みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
今週は英国金管バンド業界のみならず、オーケストラや吹奏楽、さらに聖歌隊や室内楽のためになど幅広いジャンルで素晴らしい作品を残し続けている大作曲家の1人、エドワード・グレグソン(Edward Gregson)の特集です。
曲を聴きさえすればすぐさまグレグソンの作品とわかるぐらい有名な作曲家で、特色溢れるその作風は英国の古き良き伝統の作曲技法を引き継ぎ、2024年現在79歳というベテランながら新作や旧作の多くがコンテストの課題曲、自由曲として選曲されています。
ウォルトンやヴォーン・ウィリアムスから引き継いだイングランド音楽の系譜、それらを引き継ぐ偉大な作曲家グレグソンをご紹介いたします。
プロフィール
1945年、イングランド北東部にあるダラム州(Durham)で生まれ、その後ロンドンにある英国王立音楽院にてピアノと作曲を学びました。またその後音楽学士号をロンドン大学で取得しました。
その後作曲家としての活動の中で、管弦楽のための作品の他にも聖歌隊のための作品や劇場やTV番組のための音楽など幅広い分野において数多くの作品を残しています。作品番号を記載しない作曲家ですが、最初期の作品としてオーボエのためのソナタ(1965)を自身で挙げています。
オーケストラのための作品も世界中で演奏され、とりわけ英国が誇る英国放送協会(BBC)が所有する国内全ての交響楽団での演奏、さらにロンドン交響楽団でも取り上げられ、世界的に著名なソリストであるオーレ・エドヴァルト・アントンセンや日本が世界に誇るサックス奏者 須川展也など素晴らしいソリストたちによって演奏もされています、
先述したように管楽器と大編成アンサンブルのための協奏曲も数多く作曲しており、フレンチ・ホーン(1970)、チューバ(1976)、トランペット(1983)、トロンボーン(1979)、クラリネット(1994)、ピアノ(1997)、ヴァイオリン(2000)、サックス(2006)、チェロ(2007)、フルート(2013)、オーボエ(2020)と多くの名作を残しています。
全体的な作風としてはクラシックが根底にあり、先述したウォルトンやヴォーン・ウィリアムスはもちろんのことプーランクやオーケストラを構成するほぼ全ての楽器のための作品を生み出したことでも有名なヒンデミットらの影響を受けている作曲家です。
また作曲家としての活動のほか、1976年からロンドン大学ゴールドスミス・カレッジにて作曲科の主任と常任指揮者を務め、96年からは王立ノーザン音楽大学の教授兼校長を務めるなど、教育者としても素晴らしいキャリアを積みますが、作曲活動に専念するために2008年に学術界から退きました。
作品
先述した通り、様々な編成のために作曲をしているグレグソンですが、金管バンドのための作品も数多く作曲しています。
近年でも2023年の全英大会で課題曲として設定された1990年作曲の男たちと山々にて(Of Men and Moutains)、2020年の世界の歓喜(World Rejoicing)は、同年のブリティッシュ・オープンをはじめベルギー、オランダ、ノルウェー、スイス各国の全国大会課題曲として採用され、さらに2024年のオーストラリア大会の課題曲としても使用されるなど、1945年生まれのベテラン作曲家ながら未だに最前線で英国金管バンド業界を引っ張る大御所作曲家でもあります。
今回はそんな彼の膨大な作品の中から日本でも人気の高い金管バンドに特に関わりの深い作品をいくつかご紹介します。
チューバ協奏曲(Tuba Concerto) 1976
オーケストラ(1978)や吹奏楽伴奏(1984)が有名なこの協奏曲ですが、もともとは英国で最も歴史を持つバンドの一つであるベセス・バーンバンド(Besses o’ th’ Barn Band)と英国芸術議会の依頼のもと、英国の伝説的チューバ奏者であるジョン・フレッチャー(John Fretcher)のために作曲された金管バンド版がオリジナルです。
日本金管バンド業界のみならず、日本の音楽大学やソロコンテストでもよく選曲される曲で、難易度も高い作品ですがとてもコントラスト豊かな作品で世界で最初のチューバとオーケストラのための協奏曲を作曲したヴォーン・ウィリアムスの影響の元とても素晴らしい作品となっています。
曲は三楽章形式で18分という長さから一楽章だけ演奏されることが多い協奏曲ですが、ソナタ形式の第一楽章「Allegro Deciso」の他に、コラールから始まりカンタービレ、そして大きなカンタービレから曲頭に主題に戻る第二楽章「Lento e mesto」、そして第三楽章「Allegro giocoso」には軽快で明るいロンド形式をまとったテーマが始まり、中盤にはジャズのようなメロディ、そして超絶技巧のカデンツァを過ぎ、第一楽章の主題と帰り曲は終盤を迎えます。
遠い日の思い出に(Of Distant Memories) 2012
1913年、それまではオペラやオーケストラの作品を編曲して課題曲として使用していた全英大会。この大会で初めて金管バンドのためのオリジナル作品として作曲をされた労働と愛(Labour and Love) / Percy Fletcherや、この時代の先駆者的作曲者であるホルスト、エルガー、アイルランド、ハウエルズらへの賛辞として作曲をされたのがこの曲です。
作曲自体は2012年に完了しており、初演が2013年1月、世界最初の金管バンドオリジナル課題曲の作曲家から100年後の全英大会の課題曲としても設定され金管バンド業界でも大いに話題に上り、日本でも数多くのバンドに演奏されています。
黙示録のラッパ吹き(The Trumpets of The Angels) 2016
キリスト教新約聖書の最終聖典ヨハネの黙示録、この聖典に記されている災害の前触れを示す7人の天使たちが吹くトランペットが題材となった作品です。
20分を超す長編作品で、通常の金管バンド編成の他に7人のトランペット(またはコルネット)とティンパニー2セットを含む打楽器群によって構成されています。
バンドとは離れたホールの要所要所に配置された各トランペットとバンドの演奏の交互演奏によって幕を開け、この演奏がキリスト教の礼拝文句、現在では聖歌となっている「主よ、憐れみたまえ」を引き起こし、道中では合唱も入るなど金管バンドの演奏とは思えない音響効果が特徴の、宗教が主題となった荘厳な曲です。
もともと2000年に創団100周年を迎えたフォーデンス・バンド(Foden’s Band)のためにオルガン付きで作曲されましたが、ブラック・ダイクバンド指揮者ニコラス・チャイルズの依頼で編成にオルガンが無しとなり、より汎用的に演奏がしやすい新編として2016年に作曲者自身によって編曲されました。
今回ご紹介した作品の他にも今もなお世界中のコンテストやコンサートで演奏され続けている名曲、またブラック・ダイクバンドをはじめとした素晴らしいバンドらによるグレグソンの作品集的CDも販売されていますので、ぜひグレグソンの魅力たっぷりのブラスバンド作品を聞いてみてください。
それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。