みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
日本全国で梅雨入りが発表され、本格的な雨の季節を迎えましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今回も金管バンドに関するさまざまな話題に加え、前回に引き続き、数々の名作オーケストラ作品を遺した大作曲家たちによる金管バンド作品をご紹介します。ぜひお気に入りの作品が見つかりましたら、ご自身のバンドのレパートリーに加えてみてください。
金管バンド情報

世界各国の金管バンド大国では怒涛のコンテストシーズンも徐々に終わりを迎え、これからの夏に向けてキャンプが盛んに開催される時期となりました。
こうしたキャンプは、一流の奏者や指揮者たちとともに過ごしながら学び、演奏を楽しむ、いわば夏合宿のようなものです。
コンテストシーズンの緊張感とは打って変わり、和やかな雰囲気が漂う季節が金管バンドの世界にも訪れています。
しかし、このような小休止の時期だからこそ、さまざまなニュースが飛び込んできます。まずは、筆者の古巣バンドでもあるCory Bandから、いくつか興味深い新情報が発表されました。
Cory Band 2026
現在世界ランキング4位につけるCory Bandですが、この1か月の間に4名の奏者の入れ替わりがありました。
まずは、今年の全英選手権ウェールズ地区大会優勝の立役者の一人であり、同大会で最優秀コルネット奏者賞も受賞したハナー・プラムリッジ(Hannah Plumridge)が、グライムソープ・コリアリー・バンド(Grimethorpe Colliery Band)へ移籍することが発表されました。

現ブラック・ダイク・バンドの首席コルネット奏者であるトム・ハチンソンの後任としてカイル・ローソン(Kyle Lawson)が着任するまでの間、首席奏者としてCory Bandを支え続けたハナー。ついにはウェールズ地区大会でバンドの優勝に貢献するとともに、自身初となるプリンシパル・コルネット賞も受賞するなど大活躍を見せました。
そのハナーが、このたびグライムソープ・コリアリー・バンドへ移籍することとなりました。
グライムソープ・コリアリー・バンドは、かつて男性のみで編成する方針を掲げていた時代がありました。もっとも、これは同バンドだけが特別だったわけではなく、英国金管バンド界においては同様の伝統を持つバンドも少なくありませんでした。
そんな歴史を持つ同バンドにおいて、ハナーはバンド史上2人目の女性首席奏者となります。なお、初の女性首席奏者は、2018年9月に就任したキャスリン・ガスポズ(Kathleen Gaspoz)です。
一方でハナーが脱退したCory Bandでは、2ndユーフォニアムにカリ・ジョーンズ(Cari Jones)、1stバリトンにチャーリー・ボアックス(Charlie Boax)が加入。さらに、長年トレデガー・バンドなどで活躍してきたベテラン・コルネット奏者、ジェフ・ハッチャーソン(Jeff Hutcherson)も新たにメンバーに加わりました。
これにより、Cory Bandはこの1か月で実に4名の奏者を入れ替える大型補強を敢行したことになります。今後のコンサートツアー、そして7月のWorld Music Contestでの新体制のデビューに注目です。

World Music Contest 2026開幕まで、いよいよ1か月を切りました。

7月にオランダで開催されるWorld Music Contest 2026の開幕まで、いよいよあと1か月を切りました。世界中のトップバンドが集結する4年に一度の祭典を前に、各バンドの動向にも注目が集まっています。
コンテストについては以下の記事よりご覧ください。
まさか上記の記事を書いている時点では、自分自身がこのコンテストに出場することになるとは夢にも思っていませんでした。
しかし、大変光栄なことに、関西を拠点とする金管バンドImmortal Brass Eternally(通称IBE)とともに、金管バンド部門の最上位セクションへの推薦をいただき、出場させていただく運びとなりました。
Immortal Brass Eternally(通称IBE)の出場日程は、以下の通りです。
Immortal Brass Eternally(通称IBE)の出場日程は、以下の通りです。
■7月10日(金)
Fringe Concert
(コンテストとは別に開催されるエンターテインメントステージ)
■7月11日(土)
テストピース(課題曲)「Mirage / Jan de Haan」
※演奏順は当日の抽選によって決定されます。
■7月12日(日)
30分間の自由選択プログラム
(日本時間17時より)
ライヴストリーミングも実施される可能性があるようですので、ぜひ日本からの観戦、あるいは現地でお会いできることを楽しみにしております。
より詳しい情報につきましては、筆者運営の外部サイト(日本語)にまとめておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
クラシックの大作曲家たちが遺した金管バンド作品
それではここからは、金管バンドの歴史において重要な作曲家とその著作の一つをご紹介します。1913年の全英選手権課題曲として委嘱を受け、パーシー・フレッチャー(Percy Fletcher)が作曲した『労働と愛』(Labour and Love)。
この作品の誕生が後の作曲家たちに与えた影響は計り知れず、今日に至るまで数多くの金管バンド作品が生み出される礎となりました。
そんな『労働と愛』の成功とその後の発展に影響を受けたであろう作曲家の一人が、レイフ・ヴォーン ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams, 1872–1958)です(以後、RVW)。
(豆知識:ヴォーン・ウィリアムズは、自身の名前である「Ralph(ラルフ)」について、古い発音である「レイフ」と呼ばれることを好んでいたそうです。)
レイフ・ヴォーン ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams, 1872–1958)

