【吹奏楽ナビ】#35 全日本吹奏楽コンクール課題曲② マーチ以外

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皆さま、こんにちは。

前回に引き続き、歴代の課題曲の中から私の好きな作品とその名演をご紹介しようと思いますが、今回は「マーチ以外」の分類になる課題曲をいくつかご紹介しようと思います。

1998年 稲穂の波

課題曲Ⅱ:稲穂の波
作曲:福島 弘和


全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:神奈川大学吹奏楽部
指揮:小澤 俊朗

今や吹奏楽の演奏会やコンクールでこの方の曲を聴かないことはないのではと思えるほど大人気作曲家である福島弘和さんの、課題曲デビュー曲にして今でも演奏されるほどの大人気曲です。私が中学1年生の時のコンクールは小編成の部門への出場で課題曲の存在すら知らなかったのですが、この年に後の自分の母校となる兵庫県立明石北高校が全国大会に出場し、市の吹奏楽祭の招待演奏でこの曲を聴いて課題曲ってこんなにかっこいい曲なんだと感動したことを覚えています。

コンクールではたくさんの団体によって演奏されたので名演もたくさんあるのですが、神奈川大学の演奏は技術的に非の打ち所がないと言えるほどの完璧な演奏で、課題曲の審査員の採点でもオールAの満点という驚異的な結果も残しました。

1987年 風紋

課題曲A:風紋
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
1987年(第35回大会) 金賞
演奏:西宮市立今津中学校吹奏楽部
指揮:石川 学

歴代の課題曲の人気投票では常に上位に入るほどの大人気曲であり、課題曲という枠を越えてたくさんの人に愛される曲ですが、私は中学1年生の冬という楽器を始めて早い時期にこの曲を演奏していて、高校生の時には保科先生の指揮でこの曲を演奏できた貴重な経験もあったりと、自分にとって縁が深い曲となっています。

この曲が大好きで実際に演奏したこともあるため名演のハードルがかなり高くなってしまうのですが、全国大会の演奏の中では今津中学校の演奏が素直な音楽性と高い技量が合わさっていて保科先生の音楽観に近いと思います。

課題曲の枠からは外れてしまうのですが、風紋には課題曲として時間を短縮される前の作曲当初の構想に近い「原典版」が保科先生ご自身によって作曲されています。私も当然この版の存在を知っていて何度も聴いていましたが、保科先生の指揮による東京佼成ウインドオーケストラの特別演奏会での原典版の演奏がこれ以上は求められないのではないかと思われるほどの名演だったので、是非ご紹介したいと思います。私はこの演奏を会場で生で聴くことができてとても幸せでした。

1991年 コーラル・ブルー 沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象

課題曲B:コーラル・ブルー 沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象
作曲:真島 俊夫


関西吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 金賞・代表
演奏:兵庫県立明石北高等学校音楽部
指揮:山本 茂之

真島俊夫さんの2作目の課題曲で、沖縄民謡の「谷茶目」を主題にした親しみやすい曲調でありながら随所に真島さんらしい特徴が溢れていてお洒落な曲となっています。先月末の東京佼成ウインドオーケストラの課題曲コンサートでこの曲を演奏できたことが自分の中では一大ニュースで感無量でした。

手前味噌になってしまいますが、私の母校である兵庫県立明石北高校の大先輩方による演奏がこの曲の魅力を最大限に伝えていると思いますのでご紹介させていただきます。全国大会の演奏ももちろん素晴らしいのですが、関西大会のホールが明石北高校のサウンドと相性が抜群なので関西大会の演奏をご紹介します。山本先生時代の明石北高校は木管楽器主体のサウンドに声楽を専攻された山本先生の歌心が感じられる音楽性がとても魅力的なバンドで、クラリネット奏者の自分としても共感できる部分が多くて現役の時から数えきれないほど演奏を聴いて参考にしていました。

2004年 エアーズ

課題曲Ⅱ:エアーズ
作曲:田嶋 勉


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部
指揮:宇畑 知樹

歴代の課題曲の中でも良い意味でコンクールらしくなくて、優しさに溢れた曲だと思います。エアーズのエアは歌という意味であることからも分かるように全編にわたって歌心が必須な曲なのですが、テンポの変化によるアゴーギグの加減によっても曲の印象が大きく変わることから音楽的なセンスが大変に問われる曲であり、特に中高生には音楽的な成長を考えると理想的な課題曲だと思います。

この曲の作曲者である田嶋勉先生は2004年当時は中学校の先生だったのですが、この年に田嶋先生が指揮する柏市立柏中学校が全国大会に出場し、課題曲Ⅱを選んでいたためエアーズの自作自演が披露されることになりました。私はこの演奏を普門館で聴けており、作曲者の音楽的な意図がよく分かる大変素晴らしい演奏だったことをよく覚えています。

今回ご紹介するのはこの自作自演の演奏ではなく、高校の部で唯一エアーズを選曲した伊奈学園総合高校の演奏です。伊奈学園総合高校の柔らかくブレンドされたサウンドと丁寧な音楽作りがこの曲とマッチしていて、ソロやセクションでの積極的な音楽表現が加わって伊奈学園総合高校の歴代でもトップクラスの名演になっていると思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。私が課題曲のマーチ以外の曲の中で特に印象に残っている作品を4つご紹介しました。

次回は、「朝日作曲賞」を受賞した作品と名演をご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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