【吹奏楽ナビ】#41 バレエ「ライモンダ」

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皆さま、こんにちは。

今回は、前回に引き続き「バレエ音楽」のジャンルの作品の第2弾として、バレエ「ライモンダ」を取り上げます。「ライモンダ」のバレエ音楽がオーケストラで演奏されるのを聴く機会はほとんどなく、一般にはなかなか知られていない作品だと思いますが、私は音楽的な魅力に溢れた作品だと思っています。日本では、バレエ音楽「ライモンダ」と吹奏楽コンクールに関わりがありましたので、吹奏楽コンクールでの演奏を通して「ライモンダ」の魅力が少しでも伝わればと思い、演奏をご紹介します。

「ライモンダ」

「ライモンダ」は全3幕4場のバレエ作品で、音楽はロシアの作曲家のアレクサンドル・グラズノフが作曲しました。私はこの作品を吹奏楽コンクールでの演奏で初めて知りましたが、バレエ界では比較的上演されている演目のようです。この作品のあらすじを簡単にご紹介しておきましょう。

ライモンダは、若くして女伯爵の気品高い地位の女性で、婚約者で騎士のジャン・ド・ブリエンヌが十字軍に遠征しているので、帰りを待っています。パーティの夜、異国の騎士であるアブデラフマンが美しいライモンダを略奪しにやってきてしまいますが、そこへジャンが帰還し、婚約者を賭けてアブデラフマンと決闘します。アブデラフマンに勝ったジャンとライモンダの二人が結婚式で結ばれるというお話です。

第三幕の祝典(1898年頃)

中央大学 (1993年)

バレエ音楽「ライモンダ」より
情景Ⅰ、スペインの踊り、ピッチカート、ギャロップ、アポテオーゼ
作曲:A.グラズノフ 編曲:林 紀人

全日本吹奏楽コンクール
1993年(第41回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人

バレエ音楽「ライモンダ」の全国大会初演であり、この曲の魅力を私を含むたくさんの人達に伝えた功績のある名演です。中央大学と林紀人さんのコンビが生み出した名編曲でもあります。

第1幕第1場の情景Ⅰ《0:00~》の金管楽器の柔らかいサウンドでの美しいコラールで曲が始まり、オーケストラの弦楽器を思わせる木管楽器の表情豊かなレガート奏法と金管楽器のサウンドが絶妙にマッチしています。カスタネットに導かれて情熱的な第2幕のスペインの踊り《2:07~》のリズムのキレの良さに圧倒され、原曲では弦楽器中心の第1幕第1場のピッチカート《3:42~》では木管楽器中心で原曲のイメージを崩さないタンギング奏法の美しさが光ります。軽快なリズムと金管楽器の迫力によって楽しい気分になれる第3幕のギャロップ《4:51~》から、柔らかくブレンドされたトゥッティサウンドを堪能できるアポテオーゼ《7:03~》のコラールで華やかながらも美しく曲は終わります。

尼崎市吹奏楽団 (1994年)

バレエ音楽「ライモンダ」より グランド・アダージョ
作曲:A.グラズノフ 編曲:木村 吉宏


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:尼崎市吹奏楽団
指揮:辻井 清幸

1994年は課題曲の演奏時間が最も長い年となり、全国のバンドが自由曲の選曲に悩まされた年でしたが、尼崎市吹奏楽団が選曲したのはバレエ音楽「ライモンダ」からの1曲、グランド・アダージョというゆっくりなテンポの曲で、おおよそコンクールには向かないとされるような曲調でしたが観客を惹きこむ名演となりました。

冒頭から、一般バンドならではの大人数での美しくブレンドされた分厚くも柔らかいサウンドが大変印象的です。アゴーギグをうまく使った音楽的な表現が素晴らしく、特に2:24からの木管高音の耳に痛くない音の混ざり方は大人にしかできない演奏だと思います。終盤に向けて音楽の熱が高まっていき、4:27からの金管楽器の音圧も加わった大人数でのトゥッティサウンドに圧倒されて曲が終わります。

中央大学 (1998年)

バレエ音楽「ライモンダ」より
マーチ、ロマネスカ、バッカナール、賛歌
作曲:A.グラズノフ 編曲:林 紀人

全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人

1993年に「ライモンダ」を初演した中央大学が、林紀人さんの編曲で前回とは違う新たな曲を組み合わせたヴァージョンでの演奏です。

第2幕のマーチ《0:00~》で華やかに曲が始まり、オーケストラ作品によく合うブレンドされたトゥッティサウンドを堪能できます。木管楽器の美しいサウンドで切なさを感じさせる表情豊かなロマネスカ《1:30~》から、技術的な難易度が高いバッカナール《2:48~》を見事に吹きこなす木管楽器のレベルの高さに圧倒され、賛歌《5:05~》に入った瞬間の弱奏の美しさにハッとしてからの終盤の金管楽器と木管楽器がよくブレンドされたオーケストラを思わせるサウンドに聴き入って曲が終わります。

安城学園高等学校 (2000年)

バレエ音楽「ライモンダ」より
ワルツの再開、プレリュード、ロマネスカ、コーダ
作曲:A.グラズノフ 編曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2000年(第48回大会) 銀賞
演奏:安城学園高等学校吹奏楽部
指揮:吉見 光三

1990年代までの吹奏楽コンクールでの「ライモンダ」といえば林紀人さんの編曲版か、グランド・アダージョの木村吉宏さんの編曲版のどちらかの2択というぐらいこの2つの編曲版の演奏回数が多かった中で、2000年に鈴木英史さんの編曲版が安城学園高校の演奏で全国大会に新しく登場しました。

第1幕第1場のワルツの再開《0:00~》で優雅に曲が始まり、安城学園高校の柔らかく美しいサウンドがこの曲にぴったりはまっています。プレリュード《1:24~》はほとんどハープソロというぐらいハープの独壇場ですが、高校生とは思えない音楽的な上手さで時が止まったような感覚にさせられます。この流れから始まるロマネスカ《2:13~》は別の世界にいったような気持ちで音楽が語る表情に浸ることができます。その後第1幕第2場のコーダ《3:27~》が始まって一気に軽快な音楽となり、華やかさを増していって幸せな気分で曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。グラズノフ作曲「ライモンダ」のコンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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