「グリーンスリーヴスによる幻想曲」、「トマス・タリスの主題による幻想曲」、「揚げひばり」、そしてチューバ奏者にとって欠かすことのできない歴史的名作「ベース・チューバとオーケストラのための協奏曲」など、数々の名作を世に送り出したRVWは、管弦楽作品をはじめ、パイプオルガン作品、協奏曲、吹奏楽作品など幅広いジャンルに多くの作品を残した英国を代表する大作曲家の一人です。
このような偉大なクラシック作曲家も、金管バンドのためにオリジナル作品を残しています。それが『ブラスバンドのための変奏曲』(Variations for Brass Band)です。
この『ブラスバンドのための変奏曲』は、作曲家晩年の1957年に作曲された金管バンド作品で、同年の全英選手権の課題曲として委嘱されました。
もともとRVWは金管バンド特有の音色をあまり好んでいなかったと言われており、当初はこの依頼を断ったそうです。しかし後にこれを受諾し、結果として今日まで演奏され続ける名作が世に遺されることとなりました。
救世軍の音楽監督としても活躍したフランク・ライト(Frank Wright)は、「この作品は金管バンド界における新たな起点となった」と述べています。
おそらくこれは、1913年にパーシー・フレッチャーが作曲した『労働と愛』以来の歴史的な転換点という意味を含んでいるのではないかと筆者は推測しています。
演奏時間約11分の中に11もの変奏が盛り込まれており、冒頭で提示される12小節の荘厳な主題は、まるで讃美歌のような雰囲気をまといながら作品全体を通して繰り返し姿を現します。
Theme: Andante maestoso(荘厳なアンダンテ)
Variation 1: Poco tranquillo(やや穏やかに)
Variation 2: Tranquillo cantabile(穏やかに、歌うように)
Variation 3: Allegro(快活に)
Variation 4: Allegro(Canon)(快活に/カノン)
Variation 5: Moderato sostenuto(適度な速さで、音を十分に保って)
Variation 6: Tempo di valse(ワルツのテンポで)
Variation 7: Arabesque; Andante sostenuto(アラベスク/ゆるやかに、音を十分に保って)
Variation 8: Alla Polacca(ポロネーズ風に)
Variation 9: Adagio(ゆるやかに)
Variation 10: Allegro moderato (Fugato)(ほどよく快活に/フガート)
Variation 11: Chorale(コラール)
余談ですが、この作品をきっかけにフリューゲル・ホーンに心酔したと言われるRVWは、同年に作曲した交響曲第9番においてフリューゲル・ホーンのための長いソロを挿入したほか、サクソフォンを採用するなど、金管バンドから多大な影響を受けていたことがうかがえます。
1957年の全英選手権で課題曲として初めて使用されて以降も、本作は長きにわたり高い評価を受け続けてきました。最新の記録では、2022年のオーストラリア・ニューサウスウェールズ州選手権においても課題曲として採用されるなど、作曲から約70年が経った現在でもなお、その価値は色褪せることなく多くのバンドに演奏され続けています。
最後に
今回は、英国クラシック界を代表する作曲家の一人であり、その存在感は今なお色褪せることのないレイフ・ヴォーン ウィリアムズによる金管バンドオリジナル作品『ブラスバンドのための変奏曲』をご紹介しました。
次回は、RVWが遺した残り2曲の金管バンド作品についてご紹介したいと思います。
偉大な作曲家たちが切り開いてきた金管バンドの新たな可能性の数々。ぜひ次回もお楽しみに!
それでは今回もありがとうございました。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導

