【金管バンドナビ】#28 金管バンドの作曲家③ヤン・ヴァン デル ロースト

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最終更新日 2024.01.05

みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

金管バンドの作曲家シリーズではこれまでの2回とも金管バンドが生まれた英国の作曲家を取り上げてきましたが、今回は欧州の中でもベルギーより日本でも大人気の作曲家ヤン・ヴァン デル ローストの特集です。吹奏楽が盛んな日本においてもちろん人気の作曲家でもありますが、実はそれらの作品がもともとは金管バンドのために作曲されていたりと、金管バンドルーツの作品がいくつもあります。本日は普段何気なく楽しまれているヴァン デル ロースト氏の作品と共に作曲者自身についても掘り下げてみます。お楽しみください。

ヤン・ヴァン デル ロースト(Jan Van der Roost)

1956年、ベルギー出身の作曲家であるヤン・ヴァン デル ローストは幼少の頃より父親が指揮を振っていた吹奏楽団にてフリューゲル・ホーンを演奏し、その後トロンボーンに転向しました。

ヘント王立コンサヴァトリー(Royal Conservatory in Ghent)とアントワープ王立フラミッシュ・コンサヴァトリー(Royal Conservatory in Antwerp)において音楽の専門教育を受け、トロンボーンの他にも教育学、音楽史、そしてフーガ、合唱指揮、そして作曲を学んでいたことから管楽器法にも精通していました。その後の1984年、レマンスインスティテュート音楽院(Lemmensinstitute)にて対位法とフーガの教授に就任しました。

これまで世界5大陸、50カ国以上で審査員や講師、客演指揮者として活動を行い、文字通り世界中でヴァン デル ロースト氏の作品が録音、演奏をされています。

日本との関わり

ヴァン デル ロースト氏の作品は日本でもとても人気が高く、その影響から東京ミュージック&メディアアーツ尚美、名古屋芸術大学、そして洗足学園音楽大学において客員教授を務める傍ら、2013年にはフィルハーモニック・ウィンズ大阪において首席客演指揮者に就任しました。

日本では吹奏楽や金管バンド作品の認知が高いですが、声楽のための作品や室内楽作品も数多く作曲されており、さまざまなジャンルで作品を創作しています。作曲以外にも編曲も行い、以前ご紹介したフィリップ・スパークなどと同様に自身の作品を他ジャンルのために編曲をし、より多くのジャンルで演奏を可能にしています。

日本で人気の作品

氏が得意とする17世紀から18世紀にかけての舞曲やフーガなどバロック音楽の形式を持った作品もあり、現代的、そして古典的な様式がとても上手く組み合わされた素晴らしい作品も多く人気の理由が伺えます。

本日は日本の金管バンドのみならず、吹奏楽やファンファーレ・オーケストラにおいても絶大な人気を誇るヴァン デル ロースト氏の作品から数曲厳選してご紹介します。

アルセナール(アーセナル、Arsenal)

もともとは吹奏楽のために作曲をされた作品ですが、吹奏楽出身の奏者が大多数を占める日本金管バンド業界においてもとても人気の高い作品です。

1995年ベルギーの鉄道会社が持つ吹奏楽団(Harmonie van het Spoorwegarsenaal)の創立50周年を記念して作曲された作品です。ヴァン デル ロースト氏の行進曲によく見られる演奏会用行進曲(Concert March)の名の通り一般的な行進曲が四分音符=120なのに対し、このアルセナールは四分音符=108と少し遅めのテンポ指示がされています。このことでよりシンフォニックな演奏や中間部の美しいメロディの表現がより際立つ演奏が可能となっています。

吹奏楽、金管バンド編成用以外にもファンファーレ・オーケストラ用にも編曲され、日本において数多くの演奏会やブラスバンド体験会で演奏されている曲です。

古の時から(From Ancient Times)

2009年に作曲されたこの作品は同年の欧州選手権最高位部門であるチャンピオンシップ・セクションの課題曲としても使われました。

作曲者自身による明確な解説にはありませんが、ヴァン デル ロースト氏が得意とするバロックやそれ以前の古典音楽からの引用が見受けられます。例えばグレゴリオ聖歌、二つ以上の異なる声部を同時に奏でる「ポリフォニー」技法などを用い、ベルギーの偉大な作曲者たちからの影響が多分に含まれている作品です。またベルギー生まれの楽器発明家であるアドルフ・サックス(Adolph Sax)への神聖なオマージュ箇所を通し、作曲者自らの演奏指示「オルガンのように」と書かれた壮大なクライマックスへ向かいます。

バンド全体でのアンサンブル、そして各首席たちに配分されている高難易度の独奏箇所など全てにおいて難易度の高い作品ですが、古代から現代に至るまでをまるでタイムトラベルをしているかのような曲の移り変わり、またただ単に難しだけでなく音楽的に意味合いの深いそれぞれのソロやアンサンブルとしての曲の構成などが表現された良曲としても有名です。

世界的に見てもあまりの高難易度ゆえかコンテストの自由曲として何度も選曲をされていますが、課題曲として使われたのは2009年の欧州選手権を入れてもたったの2回で、その難易度の高さが伺えます。

カンタベリー・コラール(Canterbury Chorale)

1990年に作曲されたこの曲は金管バンド、吹奏楽、ファンファーレ・オーケストラと日本の管楽器シーンにおいて不動の名作、ヴァン デル ロースト氏の数ある人気作の中でも特に人気の高い作品の一つです。

イギリス南東部ケント州にあるイングランド国教会の総本山『カンタベリー大聖堂』を題材に作曲された曲です。

日本では吹奏楽版が有名ですが、もともとはベルギーの金管バンドであるブラス・バンド・ミデン・ブラバント(Brass Band Midden-Brabant 1975~2004)の委嘱により作曲されました。

カンテベリー大聖堂で歌われる讃美歌やパイプオルガンの演奏、また大聖堂にある鐘の音などこの大聖堂で奏でられるさまざまな音や音楽、そしてイングランド国教会総本山である大聖堂がもつ荘厳な雰囲気が表現されている作品です。

これまでのフィリップ・スパークやピーター・グレアムといった英国の作曲者と違い、ヤン・ヴァン デル ローストは他欧州の国であるベルギーの作曲家ということでまた一味違った金管バンドのサウンドを表現する作曲家です。

筆者の個人的な意見としては英国の作曲家はどちらかと言えばR.V ウィリアムズやG.ホルスト由来の民謡や讃美歌、また軍楽隊などのルーツをもつ音を表現し、あえて一括りとしてみれば他欧州は歌もそうですが、弦などを加えた管弦楽が主体なサウンド作り感を感じています。国や地域によってさまざまな作風、音色が生まれるのも金管バンドの面白いところの一つです。

今回ご紹介した三曲の他にも他のコンサート・マーチやコンテストで使われるような難曲、コンサート・ピースなど素晴らしい作品を多く作曲されているヴァン デル ロースト氏ですので、ぜひ他の作品も聞いてみください。

https://en.wikipedia.org/wiki/Jan_Van_der_Roost

それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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