【吹奏楽ナビ】#17 クラリネットアンサンブル②【七〜八重奏】

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皆さま、こんにちは。

吹奏楽コンクール真っ只中ですが、この時期は秋から始まるアンサンブルシーズンの選曲時期にもなっています。そこで、今回はアンサンブルコンテスト向けのクラリネットアンサンブルの名曲を名演と共にご紹介します。

選曲の基準としては、私のクラリネットアンサンブルの指導の経験と現在のアンサンブルコンテストを実際に聴いた上で他の編成の曲と比べても支部大会以上で通用すると考えられ、かつクラリネットアンサンブルの中でも名曲だと私が思う曲となっています。

今回は、クラリネット7重奏~8重奏の編成の曲になります。

3重奏〜6重奏についてはこちらの記事でご紹介しています。
【吹奏楽ナビ】#16 クラリネットアンサンブル①【三〜六重奏】

クラリネット7重奏

ドデカフォニック・エッセイ/デル=ボルゴ

ドデカフォニック・エッセイ Dodecaphonic Essay
作曲:エリオット・デル・ボルゴ Elliot del Borgo
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~3、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Alto Clarinet(Contra Bass Clarinet)

この曲は楽譜のスコア上は7重奏ですが、B♭クラリネット1stにDiv.で2声に分かれているところがいくつかあるので編曲の許諾がとれるのであれば8重奏で演奏できると良いと思います。少し工夫すれば7重奏でもほとんど音が欠けずに演奏可能です。編成上はコントラアルトクラリネットになっていますが、音域が低いのでコントラバスクラリネットのほうがこの曲には合うと思います。

曲の冒頭からいきなり3オクターブのユニゾンで始まり、クラリネット7重奏の重厚さを存分に出すことができます。速いテンポの部分では変拍子の中で高音で激しく駆け回るエスクラリネットとB♭クラリネット1stがとても印象的で、今の時代でも全く古さを感じさせない名曲です。

こちらはブリヂストン吹奏楽団久留米の全国大会での演奏で、8重奏での演奏です。

《クラリネット七重奏》
ドデカフォニック・エッセイ【Dodecaphonic Essay】

エリオット・デル・ボルゴ (Elliot del Borgo)

マリア・イサベラ/ベリオ

ワルツ「マリア・イサベラ」
作曲:アドルフォ・ベリオ Adolfo Berio
編曲:加藤 雅之
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~3、Basset Horn(Alto Clarinet)、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet

この曲が編曲された当初は7重奏版しかありませんでしたが、その後8重奏版と4重奏版が作られたので現在は3種類の楽譜が出版されています。7重奏版と8重奏版はどちらもそれぞれの良さがありますが、個人的には7重奏版のほうがオーケストレーションが好きなのと、コントラバスクラリネットのパートがこの曲の音域にぴったりなので、どちらかと言われれば7重奏版のほうを推します。8重奏版はコントラアルトクラリネットの編成になっていますが、編曲の許諾をとってコントラバスクラリネットで演奏することが可能だと思いますので、特に木製のコントラバスクラリネットがあるのであればコントラバスクラリネットで演奏することをお薦めします。

イタリアの作曲家アドルフォ・ベリオは、有名なルチアーノ・ベリオの祖父にあたります。原曲の聴きやすい曲調の中にクラリネットの超絶技巧が散りばめられていて正にコンテスト向けの曲ですが、編曲がとてもよくできているので聴いた印象よりも楽譜は技術的にそこまで難しくないと思います。主部のワルツは音楽的なセンスが必要なので簡単には選べない曲ですが、支部大会以上を目指すのであれば特にお薦めできる曲です。

こちらは世田谷学園中学校の全国大会での演奏です。

クラリネット8重奏

序奏とロンド/ジェイコブ

序奏とロンド Introduction and Rondo
作曲:ゴードン・ジェイコブ Gordon Jacob
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~4、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet

