベスト・ソリスト賞には同バンドの首席ユーフォニアム奏者ダニエル・トーマスが選ばれました。

今大会で勢いを得たFlowersが、11月開催のエンターテイメントコンテスト『Brass in Concert』でどのようなパフォーマンスを繰り広げるか楽しみです。4barsrest(金管バンド業界最大手ウェブサイト)による世界ランキングも10/1付けのものしかいまだアップされていないので、この全英大会でのポイント加算や、さらにもしBrass in Concertでも優勝ともなればFlowersの世界ランキングは上位3団体に食い込む可能性も残しています。2024年、大波乱の英国金管バンド界にまだまだ目が離せません。

全英大会決勝2024サード・セクション&フォース・セクション

さて、次にご紹介するのは全英大会決勝におけるサード・セクション(3rd Section)フォース・セクション(4th Section)です。下位のセクションではありますが、地区大会を勝ち残りこれからセカンド、ファーストへと成り上がりを期待して挑んでいる猛者バンドばかりですし、指揮者たちも上位のセクションで実際に奏者として演奏されている方々や引退した方々など歴戦の強者たちが集まっていますので、その演奏も激アツです。

サード・セクション2024

1960年にピーター・ヨーク(Peter Yorke)によって作曲された『造船所の男たち(The Shipbuilders)』が今年の課題曲として選曲されました。組曲形式の曲で以下の4曲によって構成されています。

  • ①鋼鉄の網(Web of Steel)
  • ②造船開始(The Launching)
  • ③一社総出(All Hands of Work)
  • ④処女航海(Maiden Voyage)

コンテストの課題曲としての歴史は1965年にブリティッシュ・オープンの一段階下のコンテストであるグランド・シールドの課題曲として使用され、全英大会では今年と同じくサード・セクションの課題曲として1973年以来51年ぶりに選曲されました。

こちらよりお試しでスコアをご覧になれます。

全英大会決勝サード・セクション2024結果

他セクション同様、全国各地から地区予選を勝ち残ってきた20団体が以下のバンドです。

サード・セクションではイングランド勢が優勢で、1位にはゴルボーン・ブラスバンド(Golbone Brass Band、イングランド北西部)、2位にはフルックバラ・バンド(Flookburgh Band、イングランド北部)、3位にクロイ・シルヴァー・バンド(Croy Silver Band、スコットランド)が並びました。

フォース・セクション2024

作編曲家、そして指揮者としても活躍し、ギフテッド(Gifted、秀でた才能を有するもの)として、若手音楽家の中でも要注目されているダニエル・ホール(Daniel Hall)が作曲をした『煙のデッサン(Smoke Sketches)』が2024年全英大会フォース・セクションの決勝戦課題曲として採用されました。

2017年に開催された全英ユースバンドコンテストの課題曲として作曲をされ、その後全英大会をはじめスイスやドイツの全国大会下位セクションの課題曲としても使用されている人気作品です。

全英大会決勝フォース・セクション2024結果

以下の20団体が今年のフォース・セクション決勝戦出場バンドです。

結果発表の前に少しだけ蛇足を一つ。上記リストの下から4番目のStalybridge Old Band(スタリーブリッジ・オールド・バンド)はなんと創団1806年、日本は文化6年つまり江戸時代で鎖国中です。創団より200年以上経つバンドから戦後にできた比較的新しいバンドなど新旧揃い踏みのフォース・セクションの結果はどのようなものになったのでしょうか?

注目の結果は、1位はロンドン&イングランド南部地域を制したベッツハンガー・バンド(Betteshanger Colliery Welfare Band)、2位はフォース・セクション・ウェールズ地区チャンピオンのホーリーウェル・バンド(Hollywell Band)、そして3位にはスコットランド・チャンピオンのボン・アコード・シルヴァー・バンド(Bon Accord Silver Band)が並びました。

終わりに

コンテスト特集2024全英大会編はいかがでしたでしょうか?チャンピオン・セクションから並ぶ全5セクションの全出場バンドや結果、さらに課題曲や過去の結果などは全てこちらからご覧になれますので、より詳細をご覧になりたい方はぜひご覧ください。また全英大会チャンピオン・セクションの録音は10月現在こちらから(英語、有料)お聞きいただけます。

英国全土から勝ち上がった各セクションのバンドたちがしのぎを削る全英大会、今年も激闘でした。英国全土ということで、強いバンドもそうですが、イングランド、スコットランド、そしてウェールズとさまざまな地域のバンドの特色なども楽しみながら聞かれるのもおすすめです。慣れてきますとそれぞれの特色を感じられ、ご自分の贔屓のバンドなんかも見つかるかもしれません。

さて、次回はエンターテイメントの覇者を競うブラス・イン・コンサート(Brass in Concert)、筆者もコーリーと共に出場経験がありますが、11月の真冬のニューカッスル(もう少しでスコットランドなイングランド北部)は極寒ですが、コンテストは激アツですし、各バンド趣向をこらしたステージ構成にも期待大です!

こちらも先述したWoB Playで配信をご覧になれますので、11/16夜ふかしの準備をしてぜひ観戦してみてください!

Wob Play(英語、有料)

今回もありがとうございました。それでは、また次回お会いしましょう!


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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