みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
日本と比べて湿度の低いヨーロッパから帰国し、日本の空港に降り立った瞬間、まとわりつくような夏の空気に「帰ってきたな」と実感しました。
厳しい暑さが続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
先日、関西を拠点とする金管バンド「Immortal Brass Eternally」(以下、IBE)とともに出場してまいりました世界音楽コンテスト(World Music Contest、以下、WMC)についてご報告したいと思います。
1951年に幕を開け、今年で75周年・20回目を迎えたWMC。そんな歴史ある舞台に、アジアの金管バンドとして初めて出場したIBEは、どのような挑戦を繰り広げ、どのような結果を残したのでしょうか。
INDEX
世界音楽コンテスト(World Music Contest)

このコンテストについてはこちらをご覧ください。
Immortal Brass Eternallyについてはこちらからご覧ください。
もともとIBEは、2021年に開催予定だったWMCへの出場を目指して準備を進めていました。しかし、新型コロナウイルスの世界的な流行により海外渡航が困難となり、そのときは挑戦を断念せざるを得ませんでした。
その挑戦から3年後の2024年には、ニュージーランド全国大会に出場し、Aグレードで4位を獲得。そして2026年、満を持してオランダ・ケルクラーデで開催されたWMCへの出場を果たすこととなりました。
WMC金管バンド部門

WMCの金管バンド部門は全部で4つのカテゴリーに分かれており、第1〜第3セクション、そして最高峰となる「コンサート・ディヴィジョン」で構成されています。
このコンサート・ディヴィジョンには、現在世界ランキング上位のバンドが世界各国から集います。今年は特にその顔ぶれが非常に充実しており、世界最高峰の金管バンドを決める舞台と呼ぶにふさわしい出場バンドが揃いました。
以下、今年のコンサート・ディヴィジョンに出場した全10バンドをご紹介します。
金管バンドの神々に愛された演奏順
自由プログラムでは、一般的なコンテストでいう「自由曲」にあたるコンテスト作品1曲に加え、協奏曲1曲を含む30分間のプログラムを演奏します。
その演奏順は、事前に公平性を担保した場でWMC運営による抽選によって決定されます。そして、私たちIBEが引き当てた演奏順は、なんとトップバッターとなる「1番」でした。
一方、課題曲の演奏順は、本番当日の朝に各バンドの代表者が集まり、その場で抽選によって決定されます。
そして、その抽選でも、なんとIBEは再び「1番」を引き当てました。自由プログラム、課題曲ともにトップバッターという、なかなか珍しい巡り合わせとなったのです。
くじを引いたIBEの代表によると、結果を見た他バンドの代表者たちからは、笑顔で「Thank you」と声を掛けられたそうです。
演奏順1番は、昔から「なかなか上位に入りにくい」と言われることが多く、できれば避けたい順番として知られているからです。
課題曲「幻影~幽霊船”さまよえるオランダ人号”による交響的肖像~ / ヤン・デ ハーン」

課題曲の審査は、現地時間14時にスタート。当日の朝に行われた抽選順に各バンドが演奏していきます。
1番となった私たちは、ボランティアスタッフの皆さんの案内で衣装に着替え、ウォームアップを済ませると、いよいよ舞台袖で出番を待ちました。
チケットはほぼ完売していたものの、まだ世界的な知名度が高いとは言えない私たちIBEの演奏では、客席が満席になることはありませんでした。
それでも、遠く極東の日本からやってきた私たちを、お客様は温かい拍手で迎えてくださいました。その歓迎ぶりが、とても印象に残っています。
やがて司会者のアナウンスが入り、審査員の準備が整うと、いよいよ私たちの演奏が始まりました。
演奏していた私自身の感覚では、約15分という時間は本当にあっという間でした。
バンド、そしてソリストたちは、それまで積み重ねてきた練習の成果を存分に発揮し、素晴らしい演奏を披露することができました。
演奏後には、序盤は静かに耳を傾けていたお客様からも大きな拍手と「Bravo!」の声が送られました。演奏順1番という大役のもと、このコンテストにおける課題曲の“世界初演”を無事に務め上げることができた瞬間でした。
英国金管バンドウェブサイト最大手「4barsrest」による講評

課題曲
英国のブラスバンド専門メディア**「4barsrest」**では、Immortal Brass Eternallyの課題曲《Mirage》について、日本のバンドによる印象的なコンテストデビューとして高く評価していただきました。
講評では、作品への理解を踏まえた音楽的アプローチに加え、音色や響き、色彩の変化によるドラマ性の表現、さらには打楽器およびチューバセクションの表現力が評価されています。一方で、作品全体の構成感については、さらなる発展の余地があることも指摘されました。
また、指揮については「作品を深く理解した知的で明快なアプローチが、バンドの力を最大限に引き出していた」と評されました。
さらに、国際的なユーフォニアム奏者Steven Mead氏は、課題曲への挑戦を高く評価するとともに、ユーフォニアム独奏を特に称賛しました。一方で、高音域の精度については今後の課題として言及されましたが、総じて日本のバンドによる質の高いコンテストデビューであると評価され、翌日のコンサートプログラムへの期待も寄せられました。
自由プログラム
自由プログラムでは、Christopher Bond《Soaring the Heights》、Edward Elgar《Nimrod》、黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》、Philip Sparke《A Road Less Travelled By》を演奏しました。
英国のブラスバンド専門メディア**「4barsrest」**は、演奏全体について「前日の課題曲とはまったく異なる印象を与える演奏」であったと評し、プログラム構成の完成度と各作品へのアプローチを高く評価しました。
レビューでは、《Soaring the Heights》の躍動感と推進力、《Nimrod》の抑制された表現の中にある音楽性、黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》におけるソリストの卓越した演奏、そして《A Road Less Travelled By》では、作品への深い理解に基づく指揮と、それに応えるアンサンブルが高く評価されています。一方で、終盤にはわずかな疲労感も指摘されましたが、「バンドの若々しい躍動感と音楽を楽しむ姿勢が聴衆に伝わる演奏」と総括されました。
また、Steven Mead氏も各作品について詳細な講評を行い、特に黛敏郎作品を「A super performance」と高く評価しました。さらに、《A Road Less Travelled By》については、演奏の完成度だけでなく、日本のブラスバンドの著しい発展と文化的成熟に言及し、その歩みを高く評価しています。
これらの講評は、Immortal Brass Eternallyの演奏のみならず、日本のブラスバンドが国際的な舞台で着実に存在感を高めていることを示すものといえるでしょう。
原文はこちらからご覧ください。(外部サイト、英語)
結果

