みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
数年ぶりに「これぞ梅雨」と感じるような天候が続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今回は金管バンドニュースに加え、前回の記事でご紹介しきれなかったレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams、以下「RVW」)のオリジナル金管バンド作品のうち、残る2作品をご紹介します。
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金管バンド情報

日本では、最大規模のコンテスト部門である吹奏楽コンクールが7〜8月に集中しています。一方、ヨーロッパでは9月始まり・7月締めの学年暦を採用している国が多く、イギリスをはじめとする金管バンド強豪国も同様です。
そのため、主要な金管バンドコンテストは7月中旬から8月末頃までほとんど開催されず、多くのバンドが長期休暇に入ります。また、強豪バンドの首席奏者たちは、この時期に世界各地で開催されるサマーキャンプへ講師として招かれ、指導や演奏活動を行うことも少なくありません。
そんなヨーロッパのシーズンの締めくくりを飾るのが、4年に一度開催される「音楽業界のオリンピック」とも称される**世界音楽コンテスト(World Music Contest:WMC)**です。いよいよ、その金管バンド部門がまもなく開幕します。
この記事が公開される頃には、筆者もImmortal Brass Eternallyとともに、オランダ・ケルクラーデで開催されるWorld Music Contestに滞在し、大会主催者からご依頼いただいたフリンジ・コンサートに出演している頃かと思います。
そして翌日の7月11日(土)には課題曲、7月12日(日)には自由プログラムの審査が行われます。世界最高峰の舞台で、自分たちらしい演奏をお届けできるよう全力で臨んでまいります。
以下全て日本時間
Immortal Brass Eternally 出演スケジュール(日本時間)
- 7月10日(金)22:30〜23:30 フリンジ・コンサート(会場:Markt)
- 7月11日(土)21:00〜翌3:05の間 課題曲審査(出演順は当日の抽選により決定/会場:Roda Hall)
- 7月12日(日)17:00〜17:35 自由プログラム審査(会場:Roda Hall)
クレジットカードとライヴストリーミングを視聴できる環境があれば、日本からでもご覧いただけます。1951年の創設以来、アジアの金管バンドとして初出場を果たすImmortal Brass Eternallyの挑戦を、ぜひリアルタイムで応援していただけましたら幸いです。
下の画像をクリックすると、ライヴストリーミングの視聴ページ(英語・有料)へアクセスできます。

より詳しい詳細につきましては筆者の個人ブログよりご覧ください。(日本語、無料)
クラシックの大作曲家たちが遺した金管バンド作品③レイフ・ヴォーン ウィリアムズ
前回ご紹介した《ブラスバンドのための変奏曲》は、RVWの作品の中では比較的日本でも演奏される機会があります。しかし、ブラスバンドのために書かれたオリジナル作品は他にも2作品あり、いずれも非常に魅力的な作品です。
筆者自身、これらを含むRVW作品のみで構成したコンサートを開催したいと思うほど、この作曲家を敬愛しています。一方で、これらの作品を日本で耳にする機会は決して多くなく、その魅力がまだ十分に知られていないことを残念に感じています。
今回は、この偉大な作曲家RVWがブラスバンドのために遺した3つのオリジナル作品のうち、前回ご紹介できなかった残る2作品をご紹介します。どちらもRVWの魅力が存分に詰まった名作ですので、ぜひ一度お聴きください。
《ヘンリー五世》(Henry the Fifth)

