みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
みなさまのおかげをもちまして金管バンドナビも30回となりました。誠にありがとうございます。#30の今回は2024年現在、最も要注目の作曲家シエリー・デレリエル(Thierry Deleruyelle)の特集です。世界中はもとより、日本でも徐々に注目度があがってきたこの新進気鋭の作曲家にスポットライトを当てご紹介いたします。
INDEX
シエリー・デレリエル(Thierry Deleruyelle)
1983年フランスに生まれたデレリエル氏は、『のだめカンタービレ』でも有名なパリ国立高等音楽・舞踊学校(the Conservatoire National Supérieur de Musique de Paris (CNSM))を卒業しました。在学中には現在の基盤である打楽器奏法、和声、対位法、フーガ技法、そして楽曲分析や管弦楽法で学位を取得し、さらに打楽器奏法、作曲においては当校審査員の満場一致にて優秀賞を取得しています。
またフランスのサンタマン=レゾー(Saint-Amand-les-Eaux)やスペイン ヘイゼ・ベリアック(Haize Berriak)で開催された国際作曲コンテストにて優勝し、現在ではオランダの楽譜出版社『デ・ハスケ』に所属し、作編曲活動を行っています。
デレリエル氏の作曲は多方面に渡り、管弦楽の他にも吹奏楽や金管バンド、そしてソロ作品や室内楽(小編成アンサンブル)のための作品など数多くのジャンルや編成のために作曲をしています。しかし、たくさんの作曲機会に恵まれた事からもデレリエル氏曰く“最も気に入っているのは吹奏楽や金管バンドのための作曲”とプロフィールに記述があります。
また、2016年の欧州選手権課題曲委嘱作品『Fraternity』を史上初めてフランス人作曲家として手掛けます。この作品は金管バンドのための大作として自身初の試みでしたが、日本をはじめ世界中で話題となり、デレリエル氏を金管バンド業界における人気作曲家の地位に押し上げました。ちなみに曲名の”Fraternity”とは、友愛の連隊組織という意味で、慈善団体や社会団体とも訳されます。
この『Fraternity』は英国最高峰のコンテストの一つであるブリティッシュ・オープンの2017年課題曲としても選ばれ、さらに2023年には同氏作曲の『Sand and Stars』が採用されるなど、デレリエル氏は金管バンド業界の中枢ともいえるコンテストでもとても人気の高い作曲家となりました。
作品
デレリエル氏の作品の特徴として「テーマをもとに作曲している」という点、そして打楽器奏者としての経験から様々な打楽器を使っての多彩な音楽表現などがあります。中でも例えばキリスト教の三大巡礼地をテーマとした『コンポステラ』、フランス人文豪、そしてその文豪が書いた書物を題材とした『砂と星々』、そして史上最悪の炭鉱事故をテーマに作られた『フラタニティ』などがあげられます。今回は数ある作品の中から以下の2曲をご紹介します。
コンポステラ -聖ジェームスへの路-(Compostela -The Way of St.James-)
12世紀にコデックス・カリックスティヌス(Codex Calitxtinus)によって書かれた『巡礼者の本』を題材に、エルサレム、バチカンと並ぶキリスト教の三大巡礼地の一つであるスペインの『サンティアゴ デ コンポステラ』(Santiago de Compostela)。この巡礼路の最終地点まで欧州、そして北アフリカからの巡礼者の旅を題材にした作品です。
冒頭のゆっくりとした旋律は男女の巡礼者がこれから巡礼の旅へ出発する様子を表し、その後のテンポの早いセクションが旅の始まりを告げます。そして雄大なメロディが巡礼者のスペインへの到着を表し、最終目的地であるサンティアゴ デ コンポステラの大聖堂を壮大なコードが表現するのです。
2022年には全ベルギー・コンテストの2ndセクション課題曲に選出されるなど、近年の1stや2ndセクションのための課題曲や自由曲としての選出がされ始めた作品でもあります。
砂と星々(Sand and Stars)
『星の王子さま』、『人間の土地』、『夜間飛行』などの著者としても有名なフランス人文豪、飛行家、そして郵便輸送のためのパイロットでもあったアントワーヌ・マリー・ジャン=バティスト・ロジェ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine Marie Jean-Baptiste Roger, de Saint-Exupéry 1900-1944)。このサン=テグジュペリが1935年に行ったフランス-ベトナム間最短時間飛行記録への挑戦、その失敗によるサハラ砂漠への不時着、その後3日間エジプトの首都カイロまで徒歩での遭難、これらの体験談を題材に作曲されたのが『砂と星々』です。
スイスの強豪バンドの一つブラスバンド・トレイズ・エトワーズ(Brass Band Treize Etoiles)の委嘱によって作曲されたこの作品は、その後当バンドをスイスチャンピオンに導き、さらにその後開催された欧州選手権2023でもエトワーズを欧州チャンピオンに導きました。
英国やオランダ同様、今回は欧州の中でも古くからイギリスと長い付き合いがあり、金管バンドの発展もしているフランスの新進気鋭の作曲家シエリー・デレリエルの特集でした。
古き良き金管バンドや2,000年代など過度機の楽曲なども素晴らしい作品が残っていますが、今現在台頭してきた作曲家の曲にも注目してみると新しい発見があってとても面白いのでおすすめです。
それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。