【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#9

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皆さま、こんにちは。

早く梅雨が明けてほしいと切に願う今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

前回の記事はこちらになります。
名演紹介 #8 課題曲Ⅳ、森の贈り物/玉名女子高

今回は2004年全国大会の関西支部代表、天理高校の演奏をご紹介します。

天理高校は順位制だった戦後の全日本吹奏楽コンクールから出場しており、ほとんどの年で全国1位に輝いていた真に古豪といえる存在です。1970年に順位制から金・銀・銅のグループ表彰制に移行してからは全国大会出場の26回中22回が金賞受賞という実績を残しています。2023年の現在までに指揮者の先生が4人変わっているのですが、今回ご紹介する演奏の指揮者である新子菊雄先生全国大会に出れば金賞という驚異的な成績を在任中最後まで継続しました。

この天理高校と私の母校である兵庫県立明石北高校は不思議な縁がありまして、明石北高校が全国大会に出場した年は天理高校が支部代表に選ばれないという状況が私が高校生になるまで続いていました。天理高校は1995~1998年まで吹奏楽コンクールには不参加という時代があり、1999年に再び参加するのですが支部代表に選ばれない時期が続きます。私が全国大会に出場できた2002年というのは天理高校が支部代表に復活した記念すべき年であり、両校は一緒に支部代表には選ばれないという不思議な縁がなくなった年でもあるです。

全国大会に復活した2002年、翌年の2003年と連続で金賞を受賞し、この2年間は天理高校が以前にコンクールで演奏していた曲を再び選んでいましたが、2004年は天理高校としては初めてとなる「中国の不思議な役人」を選曲、全国大会三出と三金がかかる年での新たな挑戦でした。

名演紹介 #9 課題曲Ⅰ、中国の不思議な役人/天理高(04年)

課題曲Ⅰ:吹奏楽のための「風之舞」
作曲:福田 洋介

バレエ音楽「中国の不思議な役人」より
作曲:B.バルトーク 編曲:小澤 俊朗


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄

ベーラ・バルトークが作曲した「中国の不思議な役人」はコンクール自由曲として全国大会での演奏回数がトップ10に入るほどの人気曲で、金賞受賞率が驚異の51.9%となっています。金賞になりやすい曲と言えますがこの曲の技術的難易度はかなり高く、演奏ができるという高いハードルを越えての結果だと思います。私はこの曲の組曲版をオーケストラで演奏したことがありますが、よく知っていて聴き慣れた曲だったにもかかわらず最後の変拍子が本番直前まで演奏できなくて大変苦戦しました。また、この曲を自由曲に選んだ母校の指導をしたときも冒頭の弦楽器での7連符がクラリネットだと指が難しすぎてびっくりした記憶が残っています。

この年の課題曲Ⅰ、吹奏楽のための「風之舞」は全国大会でもたくさん演奏されていて、「中国の不思議な役人」も天理高校より前の順番の学校が演奏していたこともあってこの2曲のイメージがなんとなくできあがっていたのですが、天理高校の演奏はそのイメージを良い意味で覆す衝撃的なものでした。

演奏について

課題曲Ⅰ:吹奏楽のための「風之舞」

曲冒頭の強弱記号はスコア上はピアノになっているのですが、天理高校の演奏は息もできないほどの緊張感の中でのピアニシモで始まります。この音量設定の中でクラリネットのピアニシモの低音が聴こえるようなバランスのとり方は尋常でなく恐ろしいレベルの高さです。だんだんクレシェンドしての0:17からは普通であれば金管楽器が前面に出てくるのですが、ここで木管楽器の動きが聴こえるようにバランスをとり、トランペットが木管楽器の動きに加わってからも木管楽器が聴こえてくるのは異常と思えるほどのバランスの良さです。

0:33からの木管楽器のメロディはスコア上はメゾフォルテでdolceとなっていますが、音量がそこまで大きくないのにもかかわらず響きの密度の濃さフレージングの上手さでの歌いこみがもの凄いです。歌いこみには「和」を感じられるのですが、楽器の演奏法は「洋」を崩していないと思われるので、正に和と洋の融合を感じます。その後もフルートのソリやトランペットのソロの日本的な歌いまわしの表現やクラリネット・フルートでのソロの繋がりが無理なく聴きとれるバランスの良さが素晴らしく、1:39のフォルテの音圧も充分すぎるほどしっかりしています。2:02からの木管楽器の歌いこみの濃さも素晴らしく、ピッコロのソロが美しく響きます。

2:38からのフルート・ピッコロセクションとそれに続くトランペットセクションでのソリの一体感と日本的な歌いまわしが素晴らしく、クレシェンドがかかっていった先のリタルダンドの4拍目のリズム(3:14)がとても印象的に決まります。その後のフォルティシモでは最初の4小節で木管楽器のメロディを聴かせて、次の4小節で金管楽器の動きのアクセントを聴かせるというバランスのとり方が素晴らしいです。

テンポが速くなってからの3:55のトロンボーンのソリが鮮やかに決まり、最後まで動きがあるパートが埋もれず無理なく聴こえてくるのは正に「風の舞」といったところでしょうか。スコアにはない5:06のリタルダンドも日本的な終わり方の表現として魅力的だと思います。

バレエ音楽「中国の不思議な役人」より

吹奏楽コンクールでの中国の不思議な役人の演奏としてはゆっくりめなテンポで始まりますが、音量がそこまで大きい訳ではないのに弦楽器パートを演奏する木管楽器の7連符の音の密度が濃く、クレシェンド・デクレシェンドにおどろおどろしさを感じられます。金管楽器群の動きのあるパートが明瞭に聴こえるバランスをとりながら、クレシェンドがかかっていってからの金管楽器の音圧の凄さはバルトークの音楽そのものだと思います。

1:22からの木管楽器群のメロディは今まで聴いた演奏の中で一番濃ゆく恐怖を感じる表現です。クレシェンドでの音の張りだけでなく、ふっと抜ける表現もとても素晴らしいです。1:44からのトロンボーンセクションのグリッサンド奏法の見事な吹きっぷりと音圧の凄さに圧倒され、2:19からのイングリッシュホルンのソロとオーボエとのデュオの表現の濃さ歌いこみもとても素晴らしいです。その後のアゴーギグを伴った表現でのアンサンブルもお見事です。

3:39からのトロンボーンのソリも当然のようにミスがなく見事に決まってから「追いかける役人」の場面に突入します。最初はテンポが遅いかな?と思うのですが、木管楽器のメロディの一音一音の濃いアクセントが積み重なっていくことによってより恐怖を感じる表現となっていて、金管楽器が加わっていっても動きが聴きとれるバランスのとり方が素晴らしいです。特に5:03はただ混沌となってしまう演奏が多い中、それぞれの動きが聴こえてくるのはお見事としか言えません。

5:20からテンポが上がり、バルトークらしいアクセントと音圧を金管楽器がこれでもかと聴かせながら終曲に向かっていき、ラストのリタルダンドで重厚に曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?表現の濃さバランスのとり方が際立って素晴らしい天理高校の名演をご紹介しました。

次回は、2003年の全国大会、大学の部での名演をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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