1933〜34年に作曲された、RVWにとって初めてのブラスバンドのためのオリジナル作品です。
イングランド王の中でも特に英雄視されているのがヘンリー五世です。若き日は血気盛んな王子として知られていましたが、1415年、フランスとの百年戦争における「アジャンクールの戦い(Battle of Agincourt)」で、自軍の数倍ともいわれるフランス軍を相手に歴史的な勝利を収めました。その生涯は後にシェイクスピアの歴史劇《ヘンリー五世》の題材にもなり、現在でもイギリスを代表する英雄王の一人として広く知られています。
その英雄王、そしてシェイクスピアの歴史劇《ヘンリー五世》に着想を得て作曲されたのが、その名も《ヘンリー五世》です。
作品には、次のような歴史的な旋律が巧みに織り込まれています。
『The Agincourt Song』(アジャンクールの歌)
『フランスの民謡や軍歌』
William Byrdの『The Earl of Oxford’s March』
これらの歴史的な旋律を巧みに用いることで、シェイクスピアの歴史劇《ヘンリー五世》やアジャンクールの戦いを想起させる音楽的世界が描かれています。
《ウェールズの3つの讃美歌による前奏曲》(Prelude on Three Welsh Hymn Tunes)
個人的には、まず何より「最高の作品」です。ウェールズ讃美歌の持つ崇高さと、ウェールズといえば思い浮かぶ重厚でサテンシルバーを思わせる響き、そしてRVWならではの至高のオーケストレーションを存分に堪能できる名作です。特に低音楽器の活躍は聴きどころの一つで、その豊かな響きが作品全体を力強く支えています。
前回ご紹介した《ブラスバンドのための変奏曲》が作曲されるわずか2年前、1955年に作曲されたのが本作です。1933〜34年に《ヘンリー五世》を作曲して以来、20年以上にわたってブラスバンドのためのオリジナル作品は作曲されておらず、本作はRVW晩年を代表する傑作の一つとなりました。
1954年、当時82歳だったRVWは救世軍インターナショナル・スタッフ・バンドの演奏に深く感銘を受けます。そして、同バンドのための作品を書く依頼を快諾し、誕生したのが本作です。
その名のとおり、本作にはウェールズに由来する3つの讃美歌旋律が用いられています。
① Ebenezer(1897)
作曲: Thomas John Williams
「Ebenezer」という名は、作曲者であるThomas John Williamsがオルガニストを務めていた礼拝堂「Ebenezer Chapel」に由来するとされています。この旋律は本作の冒頭で堂々と提示され、RVW自身も「最も偉大な讃美歌旋律の一つ」と高く評価していたと伝えられています。
② Bryn Calfaria
作曲:William Owen(1869)
ウェールズ語で「カルバリの丘」を意味するこの讃美歌は、19世紀にWilliam Owenによって作曲されました。作曲者が故郷ウェールズの採石場を訪れた際、石板にこの旋律を書き留めたという逸話も伝えられています。
現在でも、この旋律はオルガン作品や合唱作品をはじめ、さまざまな編成の作品で広く用いられています。
③ Hyfrydol
作曲:Rowland Prichard(1830)
題名の「Hyfrydol」はウェールズ語で「心地よい」「美しい」を意味します。ウェールズを代表する讃美歌旋律の一つとして広く親しまれており、現在でも世界中の教会で多くのキリスト教徒によって歌い継がれています。
おすすめ音源
今回ご紹介した2作品をじっくり味わうのであれば、ぜひおすすめしたいアルバムがあります。
Tredegar Town Band
Ralph Vaughan Williams: Music for Brass Band

《Henry the Fifth》《Prelude on Three Welsh Hymn Tunes》《Variations for Brass Band》の3作品がすべて収録されているだけでなく、演奏・録音ともに非常に完成度が高く、RVWのブラスバンド作品に初めて触れる方にも、自信を持っておすすめできる最高の一枚です。
チューバ奏者にとっての最重要楽曲、『ベースチューバとオーケストラのための協奏曲』の金管バンド伴奏版ももちろん収録されています。
CDのほか、配信サービスでもお楽しみいただけますので、ご興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
最後に
RVWがブラスバンドのために残したオリジナル作品はわずか3曲ですが、そのどれもが今日まで世界中で愛され続ける名作です。またこの他にも軍楽隊(吹奏楽)やオーケストラのための作曲されたものも金管バンド用に編曲され現在でもたくさんのバンドに演奏される大変人気の作曲家です。
日本ではこれらの作品を耳にする機会は決して多くありません。しかし、《ヘンリー五世》の壮大な歴史絵巻や、《3つのウェールズ讃美歌による前奏曲》の深い祈りに触れることで、RVWがブラスバンドという編成に寄せた深い愛情、そして現代のブラスバンド作品にも通じる先進的な作曲技法を感じていただけるのではないでしょうか。
この記事をきっかけに、一人でも多くの方にこれらの作品の魅力を知っていただけたら、これほど嬉しいことはありません。ぜひ、みなさまのレパートリーの一曲にご検討ください。
本日はここまで、筆者はオランダで一旗あげてまいります。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導

