みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
この記事が配信される8/30は、金管バンドが生まれた英国はもとより日本でも小学校金管バンドによる吹奏楽コンクールへの出場など、日英ともに金管バンド業界はコンテストシーズン真っ只中となります。
ということで今回は2024下半期人気コンテスト特集と各課題曲のご紹介をさせていただきます。
ライヴストリーミングでの配信なども行われる大会もありますので本日の事前情報と合わせて、ぜひライヴでお楽しみください。
コンテストシーズン2024
金管バンドナビ#14『英国金管バンドのコンテスト』でもご紹介しましたが、8月からのシーズンは、英国内における三大コンテストといっても過言ではない大きいコンテストが続きます。
本日はそれらのコンテストと、実際にストリーミングでご覧になった際により楽しめるよう各課題曲のご紹介です。
ブリティッシュ・オープン(British Open)
筆者が英国内のとあるコンテストを聴きに行っていた際(ブリティッシュ・オープンではないもの)、隣に座っていたブラスバンド好きご婦人とお話をしている中で『英国で最も(勝つのが)難しいコンテストはブリティッシュ・オープンよ。こんなもんじゃないわ!』とおっしゃっていたのをよく覚えています。金管バンド好きの中でもそのように言われ、実際に筆者自身出場をし、コンテストについて調べ、さらに近年のバンドのレベルや課題曲のレベルを見てみると、そのご婦人の言葉は本当だと感じるコンテストです。
世界最古級のコンテストという他にも、各ランクに分けられ英国はもとより世界中の上位ランクのバンドのみ出場を許され、その中から1位を決めるという熾烈を極めるコンテスト、毎年その課題に設定される名曲たちもとても注目されます。(ランクについては以下の過去記事よりご覧ください。)
The Lost Circle / Jan van der Roost
今年の課題曲に選ばれたの日本でもとても人気の作曲家ローストの新作『失われし輪』です。
『古の時より』(From ancient times)や『エクスカリバー』(Excalibur)などを含め今作で5作目となるテストピースとなり、欧州の様々な国の金管バンド団体とブリティッシュ・オープン運営団体によって委嘱された作品です。
作曲者曰く、この作品は太古の昔より英国西部にあるソールスベリー平原において、数千年にもわたって人々を魅了し続けてきたストーンヘンジよりインスピレーションを受けて作曲された作品とのことです。過去に自身の作品で『ストーンヘンジ』という作品がありますが、今回委嘱されたこの16分に及ぶ課題曲は後継作品というわけではないとのことです。
この作品の中ではストーンヘンジで使用されている石がなぜこの地より240kmも離れた西ウェールズのプレセリ丘陵より運ばれ、この地で円を作るのに使用されたのかなどこの作品はストーンヘンジというテーマの象徴性に富んだ作品だそうです。
色彩豊かな音色や幅広いオーケストレーション、そしてコントラスト豊かな作曲技法など金管バンドのみならず吹奏楽やファンファーレオーケスラなどさまざまなジャンルで愛されるローストの新作は要注目です。
英国以外の欧州各国のコンテストでは多用されるローストのテストピースですが、今回英国のチャンピオンセクション級のコンテストでの採用は2001年の全英コンテストで使用された『アルビオン』(Albion)以来ということで、この作品が英国のトップ中のトップのバンドによってどのように演奏されるのかとても楽しみです!
作曲家については以下のリンクよりご覧ください。
第170回ブリティッシュ・オープン情報
2024年9月7日10:00より
英国バーミンガム シンフォニーホールにて開催(バーミンガム空港より電車で約40分)
全英大会(National Brass Band Championships of Great Britain)
3月に開催された地区大会を勝ち抜いた各地区のチャンピオンバンドたちが、英国一を懸け競い合うコンテストです。(詳しい内容は以下リンクよりご覧ください。)
2024年はチャンピオンセクションから4thセクションまで全5階級、以下のバンドがNational Finals、つまり全英大会決勝で競い合います。
①チャンピオンセクション(最上級)
注目は昨年の覇者ブラック・ダイク・バンド(Black Dyke Band)。これまで素晴らしいフリューゲルホーン奏者(前々任Zoe Lovatt-Cooper、前任Steph Binns)が歴任してきたフリューゲルの席には、今期からフィービー・マリンソン(Phoebe Mallionson)が就任しました。P. マリンソンはブラッドフォード・シティ・バンドより移籍し、過去にはBBCヤングミュージシャン金管部門のファイナリスト、全英ユースブラスバンドのフュルーゲルホーン奏者に抜擢されるなど輝かしい経歴の持ち主です。
P. マリンソンの他にも、長年首席コルネットの席を守るR. マーシャルや、全豪ユーフォニアム・チャンピオンを獲得した現ダイクの首席ユーフォニアム奏者A. ボカリス、そしてEbベースには日本でも有名なYBS(Yorkshire Building Society Band)のCDに多数参加しているビッグ・ガブことG. セイナーなど、まるで金管バンド業界のマンチェスターユナイテッドという布陣で連覇を狙います。
今年2024年には日本でのツアーも行うダイクですが、優勝カップと共に来日できるかどうか、とても楽しみです。
そして続いての注目バンドは昨年ブリティッシュ・オープンとブラス・イン・コンサートで優勝をし世界ランキング1位に輝いたフォーデンスバンド(Foden’s Band)、今年8月にはバンド史上初のアジアツアーを韓国チェジュ島で成功させました。
ダイクのような大きな移籍情報は今の所入っていませんが、首席ユーフォニアム奏者のG. カーティンの演奏は、筆者も韓国公演で聴けましたが相変わらず素晴らしく、今回の決勝戦でもとても楽しみです。
そして、忘れてはならないのは2000年の全英大会で今年と同じ課題曲(後述のリンクより聞けます。)で優勝したコーリーバンド(Cory Band)、10年以上守り続けてきた世界ランキング1位の座からは転落しましたがその実力はまだまだ健在です。今年2024年はコーリーバンド創団140周年ということでブリティッシュ・オープンともども世界ランキング1位への返り咲きが期待されます。
課題曲:ハリソンの夢 / ピーター・グレアム (Harrison’s Dream / Peter Graham)
スコットランド人作曲家P.グレアムにより作曲された17世紀に実在した英国の時計技師ジョン・ハリソンの精密機械にかける情熱をテーマにした作品です。2000年開催の全英大会決勝戦でも課題曲として用いられた難曲の一つですが、日本でも金管バンドならびに吹奏楽でもとても人気の作品で多くのバンドによって演奏されています。(以下のリンクより楽譜のご購入が可能です。)
終わりに
今回はここまでとさせていただき、次回は全英大会決勝の1stから4thセクションまでをご紹介いたします。
まずは9/7に開催されるブリティッシュ・オープンを筆頭に、ぜひ金管バンドコンテストシーズンを楽しんでまいりましょう。
今回も誠にありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。