【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#8

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皆さま、こんにちは。

まだ梅雨が明けていないのに気温が高い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

前回の記事はこちらになります。
名演紹介 #7 課題曲Ⅰ:さくらのうた/習志野高

今回は2014年の全国大会の演奏をご紹介しますが、この年の全国大会の思い出について少しお話ししておきましょう。

全国大会を目指している吹奏楽部のクラリネットパートの指導をご縁があって2014年に引き受けたのですが、私が最後に全国大会を聴きに行ったのが2004年だったので、今の全国大会のレベルがどれぐらいなのか知りたいと思い10年ぶりに高校の部を聴きに行くことにしました。全国大会の三出制度が2013年に廃止となったため各支部の強豪校がほとんど全て出場しており、どんな評価になるのだろうと自分で点数(ABC評価)をつけてみたのですが、私が高校生だった時と比べると飛躍的に技術が向上していて特に自由曲はどの学校も上手でCをつけられる学校は皆無、課題曲で若干の差が出ていたので評価はつけられると思いましたが金賞と銀賞の差は審査員の好みになるのではないかと思うほど差が拮抗していて、凄い時代になったものだと驚きました。

この年は前半の部に実績のある学校がかなり多く集まっていたのですが、その中でもある学校の演奏を聴いてとてつもなく感動し、今でも強烈に記憶に残っています。その学校というのが、今回ご紹介する玉名女子高校です。

名演紹介 #8 課題曲Ⅳ、森の贈り物/玉名女子高(14年)

課題曲Ⅳ:コンサートマーチ「青葉の街で」
作曲:小林 武夫

森の贈り物
作曲:酒井 格


全日本吹奏楽コンクール
2014年(第62回大会) 金賞
演奏:玉名女子高等学校吹奏楽部
指揮:米田 真一

「森の贈り物」の作曲者の酒井格さんの曲といえば「たなばた」がよく演奏されており、私も東京佼成ウインドオーケストラの公演などで何度も演奏しているのですが、演奏する度に感動して泣きそうになってしまうほど素敵な曲で、「森の贈り物」も酒井さんの作風がよく出ている魅力的な曲になっています。

「森の贈り物」は、龍谷大学吹奏楽部の2003年のコンクール自由曲として委嘱された作品です。酒井さんのホームページでのこの曲の作品紹介によると、曲名のヒントになったのは龍谷大学吹奏楽部のOBにLEGACYという車種に乗っていた森さんという方がいたことという面白いエピソードがあるのですが、シンプルな曲名からは想像できないぐらい音楽的な魅力がたくさん詰まっている名曲です。私はこの曲の全国大会初演の龍谷大学の演奏を生で聴いているのですが、曲名を見て笑ってしまったことを後悔するぐらいの素晴らしい曲と演奏にとても感動したのが忘れられない記憶になっています。

演奏について

課題曲Ⅳ:コンサートマーチ「青葉の街で」

冒頭のファンファーレから暖かくて柔らかい音色がホール中に響き渡ります。第一マーチのクラリネットとサクソフォーンのメロディはよくブレンドされた柔らかい響きがとても魅力的で、そこにオーボエやトランペットやフルートの音色がブレンドされていきます。

第二マーチは勇壮でありながら固くない響きが安心感を与えてくれて、木管の少し影のあるメロディを挟んだ後の第一マーチではトランペットらしい華やかな音色を聴くことができます。

トリオはゆったりとした時間が感じられる優しいメロディと流れを失わない低音群との一体感が素晴らしく、調性が短いスパンで変わっていく難所(練習記号G)を苦もなくこなしたと思えばバランスをとるのがかなり難しいとされた部分(練習記号H)も美しく聴かせてくれます。

BーDurに転調してからはトランペットがバンドを引っ張っていき、ラストのファンファーレは力強さも加わり見事としか言いようがありません。

森の贈り物

クラリネットセクションから始まる冒頭がアゴーギグを伴った繊細な音楽表現のためにアンサンブルが乱れてしまうのですが、コンクールという場において縦が合わないリスクを回避して守りに入らずに音楽表現を重視して攻めるという姿勢に凄く驚いたと同時にとても感動したのを覚えています。木管楽器を中心とした柔らかく繊細なサウンドはこの曲の冒頭の幻想的な雰囲気にぴったりです。

コルネットのソロは堂々とした吹きっぷりで、音色感の美しさ、表情の豊かさ、フレーズの長さなどソロとして文句なしの出来で感動的です。その後の絶妙なアゴーギグでのアンサンブルがとても素晴らしいです。

アルトサクソフォーン、フルート、クラリネットとソロが続いていきますが、ソロの音色の美しさや表情の変化の素晴らしさはもちろんのこと、ソロに絡むクラリネットセクションの音楽的な波とバランスの良さが何より素晴らしく、繊細なアンサンブルができる環境がクラリネット吹きとしては羨ましくもあります。その後 poco stringendoを経ての2:02のピアニシモが幻想的で美しいです。アルトサクソフォーンのソロの後から始まるメロディの一体感がとても素晴らしいですが、その後のバリトンサックスのソロはスコア上ではバスクラリネットで、場面に合う音色としてはここは楽器を変えないでほしかった!ここだけが唯一惜しいと思うところです。

冒頭のメロディが再び演奏される2:52からはアゴーギグのために揺れ動くテンポ感を全員が共有しているからこその見事なアンサンブルと、玉名女子高校特有の柔らかく豊かなサウンドがこの部分の魅力を最大限に引き出しています。その後のホルンセクションのアンサンブルも素晴らしいです。

スネアドラムとハープに導かれて、かわいらしい行進曲が始まります。トランペットセクションの見事なアンサンブル、木管楽器の軽快なタンギングを聴かせてからのどっしりした響きの厚さも魅力的で、テンポが上がっても全く乱れないアンサンブルが素晴らしいです。その後で嵐がやってきますが、スピード感がありながらも乱れないバランスの良さに感心します。

コルネットとシロフォンのソロの鮮やかさとクラリネットのソロの見事な連符(とても難しい!)に耳を奪われて、オーボエの少し寂しげなメロディに木管楽器が加わっていってからがこの演奏の最大の見せ場です。だんだんと盛り上がっていってブレンドされた厚みのあるフォルティシモを聴かせた後、歌心に溢れたメロディが大胆なアゴーギグを伴ってのアンサンブルによってトゥッティで感動的に演奏されます。6:57からのトランペットセクションの暖かくもしっかりとした音圧が素晴らしく、終曲に向かって盛り上がっていき木管楽器の連符から金管楽器に繋がり、Desのコードが美しく決まって曲は終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?暖かくて柔らかいサウンドと自由自在に揺れ動きながらも繊細なアンサンブルがとても魅力的な玉名女子高校の名演をご紹介しました。

次回は、2004年の全国大会での、関西支部代表の古豪の名演をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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