皆さま、こんにちは。
初夏とは思えない暑さがやってきた5月から、いきなり台風が日本を通過していった6月がやってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今年度の全日本吹奏楽コンクールの課題曲は、現時点でプロやアマチュアによる様々な団体の演奏動画が公開されています。今年も課題曲を演奏する機会をいただいておりまして、現在までに演奏会本番で3度演奏することができました。今年度の全日本吹奏楽連盟からの委嘱作品では、伊藤康英さんがマーチ以外の作品として 管楽器のためのフィナーレ を作曲し、星出尚志さんがマーチの作品として ザ・ガーズ を作曲しました。星出尚志さんの作品は自由曲としてコンクール全国大会で演奏されたことはまだないのですが、作曲されたオリジナル作品、編曲されたアレンジ作品ともに素晴らしい作品が多くあり、私が指導に携わっていた高校が星出尚志さんの作品をよく演奏していたこともあって星出作品を知ることができておりましたので、今回は星出尚志さんのオリジナル作品の中から、私が特に印象に残っている作品をご紹介します。

プロフィール
星出尚志さんは1962年山口県に生まれ、中学校・高校時代の吹奏楽部ではトロンボーンを演奏するかたわらバンドの指揮や編曲も行なっていました、東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業後にヤマハ系の出版社に入社し、最初の仕事が吹奏楽曲の楽譜の校正作業であったため、楽譜浄書と吹奏楽曲の作曲・編曲に携わるようになりました。ミュージカルなどの舞台音楽、エレクトーン曲、ピアノ曲も手掛けており、様々なジャンルの作曲家・編曲家としてご活躍されています。
丘の上のレイラ
丘の上のレイラ
作曲:星出 尚志
演奏:神奈川大学吹奏楽部
指揮:小澤 俊朗
丘の上のレイラ は、2000年に21世紀の吹奏楽実行委員会の委嘱作品として作曲され、2001年3月に開催された 21世紀の吹奏楽「響宴Ⅳ」において、小澤俊朗指揮、神奈川大学吹奏楽部によって初演されました。
星出さんのホームページ内での曲の解説では、
「レイラ」は女性の名である。ただ、この曲の「レイラ」は特定の人物を表しているわけではない。純真無垢の少女かも知れないし、半生の回顧にふける老女かも知れない。あるいは丘の上に立つ像かも知れないし、はたまた丘の上に咲く一輪の花のことかも知れない。「レイラ」は象徴的な存在なのである。したがって、曲の各部分も具体的な情景を表現したものではない。自由なイマジネーションを働かせていただきたい。
と語られています。
幻想的で儚さも感じられる導入部に続いて、1:04からレイラのテーマがB♭クラリネットのみで演奏されます。純朴で素直な音色のクラリネットのみというのがクラリネット吹きとしてはとても嬉しいです。そこから6/8拍子のスケルツォ風の楽しい舞曲になり、短調で奏でられるレイラのテーマのエピソードを経て、曲はこれまでに出てきた2つの動機が絡みながら展開するAllegroの部分に入ります。レイラのテーマがホルンとトロンボーンで力強く奏された後、再度トゥッティでテーマが奏されて曲が終わります。
この曲は少子化の進むスクールバンドのレパートリーの拡充というコンセプトで書かれており、28名の編成となっています。難易度も音域等も押さえて書かれているとのことですが、それぞれの楽器の音色が生きる見事なオーケストレーションになっており、プロが演奏しても曲の魅力が最大限に伝わる名曲だと思います。
北川木挽歌による幻想曲
北川木挽歌による幻想曲
作曲:星出 尚志
演奏:神奈川大学吹奏楽部
指揮:小澤 俊朗
北川木挽歌による幻想曲 は、1993年に宮崎市民吹奏楽団の委嘱作品として作曲され、同年11月に椛山達己指揮、宮崎市民吹奏楽団によって初演されました。その後、1998年3月に開催された 21世紀の吹奏楽「響宴」において、小澤俊朗指揮、神奈川大学吹奏楽部によって再演されました。
星出さんのホームページ内での曲の解説では、
宮崎県の北部、北川は渓流と自然林のとても美しいところである。この曲はその北川地方に伝わる木挽歌を素材に、山とそこで作業をする木こりの一日の情景を描写したものである。木挽歌は、木こりの労働歌として全国各地に存在しているが、共通した特徴として、シンプルで開放的なメロディーが多いことが挙げられる。この北川木挽歌も南国の明るい日差しを浴びたように、力強くのびのびと唄われている。
と語られています。
夜明け前の溪谷のシーンから曲が始まり、「北川木挽歌」のメロディーがオーボエソロで奏でられます。朝霧が立ち込めている河面で、清水を集めた小さな流れが川を作っており、霧は少しづつ晴れていって空はだんだんと明るさを増し、輝かしい日の出が見えてきます。日が高く上がり、「北川木挽歌」のメロディがトランペットソロで奏でられて木挽きの仕事が始まります。曲想が一転して勇壮な山とその合間を流れる川の力強いイメージに変わり、だんだんと激しさを増して盛り上がっていき、夕焼けに染まってゆく高千穂の山々を遠くに見ながら、「北川木挽歌」のメロディーのテーマが山々の讃歌として高らかに歌い上げられてクライマックスを迎え、そして日没とともに一日を回想するように曲が終わります。
私がクラリネットパートを指導していた高校がこの曲に取り組んでいたことで、この曲を知ることができたのは私にとって幸運でした。是非たくさんの方々に知られてほしい名曲だと思います。
行進曲「紅毛氈(こうもうせん)」
行進曲「紅毛氈(こうもうせん)」 Red Carpet March
作曲:星出 尚志
演奏:東京佼成ウインドオーケストラ
指揮:小田野 宏之
行進曲「紅毛氈(こうもうせん)」は、1992年に作曲され、東芝EMI「新・実践吹奏楽指導全集」に収録された曲です。英題が Red Carpet March となっており、Red Carpet という貴賓などを迎えるために敷く赤い絨毯のことから、「紅毛氈(こうもうせん)」という作曲者による造語が曲のタイトルとなりました。曲はトリオ部分が後半に再現される比較的規模の大きなブリティッシュスタイルの行進曲で、実際に行進に使われるものではなく、演奏会用として書かれたものとのことです。
薄暮の都市(はくぼのまち)
薄暮の都市(はくぼのまち)-8人の奏者のために-
作曲:星出 尚志
編成:Flute、Bb Clarinet、Alto Saxophone、Trumpet、Horn、Trombone、Tuba、Percussion
薄暮の都市(はくぼのまち)は、1992年に作曲され、東芝EMI「実践アンサンブル指導全集」に収録された曲で、黄昏の空を背景に林立する摩天楼とそこを縫うように走るハイウェイの情景を描写した混合8重奏の編成の曲です。木管楽器3種類、金管楽器4種類に打楽器というアンサンブル曲としては中々見ることのない混合編成ですが、きちんと各楽器のバランスをとればそれぞれの楽器の特徴と音色が生かされるように書かれており、情景が浮かぶような曲想でありながら星出さんの作品の色もあるという正にプロの作品だと思います。個々がしっかりと演奏できる技術力、それぞれの楽器としての良い音色、きちんとバランスがとれるアンサンブル力が必須なので、アンサンブルコンテストでは中々演奏されにくいのかとは思いますが、是非取り組んでいただきたい作品です。
あとがき
いかがでしたでしょうか。星出尚志さんのオリジナル作品の中から、私が特に印象に残っている作品をご紹介しました。
次回は、星出尚志さんのアレンジ作品をご紹介しようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

