みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です
日本と異なり、欧州では年度の始まりが9月です。金管バンド業界も同様に、約1か月の夏休みを終え、英国をはじめとした欧州各国でコンサートやコンテストの新シーズンが早くも幕を開けています。
本当に、いつもお読みくださる皆さまのおかげで、この「金管バンドナビ」も3年目を迎え、3回目となるブリティッシュ・オープンをご紹介できることに、心から感謝の気持ちでいっぱいです。いつも本当にありがとうございます。
それでは、第171回を迎えた、英国で最も優勝が難しいと言われるブリティッシュ・オープン。今年はどのような激闘が繰り広げられたのでしょうか。
第171回ブリティッシュ・オープン

第171回ブリティッシュ・オープン開催情報
2025年9月6日10:00開催 | 18団体出場 | 英国バーミンガム、ザ・シンフォニー・ホール |
1853年に始まった、世界最古のコンテストの一つであるブリティッシュ・オープン(日本では江戸時代・嘉永6年にあたります)。今年も、英国中のバンドや、ブリティッシュ・オープン運営委員会に認められた強豪国のバンドが出場し、王座をかけて熱戦を繰り広げました。(ブリティッシュ・オープンについては、以下の過去記事もご覧ください。)
激闘を制し、171回目の王座に君臨したのはどのバンドだったのでしょうか?
出場バンド

ブリティッシュ・オープンは、その名の通り“オープン”で、英国以外のバンドも出場可能です。過去にはアメリカ、スイス、フランス、ノルウェーなどのバンドが出場しました。
しかし、ブリティッシュ・オープンの選考基準は非常に高く、出場するには以下のいずれかが必要です:
① 欧州選手権での好成績
② ブリティッシュ・オープン運営委員会からの招待
つまり、出場希望すべてのバンドに出場権が与えられるわけではありません。英国国内のバンドであれば、ブリティッシュ・オープンに連なる三つのコンテスト(グランド・シールド → シニア・カップ → シニア・トロフィー〔最下位〕)で勝ち上がる必要があります。一方、英国以外の外国のバンドは、上記の二つの方法によってのみ出場が可能です。
そのような中2017年ヴァレイシア・ブラスバンド、2024年ブラスバンド・トレイル・エトワーズとブリティッシュ・オープンの長い歴史の中で2回あの大きな盾型の優勝トロフィーが英国からスイスに渡っています。(1924年オーストラリア、1953年にニュージーランドのバンドが優勝していますが、この2国は英連邦所属なので除外)
というわけで、2017年に史上初の海外バンド優勝があり、昨年2024年には7年ぶりに再びトロフィーが国外に流出してしまったブリティッシュ・オープン。今回は昨年の防衛王者であるトレイル・エトワーズも出場します。以下は、今年の全出場バンドリストです。
演奏順 | バンド / 指揮者 | 国 | ここ20年の優勝年数 | 備考 |
1 | Black Dyke / Nicholas Childs | England | 2005, 2006, 2014 | 2024年来日ツアー |
2 | Hammonds / Morgan Griffiths | England | 2001, 2003(YBSとして) | 前身がYorkshire Building Society Band |
3 | Tredegar / Ian Porthouse | Wales | 2010, 2013 | ウェールズの強豪 |
4 | Whitburn / Luc Vertommen | Scotland | スコットランドのバンドはブリティッシュ・オープン史上未だ優勝無し | |
5 | Aldbourne / Glyn Williams | England | 元コーリーバンド首席ユーフォニアム奏者グリンが指揮 | |
6 | Amersham / Paul Fisher | England | 2025年グランド・シールド2位 | |
7 | Carlton Main Frickley Colliery / Allan Withington | England | ||
8 | EverReady / David Morton | England | 2025年グランド・シールド優勝 | |
9 | KNDS Fairey / Philip Chalk | England | ||
10 | Brighouse & Rastrick / David King | England | 2022 | |
11 | Brass Band Treize Etoiles / Frederic Theodoloz | Swiss | 2024 | ブリティッシュ・オープン2024覇者 |
12 | The cooperation / Katrina Marzella-Wheeler | Scotland | 指揮のカトリーナは欧州選手権2025において史上初チャンピオンシップセクションで指揮した女性指揮者となった | |
13 | Flowers / Paul Holland | England | 2024年全英選手権覇者 | |
14 | Fodens / Russel Gray | England | 2012, 2023 | 前世界ランキング1位 |
15 | Leyland / Daniel Brooks | England | ||
16 | Cory | Wales | 2000, 2002,2007, 2009, 2011, 2016, 2018, 2019 | ここ20年では最多優勝記録 |
17 | Oldham (Lees) / John Collins | England | ||
18 | Grimethorp Colliery / Michael Bach | England | 2015 |
課題曲2025

ブリティッシュ・オープン2025の課題曲には、スティーブン・ロバーツ(Stephen Roberts)作曲の『運命に翻弄される恋人たち』(Star Crossed Lovers)が選ばれました。
ロバーツは、ブリティッシュ・オープンの課題曲作曲としては3度目の起用で、リムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』を題材に作曲された『Arabian Nights』(2013)、チャイコフスキーの『白鳥の湖』を題材に作曲された『Reflections on Swan Lake』(2015)以来、10年ぶりの選曲となりました。
イギリスの劇作家シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を題材に、1936年にセルゲイ・プロコフィエフによって作曲されたバレエ音楽『ロミオとジュリエット』から着想を得て、ロバーツは約16分にわたる大作として作曲しました。
曲中には、『モンタギュー家とキャピュレット家(騎士の踊り)』など、プロコフィエフが作った有名なメロディに加え、金管バンドの限界を超えるロバーツの卓越した作曲技法がふんだんに盛り込まれています。
作曲者本人による解説(Youtube、英語)
最後に
激アツの第171回ブリティッシュ・オープン。英国勢が意地を見せるのか、あるいはスイスの強豪エトワールが再びトロフィーを国外に持ち出すのか――次回はいよいよ結果発表です。
また、引き続きコンテストシーズンが到来ということで、次回は開催予定の各全英選手権なども特集してまいります。
ぜひみなさま、お楽しみに!今回もありがとうございました。またお会いしましょう!
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。