みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
今回からのシリーズでは日本で人気の金管バンド作曲家シリーズです。
みなさんが日頃よく聴かれたり、実際に演奏されている作曲家についてまとめてみますので、ぜひレパートリーの参考にしていただきながら素晴らしい作曲家たちの珠玉の作品をお楽しみください。
フィリップ・スパーク(Philip Sparke)
日本では吹奏楽はもとより、ファンファーレ・オーケストラ、そしてもちろん金管バンド業界でも最も人気の高い作曲家の1人『フィリップ・スパーク』、そんな彼の作品は金管バンドが生まれた英国でももちろん人気で、毎年多くのコンサートやコンテストでも彼の作品が取り上げられています。
1951年英国の首都ロンドンに生まれ、その後英国ロンドンにある名門王立音楽大学(Royal College of Music)にて作曲、トランペット、ピアノを学びました。また在学中に金管バンドや吹奏楽といったアンサンブルに関心を持ち、大学の吹奏楽や生徒たちで作った金管バンドで演奏を始め、さらに自身でこれらのアンサンブルのために作曲も行いました。
彼の作曲家としてのキャリアの始まりは、このアンサンブルとの出会いによるもので、1974年にはスパーク氏にとって初めて金管バンドのために作曲し、出版もされた金管バンドのための作品『Concert Prelude』が発表されました。この作品は、スパーク氏がまだ音楽大学に在籍中に楽譜出版社であるR.Smith & Co.社が学生作曲家向けに新曲の募集を行った際に応募し、そしてその出版社との打ち合わせの後、当日の夜に書き上げた作品です。(上記Youtube動画よりお聞きいただけます。)
プロ作曲家として活動開始
その後ますます創作活動に意欲を増したスパーク氏のもとに世界中から作曲依頼のオファーが殺到します。代表的なものには1979年ニュージーランド・ブラスバンド協会からの依頼でブラスバンド・チャンピオンシップス100周年記念大会のための課題曲『長く白い雲のたなびく国「アオテアロア」(The Land of The Long White Cloud – Aotearoa)』を作曲、またヨーロッパ放送連合(The EBU)によるバンドのための作曲コンテストでは『スリップ・ストリーム』、『スカイライダー』、そして吹奏楽でも人気の作品『オリエント急行』で3度の優勝を飾っています。
その他にもヨーロッパ各地それぞれの全国コンテスト課題曲の作曲依頼やこれまで全英大会(The National)の課題曲も3度作曲しました。
その後、作曲や編曲だけではなく指揮やコンテスト審査員としての活動も幅広く行い、ヨーロッパはもとよりスカンディナビア諸国やアジア圏、オーストラリア、ニュージーランドへも活動の幅を広げました。そして、2000年からはアングロ・ミュージック(Anglo Music Press)という出版社を立ち上げ、フル・タイムの作曲家としての地位を確立させました。
日本との関わり
吹奏楽大国でもある日本においては東京佼成ウィンド・オーケストラによって記念コンサートへの委嘱がされ、これをきっかけに日本との関わり合いが深まり、その後2020年には神奈川県川崎市にある洗足学園音楽大学の客員教授に就任しました。
もちろん日本の金管バンド業界でも最も人気の高い作曲家として有名で、日本の音楽ラジオ番組『The Bandwagon』の委嘱ではこの番組名でもある『The Bandwagon』と題したマーチを作曲しました。
また北海道旭川市で活動中のブリオーソ・ブラス(The Brioso Brass)の委嘱でもバンドの名前を冠した『Marcho Brioso』を作曲し、日本のバンドやラジオを由来とした作品を生み出しています。
日本で人気の作品
スパーク氏の人気作品をあげたらキリがありませんが、その中でも日本に縁があったり、多く演奏されている作品をご紹介します。
ハイランド讃歌組曲(Suite from Hymn of The Highlands)
2002年ベルギーの首都ブリュッセルで開催された欧州選手権のガラコンサートでの演奏のために、ヨークシャー・ビルディング・ソサエティ(Yorkshire Building Society)と当時指揮者であったディヴィッド・キング(David King)の委嘱によって作曲された作品です。
