みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
前回のご紹介したクリストファー・ボンドがお抱え作曲家として所属しているコーリーバンド、今回はそのバンドの指揮者でもあり、作編曲家としても活動をしているフィリップ・ハーパー(Philip Harper)の特集です。今回は筆者が個人的に親交のある人物ということで、作曲に関する考え方なども直接インタビューできました。彼のプロフィールや作品の特徴とあわせてそちらもご紹介いたします。
日本では指揮者として有名なハーパー氏ですが、数々の名作も世に生み出し続けている素晴らしい作曲家でもある彼の作品についてご紹介いたします。
INDEX
プロフィール
フィリップ・ハーパー(Philip Harper)
2012年より現在まで英国ウェールズの強豪バンドである『コーリーバンド』(Cory Band)の指揮者を務める傍ら、作編曲者としてコーリーバンドのみならず、世界中のトップセクションのバンドからユースバンドまで幅広いレベルのバンドのために作品を世に生み出しています。
作編曲をイングランド西部にあるブリストル大学で修了、奏者としてはテナーホーン奏者としてブリストルにある『サン・ライフ・バンド』(The Sun Life Band)や『全英ユース・バンド』(The National Youth Brass Band of Great Britain)にて首席テナーホーン奏者を務めました。ちょうどこの頃に自身初めての編曲もはじめました。
その後作編曲活動を続けつつ、パートナーである日系英国人のAnri氏のルーツを知るため、1996~1998年にかけ日本において外国語指導助手(ALT)としての生活を開始、その期間には日本各地の金管バンドとの共演も行いました。
ハーパー氏いわく「日本での2年間によって自身の世界観が180度転換した」とのことで、英国に帰国後指揮者としての活動をはじめ、現在では英国で最も素晴らしいバンドの一つで常任指揮者として活動しています。また同時期に作曲家としてのキャリアも軌道に乗り、2005年の全英選手権第3セクション(The 3rd Section)の課題曲として自身が作曲した『A Gallimaufry Suite』が選定され、2000年には全英ユースバンドによって『Elan』が採用されています。
作品
コーリーバンドはもとより、イングランドの強豪バンドであるブラック・ダイク・バンド(Black Dyke Band)やフラワーバンド(Flower Band)などチャンピオン・セクション級のバンドから若年層によって構成されるユースバンドのための作品など、幅広い層に向けて作編曲をされるハーパー氏の作品は、英国のみならず欧州や豪州、そして日本など世界中で演奏されています。今回はその中から数曲ご紹介いたします。
OLYMPUS(オリンポス)
ギリシャ神話の神々が住むと言われる実在の山『オリンポス』、その2,917mになるギリシャ最高峰の山の名を冠した作品。2012年ロンドン・オリンピックの年に全英選手権より委嘱されたこの作品は、同選手権が開催する地区予選コンテストの第3セクション(The 3rd Section)の課題曲として選曲をされました。
オリンピックを題材として作曲されたこの作品は、華々しいファンファーレから始まり、終盤の『The Olympic Truce』(聖なる停戦)では『エケケイリア』(=手を繋ぐ)というギリシャ語の通り、オリンピックの間だけは出場する者も観戦する者もみな安全にオリンピック・ゲームを行えるように停戦をするという意味が込められています。
Finale from Rachmaninoff 3rd Piano Concerto (ピアノ協奏曲第3番より最終楽章 / セルゲイ・ラフマニノフ)
ピアニスト、そして巨匠作曲家の1人ラフマニノフが作曲したピアノとオーケストラのための3番目の協奏曲。有名な2番とともにとても人気の高い作品ですが、この曲を金管バンドで表現しようという挑戦的な編曲でもあり、コーリーバンドのコンサートでもよく使用され、さらにその難易度の高さからスイス・オープン(スイスのコンテスト)でも自由曲として選曲されたこともある作品です。
The Four Seasons (四季)
バロック時代を代表するイタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi)が作曲をしたヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の中の試み』の中の4曲目、『冬』を題材とした作品。
もともと金管バンド業界にはバッハ(J. S Bach)が作曲し、レイ・ファー(Ray Farr)が編曲したトッカータ ニ短調(Toccata in d minor)があり、とても高い人気で世界中で演奏され続けています。この作品と共に他にもクラシック由来の金管バンド編曲作品をということでハーパー氏が編曲した作品がこちらの作品です。
St. JAMES’S – A NEW BEGINNING -(聖ジェームズ – 新章-)
2023年全英選手権決勝戦の第1セクション(The First Section)の課題曲として作曲をされた作品です。ロンドンのピカデリーにある聖ジェームス教会は1684年に建築士であったクリストファー・レン卿(英語サイト:Christopher Wren)によって建築されました。このレン卿の没後300周年を記念し設立されたレン・プロジェクト(The Wren Project)よって委嘱された作品です。
この作品は
- ロンドン大火(The Great Fire)
- 余波(Aftermath)
- レン卿の構想(Vision)
- ルネッサンス(Renaissance)
の4楽章で出来ており、1666年にロンドンで起きた大火災、その後の余波、そしてルネッサンスの復興とロンドン大火が起きた後のレン卿らの尽力や実際に記録されている内容が題材となっています。また曲中には英国の童歌やジョージ・フレデリック・ヘンデル(George Frederic Handel)やウィリアム・ブレイク(William Blake)など英国の著名な音楽家や美術家からの引用が含まれています。
ハーパー氏へのインタビュー
今回はご縁があり作曲者に直接インタビューをすることができましたので、2024年現在のハーパー氏のお話を少しご紹介させていただきます。
Q:ハーパー氏が作曲をされる際、どのようにアイディアやインスピレーションを受けますか?
A:作曲をする際、常に自分自身の頭の中にある大きな海のような場所からアイディアを用います。その海にはアイディアのかけらのようなものが入っていて、時々海面に現れ、アイディアの塊となったり、一つの大きな曲自体となったりするのです。
Q:ご自身の作品の中で、最もお好きなものはどれですか?
A:難しい質問ですが、恐らく『土星の環(わ)』(The Rings of Saturn)でしょうか。
Q: これまでのご自身の活動の中で、影響を受けたりお好きな金管バンドの作曲家というのはいらっしゃいますか?
A: フィリップ・スパーク(Philip Sparke)とフィリップ・ウィルビー(Philip Wilby)です。どちらもフィリップですね!
最後に
現在最も勢いのあるバンドの一つコーリーバンドでの指揮者としての顔を持ちつつ、同時に世界中で愛される作品の作編曲をされるハーパー氏の作品、実際に現場で指揮を振っているからこそ引き出せる現代の新しいブラスバンドの響き、そしてクラシカルな響き、そして様々な題材を多種多様な作曲技法で表現するハーパー氏の作品はとてもおすすめです。
こちらから過去の作品もお聞きいただけますのでぜひお試しください。
http://www.philipharper.co.uk/compositions.html
楽譜のご購入はこちらからご利用頂けます。
https://wrightandround.com/composers/844
それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。