【金管バンドナビ】#20 英国金管バンドのコンテスト⑦

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

みなさまのおかげさまで、この金管バンドナビも#20話目となりました。いつもありがとうございます。さて、前回は英国1を決める全英大会をご紹介いたしましたが、今回はこれまでのコンテストと少し毛色の違う「エンターテイメント力」を競い合うコンテストをご紹介したいと思います。

日本でも少しずつ増えてきたこの手のコンテストが与える業界への影響力はとても大きいもので、金管バンドのレパートリーや観客の増加、また金管バンドの芸術的、エンターテイメント性の向上など、その影響は計り知れません。

日本でもこのようなコンテストが増えることに期待をしつつ、今週もご紹介させていただきます。

最も長い歴史を持つエンターテイメント・コンテスト

ブラス・イン・コンサート(Brass in Concert)

1977年、世界でも最初期にエンターテイメント方式でのコンテストとして誕生したブラス・イン・コンサート(Brass in Concert、以後BiC)はスコットランドとの境にあるイングランド北部、ニューカッスル(Newcastle)のセィジ・ゲートヘッド(Sage Gateshead)で毎年開催されます。

英国の一般的な金管バンドのコンテストでは、高い難易度で15分以上の長い課題曲が設定されたり、同じような条件の自由曲が設定されたりしますが、このBiCではそうした指定はなく主にこのようなルールがあります。

  • 各バンドは約30分のプログラムを作成
  • 金管バンド以外の要素を加えることも可能、例えばダンス、合唱、弦楽器、映像など

またこの大会では多くの賞を設定しており、2022年は6人の審査員が大会の特徴に合わせた以下の項目をそれぞれ審査しました。

  • パフォーマンスの出来(Quality of Performance)=2人が担当
  • プログラム内容(Programme Content)=1人
  • エンターテイメント性並びに表現力(Entertainment and Presentation)=2人
  • ソリスト賞並びに個別の賞=1人

さらに総合優勝のタイトルは、上記の「ソリスト賞並びに個別の賞」以外の3項目の総合点で決められます。

17の賞

また以下にご紹介するのが6つのメイン賞、そして11の個別賞の一覧です。

メイン賞:

  • ベスト・パフォーマンス賞(Quality of Performance)
  • ベスト・プログラム賞(Best Programme Content)
  • ベスト・エンターテイメント賞(Best Entertainment & Presentation)
  • 指揮者賞(Winning Music Director)
  • 観客賞(Audience Entertainment Prize)
  • 新作編曲賞(New Composition/Arrangement Award)

個別賞:

  • ベスト・ソリスト賞(Best Soloist)
  • トロンボーン賞(Don Lusher Trombone Award)
  • プリンシパル・コルネット賞(Harry Mortimer Best Principal Cornet Award)
  • フリューゲル・ホーン賞(The Fesa Trophy for Best Flugel Award)
  • ソプラノ・コルネット賞(The Gateshead MBC Trophy for Best Soprano Award)
  • パーカッション・セクション賞(The Louis and Colin Johnson Trophy for Best Percussion Section)
  • ユーフォニアム賞(Best Euphonium)
  • バリトン・ホーン賞(Best Baritone)
  • テナー・ホーン賞(Best Horn)
  • ベース・セクション賞(John Fletcher Best Basses Award)
  • 最年少賞(Youngest Player)

このように個別賞が事細かに設定されることで奏者のモチベーションのアップにも繋がり、コンテストへの意欲も高まります。また英名の方をご覧いただくとわかりますが、いくつかの賞には過去の偉人たちの名前がついています。

例えばコルネット賞には英国金管バンドの発展に大きく寄与したハリー・モーティマー氏(Harry Mortimer)、またベースセクション賞にはフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルやロンドン交響楽団で活躍した英国チューバ業界のレジェンドであるジョン・フレッチャー氏(John Fletcher)の名前が賞に付けられており、その権威性を高めています。

スケジュール

例年2日間に分けて開催されるBiCでは、1日目には250人に及ぶ若い奏者たちによるコンサートとワールド・オブ・ブラス(World Of Brass)主催のガラ・コンサートが催されます。

そして2日目は大学バンドの演奏から始まり、その後メイン・コンテストが始まります。今年2023年、世界中から集まる11団体のバンドがそれぞれ約30分のステージを披露するということで、途中の舞台の転換や休憩を含めると11時コンテスト開始、そして20時終了ということで約9時間もの長丁場なコンテストです。

2023年は11月17日、18日の開催で、現地で観覧したい方は「Sage Gateshead」というサービスからご予約可能です。コンテスト本戦が右端、左2つは初日のガラ・コンサートなどです。
(チケットがそれぞれ別となります。)

筆者自身も出演したことがありますが、日本の金管バンド業界の方々にも強くお勧めできるとても楽しいコンテストですので、ご都合が合うようでしたらぜひ一度は現地で観覧されることをお勧めします。

またオンラインでの観覧も可能ですので、こちらもお勧めです。

これまでご紹介してきたシリアスなコンテストと違い、今週はエンターテイメント力を競い合うブラス・イン・コンサートのご紹介でした。このコンテストはブリティッシュ・オープンなどと同様にバンドのレベルさえ示れば英国以外のバンドも出場可能で、今年もノルウェーやアメリカからの参加もあり世界各国のバンドのエンターテイメントが楽しめるコンテストでもあります。

今週で英国金管バンド業界の各種コンテストのご紹介は終わりですが、次週はコンテストに纏わる審査員についてや、逆にコンテストに出場しないバンドなどもう少しだけ深掘りをしてこのシリーズのまとめとさせていただきたいと思います。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。