【金管バンドナビ】#74 クラシックの大作曲家たちが遺した金管バンド作品③ ― ジョン・アイルランド後編 ―

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

台風と秋雨前線の影響で、すっきりしない天気が続いている関東ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

大雨による災害はもちろん、気温の変化による体調不良にも気をつけながら、元気に過ごしていきたいところですね。

さて、そんな秋の入り口ですが、日本各地では金管バンドの演奏会が開催されている一方、欧州や豪州では新年度を迎える9月。世界の金管バンド界では、早くも一年で最も熱いコンテストシーズンが始まっています。

今回は、そんなホットなニュースをお届けするとともに、前回に引き続きジョン・アイルランド特集です。

金管バンド情報

British Brass Festa in Osaka Vol.2開催

2025年から開催され、関西を中心に活動する金管バンドが一堂に会するコンサート「ブリティッシュ・ブラス・フェスタ・イン・大阪」が、10月3日(土)に開催されます。

今年は上記8バンドに加え、出演バンドと有志による合同演奏ステージも開催されるとのこと。日本各地で広がりを見せている金管バンドの祭典の一つとして、ますます盛り上がりを見せています。

筆者もImmortal Brass Eternallyとともに初参加させていただきますので、今からとても楽しみです。

主催は、プロモーター吹奏楽団を運営する特定非営利活動法人「SOUND・BERSERKER」です。

第172回ブリティッシュ・オープン開催

日本ではペリーが来航した年として知られる1853年に始まった「ブリティッシュ・オープン」が、今年もイングランド・バーミンガムで開催されます。

今年はフィリップ・スパーク生誕75周年ということで、オープン史上初めてスパークの作品が課題曲に選出されました。

その作品とは、2004年に当時のYBS(ヨークシャー・ビルディング・ソサエティ・バンド)を率いていたデイヴィッド・キング(David King)によって委嘱された『Music of the Spheres』です。

2004年に作曲されて以来、今回に至るまでの22年間で、自由曲として実に151回も選出されています。まさに驚異の数字です。

また今年は、これまで£5,500だった優勝賞金が£6,000(約125万円)に増額されました。金管バンド界を取り巻く環境が変化する中、こうした賞金の増額も、英国の金管バンド界を盛り上げる一助となりそうです。

全英選手権決勝

3月に行われた地区予選を勝ち抜いた強豪たちが英国一を争う、全英選手権決勝大会がこれから約1か月にわたって開催されます。

今年の1stセクションから4thセクションまでは、イングランド・ヨークにあるYork Barbicanにて、9月19日・20日の2日間にわたって開催されます。各セクションの課題曲は以下のとおりです。

1st Section

Beyond the Falls – The Smoke That Thunders (2026) / Andrew Wainwright

2012年のBrass in Concertに出場したGUS Bandのために作曲された作品で、今回、1st Sectionの課題曲として選出されました。

2nd Section

Song of Courage (1961) / Eric Ball

1939年にエリック・ボール自身が作曲した『A Prayer for Courage』からインスピレーションを得て作曲された作品。本コンテストに向けて、改訂が加えられています。

3rd Section

Snow Island (2024) / Thierry Deleruyelle

アルプスの雪景色でも知られるスイス・ヴァレー州(Valais)を題材に作曲された作品です。

決して珍しいことではありませんが、全英選手権という英国の伝統ある大会で、英国にとって「外国人」であるフランス人作曲家の作品が課題曲に選ばれるというのは、なかなか興味深い試みです。

日本でも徐々に人気が高まっている作曲家で、筆者も大好きな作曲家の一人。特に、抒情的で美しい旋律は、彼の作品の大きな魅力だと思います。

4th Section

Heroes of the North (2019) / Peter Graham

ノルウェーのノースホードランドにおける金管バンドのさらなる発展を願い、音楽学校の教師であるヘニング・アヌンセンによって委嘱された作品です。

ノルウェーにゆかりのあるさまざまな旋律が、変奏曲として用いられています。

Championship Section

A Road Less Travelled By (2020) / Philip Sparke

もともとは、2020年にリトアニアで開催予定だった欧州選手権の課題曲として作曲された本作。しかし、コロナ禍によるパンデミックの影響で大会は延期となり、その後、2024年の欧州選手権の課題曲として選曲されました。

アメリカの詩人ロバート・フロストによる詩集『Mountain Interval』から、そのタイトルが付けられています。

筆者も世界音楽コンテスト(WMC)の際に取り組んだ作品ですが、今年75歳を迎えるスパークが69歳の時に作曲した本作は、その年齢をまったく感じさせない、今なお最先端を走る素晴らしい作品です。

