【吹奏楽ナビ】#36 全日本吹奏楽コンクール課題曲③ 朝日作曲賞

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皆さま、こんにちは。

4月になり、新年度が始まりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

前回に引き続き、歴代の課題曲の中から私の好きな作品とその名演をご紹介しようと思いますが、今回は「朝日作曲賞」を受賞した課題曲をいくつかご紹介しようと思います。

朝日作曲賞について

「朝日作曲賞」は、朝日新聞社と全日本吹奏楽連盟が主催する作曲コンクールで、全日本吹奏楽コンクールの課題曲の公募として1990年から開催されています。募集要項の内容は年々変化していますが、現在の応募規定では、「アマチュアが演奏する課題曲であることを基本に考え、演奏に際して楽器の特性上の無理がなく、かつ無理なく合奏が成立する、親しみやすい曲であること。」となっています。ただし、受賞したからといって必ずしも課題曲としての演奏割合の多数を占めているわけではなく、中には自由曲とのバランスや演奏時間、その他にも減点対象になりやすい要素を含んでいるなどの理由から、「朝日作曲賞」を受賞した良い作品なのに吹奏楽コンクールで演奏する団体が結果的に少なくなってしまった例もあり、その点は作曲コンクールと演奏コンクールのアプローチの違いとして難しい部分でもあります。とはいえ、現在の日本の吹奏楽界においてその年の顔とも呼ぶべき代表作品を輩出している作曲コンクールであることは間違いありませんので、今回は「朝日作曲賞」受賞作品に注目して、コンクールでの演奏が多い作品を中心にご紹介します。

1991年 吹奏楽のための「射影の遺跡」

課題曲A:吹奏楽のための「射影の遺跡」
作曲:河出 智希


全日本吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 金賞
演奏:川越市立野田中学校吹奏楽部
指揮:佐藤 正人

記念すべき「朝日作曲賞」初回の受賞作品です。今までの課題曲にはなかった斬新な曲調とアマチュア奏者の挑戦意欲をかりたてる難易度の高さが特徴的で、今聴いても古さを感じさせない課題曲だと思います。この年の全国大会でこの曲を演奏した団体は20団体で全体の23%とそこまで多くないのですが、金賞受賞団体が9団体で金賞受賞割合が45%という高さからもうかがえるように中学校から一般団体までの強豪バンドがこの曲に挑戦した結果と言えると思います。

高校生や大学生でもこの曲の技術的な難易度に苦戦する演奏が多い中で、川越市立野田中学校の演奏は中学生とは到底思えない技術力の高さで圧巻の演奏です。2:48からは各楽器の見せ場が続いていくのですがどの楽器も素晴らしく、特に最後の4:14のトランペットソロは見事な吹きっぷりに圧倒されます。金管楽器はこの曲で相当スタミナを削られたと思うのですが、この後の自由曲がローマの祭でこちらも名演だったことを考えると中学生とは思えない金管楽器のレベルの高さに驚愕するしかありません。

2001年 式典のための行進曲「栄光をたたえて」

課題曲Ⅰ:式典のための行進曲「栄光をたたえて」
作曲:内藤 淳一


全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:東海大学第四高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳

作曲者の内藤淳一さんは1983年に「吹奏楽のためのインヴェンション第1番」が初めて課題曲に採用されましたが、1997年にマーチの課題曲が採用されてから1999年、2001年とマーチとして3回連続での採用に加えて、1999年、2001年は「朝日作曲賞」を2回連続受賞という快挙を達成しました。その後2008年にもマーチの課題曲で「朝日作曲賞」を受賞しており、マーチの課題曲の常連ぶりはもの凄いことだと思います。

