皆さま、こんにちは。
2026年度の課題曲における「マーチ」作品は、2曲中2曲ともが4分の2拍子という同じ拍子の作品となりました。過去を振り返ると、2024年度に2分の2拍子を含んだ2拍子系「マーチ」作品だけの年がありましたが、「マーチ」と「マーチ以外」が再び混在するようになった2008年以降で「マーチ」作品が全て4分の2拍子の作品となったのは初めてのことです。
今年度の課題曲Ⅱ:ザ・ガーズ は、全日本吹奏楽連盟からの「いわゆる課題曲マーチを払拭する書式のマーチ」という委嘱を受けて星出尚志さんが作曲したブリティッシュマーチ、課題曲Ⅲ:あつまれ おもちゃのマルチャ! は、昨年度に続き2年連続での課題曲への選出となった伊藤士恩さんが作曲した、課題曲マーチとしての特徴を持ちながらも作曲者の遊び心が加わった作品となりました。
以前の記事で「マーチ」の分類になる課題曲をいくつかご紹介したのですが、今回は過去の課題曲の中から4分の2拍子のマーチと、その名演をご紹介しようと思います。

INDEX
2003年 ウィナーズ-吹奏楽のための行進曲
課題曲Ⅰ:ウィナーズ ~吹奏楽のための行進曲
作曲:諏訪 雅彦
全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部
指揮:桐田 正章
ウォルトン作曲の戴冠行進曲「王冠」のようなコンサートマーチを意図して作曲された行進曲で、技術的のみならずアンサンブル的にも高度なレベルを要求される大変な曲でありながらも音楽的な魅力が高くて人気があった作品です。
以前の記事では神奈川大学の演奏をご紹介しましたが、今回は愛知工業大学名電高等学校の演奏をご紹介します。冒頭のトランペットソロを始めとした金管楽器のレベルの高さはもちろんですが、美しい音色に音楽的表現が合わさったオーボエの存在感が凄まじく、豪華さと繊細さを併せ持ったバンドによる見事なアンサンブルがこの作品の魅力を最大限に伝えてくれます。
1999年 レイディアント・マーチ
課題曲Ⅱ:レイディアント・マーチ
作曲:今井 聡
全日本吹奏楽コンクール
1999年(第47回大会) 金賞
演奏:平田市立平田中学校吹奏楽部
指揮:古川 慎治
「晴れやかな」「煌めく」 という意味の“Radiant”というタイトルが示すように、華やかさと儀式的荘重さを併せ持った行進曲を意図して作曲された、最初から最後までパワフルな重量級の作品です。中間部の低音域のメロディがB♭クラリネットとアルトクラリネットのみで書かれており、当時中学生だった私がクラリネットの低音域の美しさとカッコよさに惚れたことを思い出します。
この年の全国大会では中学校から一般団体まで様々な名演が生まれたのですが、今回は平田市立平田中学校の演奏をご紹介します。中学生らしいエネルギッシュで溌剌とした演奏かつ、中学生とは思えないパワフルで余裕のある演奏で、中間部の堂々としたトランペットソロなどの個人技も光る名演だと思います。
2012年 行進曲「よろこびへ歩きだせ」
課題曲Ⅱ:行進曲「よろこびへ歩きだせ」
作曲:土井 康司
なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2012
演奏:なにわ《オーケストラル》ウィンズ
指揮:丸谷 明夫
教会オルガニストを勤めながら、讃美歌の創作などに携わり、キリスト教音楽の創作に専念されている作曲者による行進曲です。“Pregando(プレガンド)”「祈るように」と書かれた中間部の讃美歌のような美しいコラールがとても印象的な作品で、過去の課題曲のマーチ作品にはあまりなかった温かくほっこりとした雰囲気の行進曲として私の記憶に残っています。
この年のコンクールでの名演はいくつかあるのですが、コンクールの時間制限の影響もあってかテンポが速めの演奏が多くなってしまっており、作品本来のあるべき姿が表現されていると私が感じた演奏として、プロのオーケストラ奏者とオーケストラに客演している奏者で構成されている なにわ《オーケストラル》ウィンズ の演奏をご紹介します。付点のリズムの正確さ、明瞭かつ美しい発音、美しいサウンドによるコラールのハーモニーなど、課題曲という枠を超えて一つの作品として楽しめる素晴らしい演奏です。
2003年 イギリス民謡による行進曲
課題曲Ⅱ:イギリス民謡による行進曲
作曲:高橋 宏樹
全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実
これまでに課題曲のマーチ作品として4回採用されている高橋宏樹さんの、課題曲デビュー作品であり作曲家としてのデビュー作品となった行進曲です。曲はタイトル通り「グリーンスリーブス」「埴生の宿」「アニーローリー」と3つのイギリス民謡が用いられており、トリオが4分の4拍子にはなっていますが基本的には4分の2拍子の行進曲です。
この課題曲を演奏して全国大会唯一の金賞受賞となりました、埼玉栄高等学校の演奏をご紹介します。行進曲の演奏のツボを押さえたお手本のような演奏で、イギリス民謡の美しい旋律の歌いこみも素晴らしく、シンプルで魅力的な作品の良さが伝わる名演だと思います。
2008年 ブライアンの休日
課題曲Ⅰ:ブライアンの休日
作曲:内藤 淳一
全日本吹奏楽コンクール
2008年(第56回大会) 金賞
演奏:精華女子高等学校吹奏楽部
指揮:藤重 佳久
これまでに課題曲としては5回採用されており、マーチ作品としては4回の採用、その内の3回は朝日作曲賞受賞という、内藤淳一さんが作曲した2008年度課題曲となったマーチです。学校の部活動でトランペットを吹いているブライアン君がアクティブなオフの日を楽しんでいるというイメージで作曲されたとのことで、サーカスマーチや駆け足行進曲を想定した急速なテンポ設定が課題曲としては珍しい作品です。明るく楽しい曲想が人気の作品でしたが、課題曲としては大変難しいポイントがいくつかあり、特に第一マーチのメロディの付点リズムは鬼門クラスに苦しまされた作品として私の記憶に残っています。
精華女子高等学校の演奏はマーチの概念を超えるほどにパワフルでゴージャス、第一マーチのトランペットの付点リズムは正確さ・音の処理が完璧で初めて聴いた時は驚愕しました。荒さを感じるギリギリのラインを攻めた演奏で、トリオを含めた全体のフレーズの取り方も素晴らしく、課題曲として苦しんだことを忘れるくらいマーチとして純粋に楽しめる名演だと思います。
2011年 マーチ「ライブリー アヴェニュー」
課題曲Ⅰ:マーチ「ライブリー アヴェニュー」
作曲:堀田 庸元
全日本吹奏楽コンクール
2011年(第59回大会) 金賞
演奏:生駒市立生駒中学校吹奏楽部
指揮:牧野 耕也
東京藝術大学音楽学部作曲科を経て、同大学院修士課程作曲専攻を修了された堀田庸元さんが作曲した、2011年度課題曲となったマーチです。課題曲マーチとしての特徴をもつシンプルな作品ですが、オーケストレーションやメロディなどに作曲者の個性が表れていて、私の中でも記憶に残っている課題曲のマーチ作品です。
生駒市立生駒中学校の演奏は、この手の課題曲を演奏したら敵なしと言えるほどの素晴らしさで、軽快で可愛らしい曲想を捉えたリズム感の良さと発音の明瞭さと美しさが際立っており、この曲の魅力が最大限に伝わる名演だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか。4分の2拍子のマーチの中から印象に残っている作品と演奏を6つご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

