【金管バンドナビ】#21 英国金管バンドのコンテスト⑧

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

2ヶ月に渡ってご紹介させていただきました英国金管バンドのコンテストシリーズ、お楽しみいただけていますでしょうか?

英国にて金管バンドが生まれてから約200年、そして世界で最初に開催された金管バンドコンテストであるブリティッシュ・オープンが開催されてから約150年、これらコンテストの数々が金管バンドの発展に多大なる寄与をしたのは間違いありません。

今週はコンテストシリーズの最後として、コンテストにまつわる審査や作曲についてなど、これまでの内容の補足をさせていただきシリーズの幕引きとさせていただきたいと思います。先週に引き続き、最後までぜひお楽しみください。

作曲、指揮、審査

作曲コンペティション

金管バンドのコンテストに必要なのはバンドや奏者、素晴らしい性能を持った楽器だけではありません。それらバンドの技量を試すための課題曲や自由曲などの素晴らしい楽曲もその一つです。

金管バンドナビ#4『巨匠たちの名作』でもご紹介した通り、1913年に金管バンドのためのコンテスト用オリジナル作品が作曲されました。それ以降様々な作曲家がコンテストはもとより、金管バンドのためのオリジナル作品を作曲してきました。

全英大会やブリティッシュ・オープンなど多くの主要コンテストでは今も自由曲がなく課題曲のみでの審査が主ですが、ワールド・ミュージック・コンテスト、欧州大会、そしてブラス・イン・コンサートなどのコンテストではバンドが自由に選択できる自由曲枠があります。そのため多くのバンドは既存のオリジナル作品を選択したりもするのですが、強豪バンドの中には出場するコンテストのため作曲者に新作を依頼することもあります。

こちらのフィリップ・スパーク(Philip Sparke)作曲の『ペリヘリオン(Perihelion)』は、2013年にコーリーバンドが欧州選手権に出場する際にスパーク氏に作曲を依頼した曲です。私も演奏していましたが、コンテストの数ヶ月前には試作品が届き、その後何度か手直しをしてもらいながら完成したのを覚えています。コーリーの演奏もさることながら、作曲者の熱意も加わった演奏はこの年の欧州大会でのコーリーバンドを優勝に導きました。

作曲家を取り巻くそうした環境の中で、彼ら自身も常に自分の元へと依頼を呼び込むために積極的にコンテストへ出場します。そのコンテストの1つが欧州作曲コンペティション(European Composition Compopetition)です。このコンテストは以前ご紹介した欧州選手権の中に入っている作曲家のためのコンテストで、2022年のルールには①12分以内の作品 ②予選と本戦の勝ち抜き ③本戦まで残った作品はバンドによって演奏をされ審査されるとあります。

優勝賞金は1位€2500、2位€2000、3位€1500、そして観客賞€500とバンド賞€500があります。さらに 今後の作曲活動や研究に対するサポートも付属しています。

この欧州作曲コンペティションだけでなく、フランスをはじめとした欧州各地の金管バンド協会による主催コンテスト、国際ユーフォニアム・チューバ協会主催のもの、またバンドが主催する作曲コンテストなどもあります。

指揮コンペティション

金管バンドというと金管楽器と打楽器が目立ちますが、もちろん指揮者もとても重要なポジションです。金管バンドの歴史上、初めの頃はオーケストラや軍楽隊の奏者が指揮を勤めバンドをまとめていましたが、徐々に金管バンドの奏者たちの中から指揮者としての頭角を表してきたり、近年では英国の王立音楽大学でも金管バンドの指揮者に特化したコースが設立されたりと金管バンドの芸術的価値が高まると共に、その指揮者に求められる技術や知識も高くなりました。

そのような中、金管バンド業界の指揮者やこれから指揮を考えている音楽家のために組織された『ブラスバンド・コンダクター協会』、この協会が主催する指揮者コンテストも開催されています。

このコンテストでは一次選考として最初に動画審査が行われ、その後会場で実施される二次選考が行われます。この二次選考ではチャンピオン・セクションバンドとの実際のリハーサルを15分間審査されます。その二次選考で選抜された6名が同日に開催される最終選考のガラ・コンサート(特別公演)に出演し、優勝を賭けた最後の演奏を行うのです。

2023年の二次選考ではハモンズバンド(Hammonds Band)と共に課題曲としてE. グレグソンの『世界の歓喜』(The World Rejoicing / Edward Gregson)やJ. ゴーランド作曲の『サウンズ』(Sounds / John Golland)が課題となりました。最終選考ではファースト・セクションのエクレス・ボロー・バンド(Eccles Borough Band)と共に金管バンドのクラシック・ピースを中心とされたコンサートを指揮し、最終選考が行われました。

優勝者にはロイ・ニューサム・コンダクター・シールドと£200、さらに当協会の1年間無料会員証とチャンピオン・セクションのバンドとの演奏機会が与えられます。

ブラスバンド審査員協会(The Association of Brass Band Adjudicators)

1999年にマンチェスター(Manchester)とリーズ(Leeds)の間にあるハリファックス(Halifax)で結成された金管バンドコンテストにおける審査員のための協会です。この協会は金管バンドの芸術性の向上を図るため、コンテストにおける審査の質を高める事が目的で、メンバーは講習を受講できたり、すでに審査のプロフェッショナルとして活動しているメンバーからアドバイスやサポートを受ける事ができます。

初期メンバーには元ブラック・ダイク・バンドの指揮者で、”ダイク”の父と言われたピーター・パークス氏(Major Peter Parkes)、また”ダイク”やフェアリー・エンジニアリング・バンド(Fairey Engineering band)など数々の競合バンドの指揮者を歴任し様々なコンテストにてバンドを優勝へ導いたロイ・ニューサム氏(Dr. Roy Newsome)など、現代における金管バンド・レジェンドたちによって作られました。

80名を超えるメンバーが所属し、英国のみならず、欧州各地やスカンディナビア半島の国々のコンテストにおいてもこの協会所属の審査員が派遣されています。

今回ご紹介したこれらの協会の活動が金管バンドの発展に欠かせないコンテストにおける公平性や競技性、そして芸術性の発展など幅広い分野でとても良い影響を与えています。

“合理主義の国イギリス”ということで元々労働者階級のための娯楽であった金管バンドが、演奏をはじめ、作曲、指揮など多種多様なコンテストが開催されることや、コンテストにおける審査レベルを向上させることで、芸術的価値や業界全体としてのレベルを合理的に上げています。この仕組みを作り出した偉大なる音楽家たちには敬服しますし、日本金管バンド業界にも必要だと強く思います。日本でも金管バンドコンテストが開催されるよう期待をしつつ、コンテストシリーズの幕引きとさせていただきたいと思います。

さて、次週からはついに我々の母国の金管バンドについてご紹介させていただきたいと思います。ぜひお楽しみにお待ちください。

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。