【金管バンドナビ】#10 金管バンドの楽器 バリトンホーンとユーフォニアム

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

ソプラノ音域、アルト音域とご紹介してきました金管バンドの楽器シリーズですが、今回はテナーのパートよりフロント・ロウ(前列)のバリトン・ホーン、そしてアニメの主人公にもなり吹奏楽でも大活躍のユーフォニアムのご紹介です。

テナー音域

ソプラノ、アルト、テナー、ベースの基本四つの音域より、アルトとベースの中間、そして中低音域におけるメロディの要、それがこのテナー音域です。

そんなテナー音域、近年吹奏楽だけでは無く、ソロ楽器としてもたくさんの素晴らしい日本人奏者が台頭してきたユーフォニアムは金管バンドでも花形パートの一つです。またバリトン・ホーンはサクソルン属の中核を成す金管バンドにとって無くてはならないとても重要なパート、吹奏楽やミリタリーバンドでは有名なこれらの楽器が、金管バンドではどのように使われるか、ぜひご覧ください。

バリトン・ホーン(Baritone Horn)

金管バンドにおけるバリトン・ホーンは、テナー・ホーン(アルトホルン)と比べるとやや大きく、ユーフォニアムよりもやや小さい楽器です。アドルフ・サックスが発明したサクソルン属の金管楽器に分類され、通常3〜4本のピストンを備えています。演奏上では、1番バリトンと2番バリトンの2パートに分かれており、主に同じ動きの中でハモリなどを行うことが多いですが、コンテストの課題曲など難曲になると同じ楽器ながら全く違う旋律や伴奏を演奏することもあります。

ほとんどがユーフォニアムと同じ音域を担当することが一般的ですが、その役割は多岐にわたります。ソロ演奏からテナー音域のメロディ、他のパートとの協奏、またアルト音域のフリューゲルホルンやテナー・ホーンとの架け橋的な演奏、アルト音域の最低音域としてなど金管バンドにおける音色やハーモニーの要となる重要な楽器です。

近年、テナー・ホーンと同様に優れた演奏者が増え、バリトン・ホーンの協奏曲も増えてきました。また、演奏者の数とともに、楽器やマウスピース、さらに新しいミュートの開発も続々と進んでいます。今後もさらなる発展が期待される素晴らしい楽器の一つです。

ユーフォニアム(Euphonium)

金管バンドにおけるテナー音域の王、バンドにたった2席のみある首席、つまりプリンシパル(Principal)の名を持つパートが1st ユーフォニアムです。

ギリシャ語由来の言葉Euphonosから良い響き、良い音という意味より名付けられたこの楽器は、もともとはドイツ系の流れとアドルフ・サックスによるサクソルン金管楽器の流れから生まれた楽器です。金管バンドですのでここではサクソルンの流れを書いてみますが、当時のサクソルンの中で音域はバリトンというテナーとベースの間にあるパートで、先述したバリトン・ホーンと管の長さはほぼ同じですが、管の太さがより太くバリトン・ホーンに比べるとより太く大きな音色が出るように作られています。

またコルネットやテナー・ホーンといった3本のヴァルヴを持つ他の高音域楽器に比べると、現在ではヴァルヴが1本多い4本ついたユーフォニアムが主流で、それにより幅広い音域を演奏する上での音程の補正や音色の選択肢の幅を広げる機能を持ちました。それゆえテナー音域でのソロに始まり、全体でのメロディの主役、また伴奏の演奏などソロ以外での万能性も持っている素晴らしい楽器です。

筆者の主観ですが、コルネットとユーフォニアム、この両翼のプリンシパルの音色がバンドの土台となり、みながそこにつけていく(よく聞いてアンサンブルをしていく)ことによりバンドの音色が統一され、25名の金管楽器と3名の打楽器で構成される金管バンドの演奏が、まるで一本での演奏のようになるのはひとえに両プリンシパルの存在によるものだと思います。それゆえこの座席のよく比喩される言い方にThe most exciting seat in the band、バンドの中で最も熱狂的で、またワクワク&ハラハラするような席として呼ばれます。

Cory Band – Air: Aristotle’s Air by Christopher Bond

例えばコーリーバンドやブラック・ダイク・バンドのようなチャンピオン・セクションという英国金管バンドの中でも最上級の位に選ばれているバンドのプリンシパル奏者というのは演奏が上手いのは当たり前の話で、それぞれのバンドやパートとの調和性、また先述したアンサンブルを奏者同士信頼し合い行っていく上で必要不可欠な人間性の3つが絶対的に必要になります。(特にプリンシパル奏者にだけに限った話ではありませんが、とりわけ必要という話) なので、例えばこのプリンシパル奏者が引退するというのは、指揮者が変わるというのと同じくらい大きなことで、バンドの歴史が変わる瞬間と言っても過言ではありません。そのぐらい金管バンドにおけるプリンシパルの席は大きい意味合いを持っています。

他のパートの2ndパートも同じですが、ユーフォニアムにおける2ndパートも長いフレーズを美しく表現するため、また大音量でユーフォニアムパートとして演奏を続けるために、1stがブレスを取る位置以外でのブレスなど1stのサポートの他にも、自身のユーフォニアムパートとしての演奏など1stと同等、また1stとはまた違った意味での万能さをはじめとしたアンサンブル能力が必要なパートです。

アドルフ・サックスが目指した1種の楽器によって様々な音域をカヴァーするアンサンブルとしてサクソルンが生まれましたが、このテナー音域の中でも1stはテナーの上、2ndはテナーの下とより細分化していることにより金管バンド独特のあの何物にも例え難い美しい音色が生まれるのです。

Balkan Dance – Etienne Crausaz (Cory Band & NYSB)

吹奏楽やミリタリーバンドではお馴染みのバリトン・ホーンやユーフォニアムですが、金管バンドの世界ではまるでオーケストラのチェロパートやファゴットのようにテナーの音域の最重要パートとして扱われている楽器です。

ぜひ普段目にする楽器が金管バンドだとどのように使われているのかも注目しながらご覧いただけましたら幸いです。次週はその昔、神の楽器とも呼ばれた金管バンドのトロンボーンのご紹介です。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Besson アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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