この曲は楽譜のスコア上は7重奏ですが、B♭クラリネット1stにDiv.で2声に分かれているところがいくつかあるのと、曲の最後のほうにコントラバスクラリネット以外のパートがDiv.で2声に分かれているので、編曲の許諾がとれるのであれば8重奏で演奏するのが望ましいです。7重奏でも演奏は可能です。

イギリスの作曲家ジェイコブの、クラリネット8重奏の名曲です。美しいメロディと各楽器の音色を生かしたオーケストレーションが素晴らしく、コントラバスクラリネットのソロがあったりとコンテスト的な見せ場も多いです。あまりにも聴きやすい曲想なのでコンテスト的には難しいところもありますが、何よりも8重奏の重厚なサウンドを体感しながら音楽的に素晴らしい名曲を演奏できる喜びを味わってほしいと思いますので、クラリネット8重奏の名曲としてお薦めします。

こちらは大阪府立淀川工業高校の全国大会での演奏で、8重奏での演奏です。

コラールと舞曲/ネリベル

コラールと舞曲 Chorale and Danza
作曲:ヴァーツラフ・ネリベル Vaclav Nelhybel
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~4、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet

この曲は楽譜のスコア上は7重奏ですが、B♭クラリネット1~3番がDiv.で2声に分かれていて7重奏だと音が足りなくなるので、編曲の許諾をとって8重奏にすることが必須だと思います。7重奏だと音が欠けてしまうことを覚悟して下さい。

ネリベルの名曲で、1980年代後半から2000年代までは全国大会でよく演奏されていました。クラリネット8重奏の重厚なサウンドとクラリネットらしい繊細な表現がアピールできるコラールと、ネリベルらしいアクセントがとても印象的な舞曲との対比が素晴らしく、音楽的にも取り組む価値が高いです。現在のアンサンブルコンテストだと技術的にアピールできる部分が少なくなってしまうのが欠点となってしまいますが、アンサンブルを通してクラリネットセクションのレベルアップを図るには最適すぎる曲です。

こちらは八王子高校の全国大会での演奏で、8重奏での演奏です。

《クラリネット七重奏》
コラールと舞曲【Chorale and Danza】
ヴァーツラフ・ネリベル (Vaclav Nelhybel)

スリー・ダンス/ウールフェンデン

スリー・ダンス(3つの舞曲) THREE DANCES
作曲:ガイ・ウールフェンデン Guy Woolfenden
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~4、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet

この曲は楽譜のスコア上はB♭クラリネットが3人の8重奏ですが、B♭クラリネット1~3番のほぼ全てがDiv.で2声だけでなく3声のところもあるので、B♭クラリネットを4人にしてコントラアルトクラリネットかコントラバスクラリネットをどちらか1本にするように編曲の許諾をとらないとアンサンブルコンテストでは難しいと思います。

イギリスの作曲家ウールフェンデンの曲で、2004年に全国大会で初演された時は衝撃的でした。それぞれの楽章が特徴的な舞曲になっていて、メロディがとても親しみやすくて演奏していて楽しくなれる曲です。アンサンブル的には難しいところが多いですが、編曲の許諾がとれるならお薦めの曲です。

こちらは八王子高校の全国大会での演奏で、8重奏での演奏です。

《クラリネット八重奏》
3つの舞曲【THREE DANCES】

ガイ・ウールフェンデン (Guy Woolfenden)

クラウナリー・フォー・クラリネッツ/スタルパース

クラウナリー・フォー・クラリネッツ Clownery for Clarinets
作曲:ハーリー・スタルパース Harry Stalpers
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~4、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet(Contra Alto Clarinet)

この曲は楽譜のスコア上は9重奏ですが、コントラアルトクラリネットとコントラバスクラリネットがほとんど同じことを演奏しているので、どちらか1本にするように編曲の許諾がとれるのであれば少しの工夫で8重奏で演奏可能です。

クラウナリーは道化やおどけたという意味で、半音階での連符を中心とした軽快なテンポの曲の中にブルースや即興部分が入っているとてもユニークな曲です。いろいろな表情を見せることができて演奏効果が高いので、コンテスト向けの曲だと思います。

