皆さま、こんにちは。
前回に引き続き、今年が生誕120年となるドミートリイ・ショスタコーヴィチの作品から、今回は祝典序曲を取り上げます。これまでに吹奏楽コンクール全国大会で演奏されているショスタコーヴィチの作品の中では交響曲第5番の次に多く演奏されている人気の作品ですが、2000年代以降のコンクールでは演奏回数が激減してしまった作品でもあります。今回はショスタコーヴィチ作曲の作品の中から、祝典序曲の全国大会での演奏をいくつかご紹介しようと思います。

INDEX
祝典序曲
祝典序曲は、第37回ロシア革命記念日の祝典のためにソヴィエト共産党中央委員会からの委嘱によって1954年に作曲され、同年11月6日にモスクワのボリショイ劇場において、ボリショイ劇場管弦楽団によって初演されました。また、この作品は1952年に完成したヴォルガ=ドン運河の開通に捧げられたとされています。
その後、1958年にソヴィエトの軍楽隊のために作曲者自身が吹奏楽編成に編曲しましたが、そのスコアをもとにアメリカのイーストマン・ウインド・アンサンブルの指揮者であったドナルド・ハンスバーガー博士が1965年にウインド・アンサンブル用に編曲したものが、世界中で演奏されるようになりました。ハンスバーガー博士の編曲は調性が原曲のAーdur からAsーdurに移調されており、私が初めて聴いた祝典序曲の演奏がこの吹奏楽編曲版での演奏だったこともあるのですが、吹奏楽編成と相性が良いとされるフラット系の調性での演奏にも違和感がなく聴ける名編曲だと思います。
西宮市立今津中学校 (1970年)
祝典序曲
作曲:D.ショスタコーヴィチ
全日本吹奏楽コンクール
1970年(第18回大会) 金賞
演奏:西宮市立今津中学校吹奏楽部
指揮:得津 武史
祝典序曲が全国大会で初めて演奏されたのは、まだ順位制だった1967年の高校の部でしたが、その後1970年に兵庫県を代表する古豪の名門校である西宮市立今津中学校の演奏が中学の部での初演となりました。冒頭のファンファーレはゆっくりめのテンポでとても中学生とは思えない音圧を保ちながらのパワフルなサウンドが圧巻で、テンポが速くなったプレストからの木管楽器の高速パッセージにおける技術力の高さが群を抜いています。この時代では技術的にかなり難しい曲だったと思うのですが、今改めて聴いても安心して聴くことができる完成度の高さが素晴らしく、日々の練習にしっかりと取り組んだことによる努力の賜物だと分かる名演です。
出雲市立第一中学校 (1973年)
祝典序曲
作曲:D.ショスタコーヴィチ 編曲:D.ハンスバーガー
全日本吹奏楽コンクール
1973年(第21回大会) 金賞
演奏:出雲市立第一中学校吹奏楽部
指揮:渡部 修明
島根県を代表する古豪の名門校である出雲市立第一中学校が1973年に全国大会で演奏した祝典序曲は、二代目の顧問の先生にあたる渡部修明先生時代の演奏です。パワフルかつ重厚なサウンドによるファンファーレで始まり、プレストからは流麗で見事なクラリネットソロに続く一糸乱れぬ木管楽器の高速パッセージが圧巻です。アグレッシブに攻める音楽表現とダイナミックなサウンドで曲に惹き込まれていき、この曲の魅力が最大限に伝わる名演です。
豊島区立第十中学校 (1977年)
祝典序曲
作曲:D.ショスタコーヴィチ
全日本吹奏楽コンクール
1977年(第25回大会) 金賞
演奏:豊島区立第十中学校吹奏楽部
指揮:酒井 正幸
1960年代の順位制の時代から今津中学校としのぎを削り合うライバル関係にあった、東京を代表する古豪の名門校である豊島区立第十中学校が1977年に全国大会で演奏した祝典序曲は、同校の特徴がよく現れている個性豊かな演奏となりました。冒頭の金管楽器のファンファーレに木管楽器の和音を加えるという斬新なアイデアは、同校のコーチであった八田泰一さんの編曲によるものだと思われるのですが豊島十中のサウンドの魅力に合わせられており、ホールで聴くとどのような響きがするのだろうという興味が湧きます。テンポが速くなったプレストからは、テューバパートを中心とした低音セクションの響きの残し方の美しさが大変印象的で、おそらくは原曲のオーケストラでの低弦パートの奏法を意識したのではないかと思われるのですが低音セクションが音楽を引っ張っていく様がとても心地よく感じられます。祝典序曲といえばパワフルな演奏という印象が強い曲ですが、豊島十中のサウンドと音楽の魅力が伝わる名演です。
富山県立富山商業高等学校 (1989年)
祝典序曲
作曲:D.ショスタコーヴィチ 編曲:D.ハンスバーガー
全日本吹奏楽コンクール
1989年(第37回大会) 金賞
演奏:富山県立富山商業高等学校吹奏楽部
指揮:坪島 照信
富山県を代表する古豪の名門校である富山県立富山商業高等学校が1989年に全国大会で演奏した祝典序曲は、私が初めて聴いた祝典序曲の演奏で私がこの曲を好きになったきっかけとなり、中高生時代にCDで何度も聴いていたこともあって特に鮮明に記憶に残っています。今の時代では珍しくなってしまいましたが、金管楽器担当のメンバーが全て男性で見た目のインパクトもさることながら、冒頭のファンファーレでの重厚で豊かな響きと音圧に溢れていながらも余裕が感じられる金管セクションのサウンドは特筆ものです。プレストからのクラリネットソロのアーティキュレーションの軽快さが特に素晴らしく、木管楽器の高速パッセージは一体感がもの凄いです。真っ当な音楽性と完成度の高さ、トゥッティサウンドの豊かさが特に印象的で、これからも私の記憶に残り続ける名演です。
兵庫県立西宮高等学校 (1998年)
祝典序曲
作曲:D.ショスタコーヴィチ 編曲:D.ハンスバーガー
全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 銅賞
演奏:兵庫県立西宮高等学校吹奏楽部
指揮:吉永 陽一
兵庫県を代表する名門校である兵庫県立西宮高等学校の全国大会での演奏といえば、私が中高生時代にも同校の指揮をされていた吉永陽一先生による個性的な演奏が特徴的でした。吉永先生は今年で80歳の傘寿を迎えられたとのことで、現在もお元気でご活躍されているということを聞くことができましてとても嬉しく思います。1998年に同校が全国大会で演奏した祝典序曲は、冒頭のファンファーレでの間の取り方(コンマを入れる位置)に耳を奪われますが、プレストからの超高速テンポでの演奏には驚きを隠せません。中高生時代にこの演奏を初めて聴いた時にはそこまで印象に残っていなかったのですが、改めて聴いてみるととてつもない技術力の高さとアーティキュレーションの鮮明さに驚かされます。リードミスなどの細かいミスはけっこう見えてしまうのですが、超高速テンポに怯むどころか更に前に進んでいく音楽の推進力が癖になってしまい、個性的ではありますが音楽的な魅力に改めて気づかされました。好みが分かれる演奏だとは思いますが、音楽的な魅力に溢れた名演だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか。ショスタコーヴィチ作曲の祝典序曲の、コンクールでの名演をご紹介しました。
祝典序曲はコンクールのみならず演奏会でも久しく聴いておりませんが、今年のコンクールでショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏されることもありますので、祝典序曲もコンクールで再び聴くことができることを密かに願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
シエナ・ウインド・オーケストラ バスクラリネット奏者。
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。