| 順位 | バンド名 | 得点(課題曲 / 自由プログラム) |
| 1位 | 🇨🇭 Brass Band Treize Etoiles | 97.25/97.33=97.29 |
| 2位 | 🇧🇪 Brass Band Willebroek | 95.00/99.50=97.25 |
| 3位 | 🏴 Flowers Band | 94.67/98.11=96.39 |
| 4位 | 🏴 Cory Band | 95.92/95.89=95.90 |
| 5位 | 🇳🇱 Brass Band Schoonhoven A | 93.08/91.56=92.32 |
| 6位 | 🇦🇺 Australia Brass | 93.67/90.22=92.32 |
| 7位 | 🇳🇿 Wellington Brass | 93.33/89.78=91.56 |
| 8位 | 🏴 The Cooperation Band | 90.58/92.11=91.35 |
| 9位 | 🇯🇵 Immortal Brass Eternally | 86.00/87.67=86.83 |
| 10位 | 🇺🇸 Five Lakes Silver Band | 85.00/85.78=85.39 |
世界最高峰の金管バンドが集うこのコンテストにおいて、Immortal Brass Eternallyは10バンド中9位という結果を収めました。また、WMCの規定により80点以上を獲得したバンドに与えられる「Gold」評価もいただくことができました。
総評
今回、IBEとともにWMCへ挑戦する機会をいただけたことは、一音楽家としてこの上なく光栄な経験でした。このような貴重な機会をくださったImmortal Brass Eternallyの皆さまには、心より感謝しています。
また、この挑戦にあたっては、日本各地の皆さまをはじめ、WMC運営の皆さま、そして世界中の多くの方々から、ご支援、ご協力、そして数え切れないほどの温かい応援をいただきました。
その一つひとつの支えがあったからこそ、この遠征を無事に終えることができました。この場をお借りして、応援してくださったすべての皆さまに心より感謝申し上げます。
4年に一度開催されるWMCには、世界中から最高峰の金管バンドが集結します。今年は、欧州選手権に出場した数々の名門バンドも顔を揃え、まさに世界最高峰と呼ぶにふさわしい大会でした。
そのような舞台で、IBEの一員として演奏できたことは、私にとって本当にかけがえのない経験となりました。同時に、日本の金管バンド界の現在地、そしてIBE自身の強みや課題を改めて知ることができた、学びの多いコンテストでもありました。
今回、オランダ・ケルクラーデに到着したその日から会場を後にするまで、極東・日本からやって来た私たちを温かく迎えてくださったWMC運営の皆さまをはじめ、出場バンドの皆さま、そして多くのお客様に心より感謝申し上げます。
WMC75年の歴史の中で、アジアの金管バンドとして初めてコンサート・ディヴィジョンの舞台に立った私たちを、最初はどのように迎えればよいのか戸惑われた方もいらっしゃったかもしれません。しかし、演奏が終わる頃には温かい拍手や「Bravo!」の声をたくさんいただき、その歓迎ぶりに胸が熱くなりました。
音楽は言葉や国境を越えて人と人をつないでくれる——そんなことを改めて実感した、忘れることのできないWMCとなりました。
10団体中9位という結果は、もちろん私たちが目指していた順位ではありませんでした。しかし、世界最高峰の舞台で日本のブラスバンドの現在地を示し、世界へ向けて確かな一歩を刻むことはできたのではないかと感じています。
そして、もし再びこの舞台へ挑戦する機会をいただけるのであれば、今回の経験を糧に、さらに高みを目指して歩み続けたいと思います。
この経験を胸に、これからも日本の金管バンドの発展に少しでも貢献できるよう歩み続けたいと思います。
心から、素晴らしい一週間でした。

終わりに
今回、課題曲演奏の前日にWMC運営よりご依頼いただいたコンサートにも出演してまいりました。急遽海外からのライヴ配信となったため画質はあまり良くありませんが、もしよろしければぜひご覧ください。
Immortal Brass Eternally in Fringe Live (Youtubeページに飛びます。)
また、WMCの公式ライヴストリーミングサービス「VIDA」では、今回のコンテストの演奏を英語でご視聴いただけます。2026年10月1日までアーカイブ配信も行われていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
「VIDA」(英語、有料サイト)
さて、WMCへの挑戦も終わりましたので、次回からは再び「偉大なクラシック作曲家が遺した金管バンド作品」シリーズへ戻ります。日本では2000年代以降の作品が演奏される機会も多い一方で、1900年代初頭には現在でも色あせない名作が数多く残されています。ぜひ一緒に、その魅力を見てまいりましょう。
本日も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導









