【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#22

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皆さま、こんにちは。

今回は、全国大会職場の部での演奏をご紹介しますが、まずは職場の部の歴史についてご説明しておきましょう。

職場の部は戦後に全日本吹奏楽コンクールとして再開された1956年から開催されていましたが、2009年に職場の部と一般の部が「職場・一般の部」に統合されることになり、職場の部単独での開催は2008年で終わりを迎えることになりました。

この影響で、2009年から「職場・一般の部」の各支部代表枠がそれぞれ1団体増やされることになりましたが、企業に属する職場団体と制限の無い一般団体とでは、その性質から演奏レベルは元来一線を画しており、ほとんどの支部では一般団体が増設の代表枠に選出されることになりました。結果として職場団体にとっては逆境ともいえる部門統合でしたが、そのような中でもいくつかの支部では職場団体が代表枠に選出されており、2023年の現在もなお地区を代表する強豪団体として名を馳せています。今回ご紹介するのは、そんな強豪の中でも特に実績の多い名門職場団体である「ブリヂストン吹奏楽団久留米」「ヤマハ吹奏楽団浜松」による2つの好対照な演奏です。

ご紹介する演奏は部門統合前の1996年大会の演奏ですが、この年は職場の部に10団体が出場し、9番がブリヂストン吹奏楽団久留米で10番がヤマハ吹奏楽団浜松と続いての出演順になりました。この年の両団体は例年と比べても演奏レベルが高く、それぞれの団体の個性と長所が選曲や演奏によく表れていました。コンクールの結果としては両団体共に金賞を受賞し、点数が同点(上下カットありでもなしでも)での同率1位という成績で、評価はBが2つだけのあとは全てAという高得点だったのです。

名演紹介 #22 ブリヂストン吹奏楽団久留米とヤマハ吹奏楽団浜松(96年)

課題曲Ⅳ:はるか、大地へ
作曲:上岡 洋一

ブラスオーケストラのための「行列幻想」より 3. そして男と女の行列
作曲:團 伊玖磨 編曲:時松 敏康


全日本吹奏楽コンクール
1996年(第44回大会) 金賞
演奏:ブリヂストン吹奏楽団久留米
指揮:小野 照三

ブリヂストン吹奏楽団久留米の課題曲は上岡洋一さん作曲の「はるか、大地へ」で、メロディが親しみやすくて雄大な音楽が印象的な課題曲の名曲です。そして自由曲には團伊玖磨さんの「行列幻想」を選曲し、この曲は1977年にブリヂストン吹奏楽団久留米によって委嘱された曲で正に十八番の曲です。

課題曲Ⅴ:交響的譚詩~吹奏楽のための
作曲:露木 正登

「色彩交響曲」より 3. ブルー 2. レッド
作曲:A.ブリス 編曲:塩崎 美幸


全日本吹奏楽コンクール
1996年(第44回大会) 金賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団浜松利明
指揮:森田 利明

ヤマハ吹奏楽団浜松の課題曲は露木正登さん作曲の「交響的譚詩~吹奏楽のための」で、いわゆる現代音楽のジャンルで緻密な音楽作りが求められる課題曲の名曲です。自由曲はアーサー・ブリス作曲の「色彩交響曲」で、高度な技術が求められながらも独特の色彩感が必要なヤマハ吹奏楽団浜松にしかできない選曲になっています。

演奏について

ブリヂストン吹奏楽団久留米

課題曲Ⅳ:はるか、大地へ

冒頭の一音目から広がりのある音色で雄大な大地を想像させてくれます。曲全体を通してメロディの歌い込みに熱いものを感じさせてくれる情熱的な演奏で、低音群の充実ぶりも素晴らしいです。2:43からのスピード感溢れる高速タンギングに耳を奪われて、3:26のアルトサックスソロの熱い歌い込みに心を奪われます。フルートソロが美しい音色で続き、全体で雄大なメロディを高らかに歌い上げて曲は終わります。よくぞこの曲を選んでくれたと思わせるほどブリヂストンにぴったりな課題曲だと思います。

ブラスオーケストラのための「行列幻想」より 3. そして男と女の行列

トランペットセクションの物凄い音圧で曲が始まります。(一音目が外れてしまったのがとても惜しい!)

フルートとクラリネットの軽快なメロディに乗って曲が進んでいきますが、どのセクションも曲を吹きこなしていてさすが委嘱作品の十八番曲という感じです。木管はけっこうな速さの高速タンギングになるのですが、なんの問題もなく吹いているのが驚きのレベルの高さです。ゆっくりなテンポのメロディを美しく聴かせて、低音セクションの見せ場やピッコロの見せ場を経て終曲にむけて盛り上がっていき、突然テンポが上がって鮮やかに曲が終わります。

ヤマハ吹奏楽団浜松

課題曲Ⅴ:交響的譚詩~吹奏楽のための

冒頭の木管から緊張感溢れる張りのある音で始まり、トランペットとホルンが恐ろしい音圧で応えます。0:23のトランペットソロは音圧も音色感も文句なしです。

0:39から長大なクラリネットソロが始まりますが、ヤマハのリフォームドベームの楽器によるドイツ管のような美しい音色での表情豊かなソロがとても素晴らしいです。オーボエ、フルート、アルトサクソフォーンのソロが繋がっていきますがどの楽器もとても上手です。金管セクションの音圧も物凄いのですが、クラリネットセクションの音のまとまりが特筆もので、さまざまな動きが重なっているのに全体の景色が見渡せるバランスの良さが光っています。課題曲5番として理想的な演奏で、ヤマハにしかできない高レベルの演奏だと思います。

「色彩交響曲」より 3. ブルー 2. レッド

3楽章のブルー《0:00〜》は深海のような深みのある青という印象でしょうか。冒頭のフルートソロが技術的にも音楽的にも素晴らしすぎますが、この曲特有の音色感をバンド全体で出せているのが恐ろしいと思います。1:47のクラリネットソロはヴィブラートありの表現が印象的で、木管低音の深みのある音色が心に残ります。2:12からの切迫感のある音楽の表情に心を打たれます。

2楽章のレッド《3:15〜》が唐突に始まりますが、こちらはショッキングで鮮烈な赤という印象です。あまり耳にすることがない独特な調で曲が進んでいきますが、一つの目標に突き進んでいくパワーと一体感に終始圧倒されます。4:53の木管楽器の美しいレガートの流れに聴き惚れて、再び金管のパワーが炸裂し、それぞれが交互に現れて劇的に曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?それぞれが個性豊かな2団体の、職場の部でしか聴くことができない選曲での名演をご紹介しました。

技術的なレベルでは職場の部は一般の部に敵わないかもしれませんが、それぞれの個性が際立っていて職場の部ならではの曲を聴くことができていた時代が今となっては貴重だったのだなと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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