この曲はマーチの課題曲としては大変珍しく、コラールで曲が始まります。それに関連してマーチのトリオがなく、最初から最後までB-durで調性が変わらないこともマーチとしては珍しいと言えるでしょう。そして、スコアの随所に「おごそかな式典のコラール」「勇者の誇りをたたえるファンファーレ」などの作曲者のト書きがあるのも課題曲としては珍しいです。私が高校生の時に演奏した課題曲で、当時はそこまで思わなかったのですがコンクールの課題曲としては木管楽器は最初のコラールで相当なプレッシャーがかかるだろうと思います。マーチのファンファーレの3連符と付点リズムの吹き分けや、メロディの付点リズムの正確さと音楽的なセンスとのバランスなど、課題曲として最適でありながら調性的にも各楽器の音域的にも演奏しやすい曲で、全国大会では38.5%の団体がこの曲を演奏し、とりわけ中学の部では44.8%の学校が演奏したことも納得の課題曲らしい課題曲だと思います。

自分自身がコンクールで演奏した課題曲なので名演のハードルがかなり高くなってしまうのですが、東海大学第四高校の全国大会での演奏をご紹介します。「おごそかな式典のコラール」というには冒頭からゴージャスすぎる演奏が多い中でおごそかさと華やかさを併せ持ったコラールと、メロディの付点リズムが3連符にしか聴こえない団体ばかりの中で付点リズムでありながら音楽的に流れていく演奏が純粋に凄いと思った演奏です。

2002年 吹奏楽のためのラメント

課題曲Ⅰ:吹奏楽のためのラメント
作曲:高 昌帥


全日本吹奏楽コンクール
2002年(第50回大会) 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄

「ウインドオーケストラのためのマインドスケープ」「吹奏楽のための協奏曲」などの作品で有名な作曲家の高昌帥さんの名を知らしめることになった課題曲デビュー曲です。全国大会では全体の65.3%もの団体がこの曲を演奏し、ラメント(嘆き)という曲名が表すように曲全体が重苦しく訴える曲調で全国大会が重々しい雰囲気になってしまっていたのですが、それだけこの曲の音楽的な内容が濃くて魅力があったからたくさんの団体に演奏されたのだと思います。私がこの曲に取り組んでから全国大会で演奏するまでの約半年間、この曲に飽きたことは一度もなかったことをよく覚えています。

天理高校の演奏は冒頭のホルン・ユーフォニアムによるアウフタクトの16分音符を後ろに寄せるという音楽的解釈によって、かなりインパクトのあるオープニングになっています。これは賛否両論あると思いますが、私がこの曲に取り組んでいた時には思いもしなかった音楽的なアイデアで初めて聴いた時はなるほどと感心しました。木管楽器による弱奏部の音楽的な歌がラメント(嘆き)に相応しい表現で心に残り、金管楽器のパワーも申し分なく、これが午前9:45からの演奏とは思えない素晴らしい演奏だと思います。

2006年 架空の伝説のための前奏曲

課題曲Ⅰ:架空の伝説のための前奏曲
作曲:山内 雅弘


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:東海大学付属高輪台高等学校吹奏楽部
指揮:畠田 貴生

現代音楽の分野において第一線で活動されている作曲家の山内雅弘さんの初めての吹奏楽オリジナル作品にして課題曲デビューの曲になります。曲名通りのかっこよさと親しみやすいメロディが特徴ですが、技術的な難易度が相当に高くてアンサンブルの難所も多いので演奏できる団体が限られてしまうのではと思っていました。それでもたくさんの強豪バンドがこの曲に挑戦し、特に全国大会高校の部では62.1%もの学校がこの曲を演奏するという大人気曲となりました。クラリネットとしては冒頭がいきなりクラリネットパートのソリであることのプレッシャーと、16分音符の連符と高速タンギングが同時にくるところが相当に難しく、指導する立場ではありましたがタンギングが苦手な自分にとっては特に大変な思い出となる曲でした。

東海大学付属高輪台高校の演奏は全ての楽器の個々の技術力が相当高く、特にクラリネットパートはこの曲に必要な鳴りと音色のバランスがちょうど良いところにいるのが大変素晴らしいです。中間部の大らかな流れによる雄大な歌いこみが感動的で、随所に現れる金管楽器のソロやセクションでの見せ場も見事な完成度でこの曲の魅力を最大限に伝えてくれる演奏だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。私が「朝日作曲賞」受賞作品の中で特に印象に残っている作品を4つご紹介しました。

次回は、課題曲における「現代音楽」の作品と名演をご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。