こちらは滝川第二高校の全国大会での演奏で、8重奏での演奏です。

《クラリネット九重奏》
クラウナリー・フォー・クラリネッツ【Clownery for Clarinets】

ハーリー・スタルパス (Harry Stalpers)

ラ・セーヌ/真島俊夫

ラ・セーヌ La Seine
作曲:真島 俊夫 Mashima Toshio
編成:Es Clarinet、Bb Clarinet 1~4、Alto Clarinet、Bass Clarinet、Contra Bass Clarinet(Contra Alto Clarinet または Contrabass)

この曲はコントラバスクラリネット指定となっていますが、かなり機動力が必要な部分が多くコントラバスクラリネットで演奏できるのはごく一部の奏者だけだと思いますので、編曲の許諾がとれるのであればコントラアルトクラリネットで演奏するほうがいいかと思います。オプションのコントラバスでの演奏は曲の繊細な表現がより可能になりますが、低音としてのパワーが少し弱くなってバスクラリネットとのバランスをとるのが難しくなるので、一長一短だと思います。

NASCAクラリネット合奏団の委嘱作品で、クラリネット8重奏の音色の多彩さが存分に伝わる名曲です。1.ポン・ヌフ 2.ミラボー橋 3.アレクサンドル三世橋 の3つの楽章からなり、パリを流れるセーヌ川が流れ過ぎる3つの橋周辺の印象を描いた作品です。アンサンブルコンテストでは1・3楽章の順番で演奏されることが多いですが、1楽章だけを演奏したり2楽章を入れたりとカットの可能性は多いと思います。どの楽器もかなりの技術力と表現力が求められ、音色の美しさも必要なので演奏するハードルは高いですが、それに見合った音楽的な魅力に溢れているので、是非挑戦してほしい曲です。

こちらは富山県立高岡商業高校の全国大会での演奏です。

《クラリネット八重奏》
ラ・セーヌ【La Seine】

真島俊夫 (Toshio Mashima)

編曲の許諾について

アンサンブルコンテストでは、出版されている楽譜の編成通りの人数や楽器以外で演奏する場合は事前に著作権者から編曲の許諾を受けなければならないという規定があります。

国内の出版社の楽譜の場合はそれぞれの出版社のホームページに編曲許諾の申請についてのページがあることが多いのでそちらから申請することが可能ですが、海外の出版社の楽譜の場合は基本的には海外の出版社のホームページにメールなどで直接問い合わせをして申請しないといけないので、ハードルが高くなります。

ただ、サブ・パブリッシャー(SP)という、海外の出版社が日本の出版社に日本国内における楽曲の管理を部分的に委託する制度があり、SPがついている楽曲の場合はその出版社に連絡することでハードルがかなり下がります。SPがついているかどうかを調べる方法としては、JASRACが提供している「J-WID」のページで調べるのが便利です。海外の作品のタイトルは原題を入力しないと検索にあがってこないので注意して下さい。JASRACやSPの出版社には編曲許諾の権限は無いのですが、JASRACに楽曲の編曲について問い合わせた場合はSPの出版社の連絡先などの手続き方法を教えてもらえると思いますし、SPの出版社に問い合わせた場合は海外の出版社への編曲許諾の申請代行をお願いできると思いますので、アンサンブルコンテストで編曲許諾が必要だが演奏したい曲があれば各所に問い合わせてみていただければと思います。

その他にも、「アンサンブルコンテスト 編曲 許諾」などでネット検索すると編曲の許諾について詳しく解説されているページが出てきますので、是非調べてみて下さい。

あとがき

いかがでしたでしょう?アンサンブルコンテスト向けのクラリネット7重奏~8重奏の編成の曲をご紹介しました。

この編成での名曲はアンサンブルコンテストで演奏する場合は編曲の許諾が必要なものが多くなってしまうのですが、是非チャレンジしていただいてクラリネット7重奏、8重奏の魅力を再発見してもらいたいと願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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