英国の最上級セクションであるチャンピオンシップ・セクションのバンドたちが、この作品をどのように演奏するのか、今から楽しみです。

ジョン・アイルランド後編「Comedy Overture」

by Herbert Lambert, bromide print, circa 1920

前回ご紹介したアイルランドの「ダウンランド組曲」ですが、アイルランドはこの作品のほかにも、長きにわたって愛され続けている金管バンド作品を遺しています。

それが「Comedy Overture」です。

1934年に作曲された本作ですが、2024年にもコンテストで自由曲として選曲されるなど、90年以上の時を経た現在でも、その人気は衰えることを知りません。

こうして長きにわたって金管バンドの名曲として愛され続けている本作を、本日はご紹介したいと思います。

作品概要

作曲年1934年ダウンランド組曲を作曲した2年後
作曲動機同年の全英選手権決勝の課題曲としてアイルランドにとって2作目の金管バンド作品
優勝バンドFodens Motor Works Band指揮はFred Mortimer、前回のダウンランド組曲も同様の組み合わせ
Comedyとはここでいう「Comedy」は、茶番や滑稽といった意味ではありません。むしろ、美しさや人間性、悲哀など、人間が持つさまざまな感情や人間臭さを含んだ言葉として捉えることができます。
当時、この作品についてJohn Henry Ilesも、「Comedy」という言葉を単なる「喜劇」として捉えてはいけない、という趣旨の説明をしています。
本作の音楽的な着想は、アイルランドが暮らしたロンドンという都市から得られています。
編曲「A London Overture」管弦楽版(1936年)題名が変わり、作曲者自身による編曲

1934年に作曲された本作は、全英選手権の課題曲としてジョン・アイルランドに委嘱され、生み出された作品です。1932年には前作「ダウンランド組曲」も同大会の課題曲に選ばれており、アイルランドはわずか2年の間に、2つの優れた金管バンド作品を世に送り出すこととなりました。

ピカデリー・サーカス

管弦楽版である「ロンドン序曲(A London Overture)」(1936年)の題名からも分かるように、本作の音楽的な着想は英国の首都・ロンドンにあります。曲中には、ロンドンの街を思わせるさまざまな音楽的描写が登場します。

とりわけ特徴的なのが、冒頭の霧深いロンドンを思わせる雰囲気から一転して現れる、ピカデリーを思わせる印象的な旋律です。

ロンドンの街中に響く喧騒。その中を走るダブルデッカー(二階建てバス)の車掌が、乗客に向けて叫ぶ「Piccadilly……Piccadilly」という呼び声が、とても印象的です(上記写真)。

この特徴的な呼び声こそが、本作の印象的な旋律の着想のひとつになったとされています。

下の動画では、2:17からそのテーマを聴くことができます。

構成

Andante moderato — 冒頭の長い序奏
Allegro moderato brillante — 「Piccadilly」の呼び声をもとにした主部
Tranquillo — 対照的な静かな部分
Vivace — 終結部

曲の構成は上記のようになっています。しかし、これらは決して「ロンドンの1日」を表したものではありません。人でごった返すロンドンという都市の中にある、喧騒、ユーモア、孤独、そして美しさ。そうしたさまざまな人間模様や都市の表情をひとつの作品にまとめ上げたのが、本作なのではないでしょうか。

上の画像は、本作が作曲された1930年代のロンドンの風景です。

さいごに

2回にわたってご紹介させていただいた、アイルランドの珠玉の作品はいかがでしたでしょうか?

現代の作曲家たちにも通じるさまざまな作曲技法の基礎が、これらの巨匠たちの作品からは感じられます。また、フレッチャーの「労働と愛」以前から、現代の金管バンド作品へとつながっていく転換期に生まれた作品を知ることは、現代の作品を演奏する上でも大きな参考になるのではないでしょうか。

これはあくまで筆者の主観ですが、最近では、金管バンドにおいてクラシック作品が演奏される機会が、以前よりも少なくなっているように感じています。だからこそ、こうした作品ばかりを取り上げて演奏する機会があっても面白いのではないかと、筆者は切に願っています。

それでは、今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽大学大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon、Besson、B&S、Mercer & Barker社アーティスト。WMC 2026 Gold Award受賞。

Nexus Brass Band、Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally常任指揮者。東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本の金管バンドの普及・指導、演奏、指揮、企画・運営など幅広く活動。

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