【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#25

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皆さま、こんにちは。

皆さまに数々の名曲・名演をご紹介してきましたこちらの連載ですが、今回で予定していた内容を書き終えることができまして、ひとまず今回が最終回となります。

最終回となる今回は、私の吹奏楽人生の中でも大切な思い出であり、現在の演奏家としての活動にも繋がっている、2002年全国大会高校の部の演奏をご紹介しようと思います。

私が高校2年生の秋、兵庫県立明石北高校音楽部のコンクールメンバーとして第50回全日本吹奏楽コンクールに出場することができました。出演順は後半の部の9番だったので、後半の部の1番と2番の学校の演奏を客席で聴いてから本番の準備に向かい、本番を終えて片付けた後に急いで客席に行くと後半の部最後の14番の学校の演奏を聴くことができました。全国大会初出場のこの学校の演奏は、私が本番を終えた直後で興奮していたせいもあってかそこまで印象には残りませんでした。ところが、全国大会のCDが発売されて演奏を改めて聴いてみたところあまりの美しさに驚いて、しばらくずっと聴いていたほどの名演だったのです。その学校が、中国支部代表の明誠学院高校です。

名演紹介 #25 喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクション/明誠学院高(02年)

喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクション
作曲:F.レハール 編曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2002年(第50回大会) 金賞
演奏:明誠学院高等学校吹奏楽部
指揮:佐藤 堯史

私が高校に入学した2001年、明誠学院高校に吹奏楽の特別芸術コースが開設されました。この一期生は私と同じ学年で同級生にあたります。明誠学院高校は2001年の自由曲に喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクションを選びますが、この年の結果は県大会金賞でした、翌年の2002年にも同じ「メリー・ウィドウ」セレクションを選曲し、全国大会初出場での金賞受賞という素晴らしい結果を残します。同じ2002年度には全日本マーチングコンテスト全日本アンサンブルコンテスト(金管8重奏)で金賞を受賞し、全国大会三冠を達成しました。

話を2002年の吹奏楽コンクール全国大会に戻しますが、この年の明誠学院高校の驚くべきところは50名のバンドの中でトランペットパートが3名だけというところです。この年の他校のトランペットパートの人数と比較すると、多い学校で明石北高校の6名、少ない学校で丸亀高校の4名、常総学院高校などは5名となっていて、平均すると5名が一般的な人数だと思われますが、50人編成の高校バンドでトランペットパートが3名というのはほとんど聞いたことがないぐらいの珍しさです。トランペットパートの人数を少なくできると木管楽器の人数を増やすことができて木管と金管の音量バランスが理想的になるのですが、課題曲のトランペットは3パートなので1人1パート担当というプロのオーケストラと同じになるために1人1人の負担は当然ですがかなり大きくなります。明誠学院高校のトランペットパートはバンドに埋もれるどころかバンドの中で一番の存在感を放っていて、後々考えると相当恐ろしいことだったのだなと驚愕したのが忘れられません。

演奏について

軽快で爽やかなオープニングから始まりますが、全ての楽器の発音が美しくて特に木管高音楽器のスタッカートの美しさは特筆ものです。メロディが自然に聴こえるバランスのとり方も素晴らしく、とにかく軽快で弾ける音楽表現が心に残ります。0:48のトランペットパートのファンファーレは3人とは到底思えない音圧で鮮やかに決まります。

0:58からのワルツのメロディが自然でありながら美しく流れていきますが、低音セクションを中心としたワルツのリズムの軽快さと安定感があってこそだと思います。場面が変わった1:30からは一転して深い響きの大らかな歌を聴くことができます。

2:13からの「ヴィリアの歌」は自然でセンスの良いアゴーギグを伴った音楽的な流れが絶品で、2:50のフリューゲルホルンの歌が心に残ります。3:11からは打楽器のアンサンブルが主役ですが、伴奏を奏でるクラリネットセクションの柔らかい音色の美しさが格別で心に染み入ります。3:49の弱奏部の音色は普門館でも美しく響いていて、クレッシェンドを経てバンド全体の歌にトランペットセクションを中心とした存在感のあるオブリガードが絡んでいきます。その後デクレシェンドした先の5:19のF-durの和音が最弱音で美しく響きます。

5:29から軽快なマーチが始まり、アラルガンドの後に終曲に向かってテンポが上がります。金管セクションの一体感があるメロディが圧倒的ですが、メロディに絡む木管楽器の連符の音色がどこまでも美しくて圧巻です。6:27で伸びていくトランペット1stのハイBは1本とは思えない音圧で突き抜けていき、最後のB-durの和音が美しく響いて爽やかに終わります。

この年の高校の部は課題曲Ⅰの「吹奏楽のためのラメント」が圧倒的に多く選ばれていて、その曲想と音楽的内容の濃さからかなり重い空気感のコンクールになっていたのですが、プログラム大トリの明誠学院高校の「メリー・ウィドウ」が清涼剤のように癒してくれました。

その後

私が高校3年生の夏に、師匠の藤井一男先生門下が集まる合宿が東京で行われたのですが、そこで明誠学院高校のクラリネット1stのトップの生徒に出会うことができました。同級生でしたがとてつもないテクニックと恐ろしいほどのタンギングの速さに衝撃を受けて、同じ年でこんなに鮮やかにエチュードを吹ける子がいるんだと驚いたと同時に普通科の高校生だった私の目標となり、仲良くなってからはいろいろと話すことができました。お互いに高校3年生の夏のコンクールでは支部大会金賞で終わったということや、その年のマーチングコンテスト全国大会のパレードで偶然会ったりしたことなどの似た境遇を辿り、同級生として東京藝術大学に入学することになったのです。在学中はもちろんですが大学を卒業してからもたくさんの本番で一緒に共演したり、お互いの演奏を聴きあったりとずっと繋がりがあります。大学の同級生でもこのような繋がりは大変珍しいのですが、高校2年生の全国大会で一方的に知った時から縁があったのだと考えると、これもまた吹奏楽コンクールが繋いでくれた巡り合わせなのかもしれません。

あとがき

いかがでしたでしょうか。音色の美しさを大切にした、爽やかな風のように心に残る名演をご紹介しました。

最後になりましたが、5月に連載がスタートし10月までほぼ毎週更新してきました本連載ですが、冒頭にもふれた通り今回で予定していた内容を書き終えることができまして、ひとまず毎週の更新は終了となります。次回以降は2週間に一度を目処に更新を続けていく予定となっております。

今後とも本連載をよろしくお願い致します。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。