指揮者であるキング氏からの『統一されたテーマを持つ作品』、そして『コンサートの半分の時間を使うような長い曲』という依頼から、全7楽章約35分にも及ぶ長編組曲となりました。
上記地図より、英国の北部にあるスコットランドのさらに北半分の地、ハイランド地方(The Highlands)を題材に作曲されており、この地方に点在する城や地名が各楽章の曲名となっています。しかし、スパーク氏自身も述べていますが、この曲中にスコットランドの民謡は一切使われておらず、1楽章と最終楽章に出てくるメインテーマはドイツ人作曲家たちが作ったグレート・ハイランド・バグパイプ用の曲である『ハイランド大聖堂(Highland Cathedral)』、その他のメロディも全て作曲者自身が創作したものです。
以下が各楽章のタイトルとソロ楽器のご紹介です。
- アルドロス城(Ardross Castle)
- サマー諸島(Summer Isles) – ユーフォニアム・ソロ
- フラワーデール(Flowerdale) – ソプラノ・コルネット・ソロ
- ストラスカロン(Strathcarron)
- ラーグ・ムーア(Lairg Muir) – コルネット・ソロ
- アラデール(Alladale) – フリューゲル・ホーン、テナーホーン、バリトン・ホーンによる三重奏
- ダンドネル(Dundonnell)
ドラゴンの年(The Year of The Dragon)
1984年英国ウェールズの名門コーリーバンド創団100周年を記念してウェールズ芸術協会とコーリーバンドの委嘱により作曲されました。その際、この依頼を受けたスパーク氏のお話が残っています。
「この曲を書いた年、前年度含めコーリーは2度も全英大会での優勝をしており、そのような素晴らしいバンドの才能を存分に引き出せるような曲にすることにしました。」
https://www.philipsparke.com/year-of-the-dragon
この言葉が示す通り、スパーク氏自身が設定しているグレード設定(2~6)の中でも最高峰のグレード6と設定されており、バンドのtuttiとしての難易度の高さももとより、曲中に出てくる各楽器のソロもとても高い難易度で作曲をされており、コーリーバンドの演奏レベルの高さが伺えます。
作曲された同年1984年5月に開催された欧州選手権の課題曲にも設定され、その後も数年おきではありますが、2023年現在においても世界中のコンテストで選曲されている日本のみならず世界中で演奏されている作品です。
カンティレナ(Cantilena)
2011年ノルウェーで開催されたグレンラン国際ブラス・フェスティヴァル(Grenland International Brass Festival)の委嘱で作曲された曲です。
この曲のタイトルはノルウェーで最も有名な詩人ヘンリック・イプセンが残したローマの貴族が題材の戯曲『ルシウス・カンティレナ(Lucius Cantilena)』よりインスピレーションを受けて設定されました。
日本では金管バンドオリジナル版であるカンティレナも人気ですが、名前を変更し吹奏楽用に編曲された『The Sun Will Rise Again』もに有名です。こちらは作曲された同年に発生した東日本大震災の際、先述したバンドワゴンのDJであった西田裕氏の呼びかけでスパーク氏自身が吹奏楽版に編曲をし、復興支援のためにその印税を全て日本赤十字社の緊急救済基金に寄付しました。もちろん曲の素晴らしさもそうですが、演奏のしやすさ、そして編曲された経緯も相まって多くの演奏が日本で行われました。
金管バンドのみならず吹奏楽やファンファーレ・オーケストラ、そして室内楽にソロにと管打楽器奏者であれば誰しも1度は耳にしたことがあるスパーク氏の特集はいかがだったでしょうか?
欧州選手権の自由曲をコーリーバンドが委嘱した際、リハーサルにスパーク氏がお越しになった際や日本で再度お会いした際なども非常に気さくにお話をしてくださる音楽的にも人間的にもとても温かく良い方でした。
今回ご紹介した3曲の他にもスパーク氏の名曲の数々はまだまだ膨大な量がありますので、ぜひみなさん色々聞いてみてください。先ほどご紹介した『ドラゴンの年』もファンファーレ・オーケストラ版、そして吹奏楽に至っては通常版と2017年版と2種類あったりとそれぞれのアンサンブルごとの良さも楽しめます。
それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。
コメント
Comments are closed.