【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#6

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皆さま、こんにちは。

梅雨の時期にしとしと雨が降ると言われていたのが遠い昔のことに思われるぐらい、大雨が各地に影響を及ぼしていますが、いかがお過ごしでしょうか。

前回の記事はこちらになります。
名演紹介 #5 エルフゲンの叫び/福工大附城東高

今回から、私が吹奏楽コンクールの会場で生演奏を聴くことができた名演をご紹介するシリーズが始まりますが、記念すべき初回には吹奏楽コンクール全国大会での演奏ではなく、東関東支部大会の演奏をご紹介します。

2012年(第18回大会)の演奏になりますが、この年の東関東支部大会は特に注目される大会となっていたため、それまでの東関東支部大会の歴史を説明しておきましょう。

関東支部大会が東西に分かれたのが1995年になりますが、翌年の1996年から「東関東の御三家」と呼ばれた市立習志野高校・市立柏高校、常総学院高校の3校が支部代表に選ばれるという状況が続きました。この流れが2000年代中盤に横浜創英中学・高校が頭角を現したことにより大きな変化が訪れます。横浜創英は全国大会三出を達成して東関東はいよいよ混戦となり、さらに2011年には全国大会に初出場したとある高校が全国大会金賞デビューという鮮烈な結果を残します。そして訪れた2012年は御三家と横浜創英とそのとある高校が全て揃って出場する、という大激戦の年になったのです。そのとある高校というのが今回紹介する県立幕張総合高校です。

2012年の東関東支部大会は千葉県での開催で前半の部と後半の部に分かれており、私は後半の部の常総学院高校、市立習志野高校、県立幕張総合高校の演奏を生で聴くことができました。市立柏高校と横浜創英中学・高校を生で聴くことができなかったのは残念でしたが、後半の部では3校の他に作新学院高校、市立戸塚高校、東海大学付属相模高校などのとても上手で印象に残る演奏を聴くことができたので、後半の部を生で聴くことができてよかったと満足して帰ったのが懐かしいです。

名演紹介 #6 課題曲Ⅲ、風伯の乱舞/幕張総合高(12年)

課題曲Ⅲ:吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」
作曲:足立 正

風伯の乱舞
作曲:石毛 里佳
 編曲:佐藤 博

東関東吹奏楽コンクール
2012年(第18回) 金賞
演奏:千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部
指揮:佐藤 博

「風伯の乱舞」の作曲者の石毛里佳さんは東京藝術大学の作曲科を卒業された方で、吹奏楽曲はもちろんですがアンサンブル曲がよく演奏されていると思います。クラリネットアンサンブルだと「ウェントス」(3重奏)、「ヤクラ」(8重奏)、などがあり、この2曲は私も実際に演奏したことがあります。

風伯(ふうはく)とは日本における風神を意味しており、日本風の情緒が強調された曲となっています。この曲の全曲版を聴いたことがありますが、こちらのコンクールの演奏はカットだけでなく楽器の変更などの異なる点がいくつかあり、おそらくは指揮者の佐藤博先生が作曲者の石毛里佳さんに相談しながらこの年のメンバーの長所を最大限発揮できるように編曲したのではないかと想像できます。

演奏について

課題曲Ⅲ:吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」

冒頭の打楽器パートでのアンサンブルはアクセントを効かせながらもきちんとバランスがとれていて、中音域から始まるメロディは「じゅげむ」の言葉が聞き取れるような明瞭なアーティキュレーションが素晴らしいです。楽器が変わっても見事に繋がっていくアンサンブルはお見事です。

作曲者が子守唄のようなイメージと書いている中間部は美しいレガートでのアルトサクソフォーンのソロからフルートとクラリネットに繋がっていき、壮大なメロディが木管と金管で歌われる部分は細部までこだわりが見える音楽表現がとても魅力的です。随所に現れるオーボエの音色の美しさに耳を奪われます。

打楽器アンサンブルから再び「じゅげむ」に戻り、後半もバランスのとれた見事なアンサンブルを聴かせて曲は終わります。

風伯の乱舞

幻想的で日本の笛を思わせる表現が魅力的なフルートのソロとハープのデュオから曲が始まり、一気に和の世界に引き込まれます。突風のようなひと盛り上がりの後に始まるファゴットのソロは高校生のレベルを遥かに超えていて、技術的なことが何も気にならずに音楽が聴こえてくるという恐ろしすぎるレベルにまで達しています。それに絡んでいくアルトサクソフォーンのソロも大変素晴らしく、木管楽器が雷のような鋭いアクセントと鳴らしながら突き進んでいく流れがティンパニの高速連打で唐突に打ち切られます。

ハープに導かれて始まるオーボエのソロの美しすぎる音色と豊かな表現力に加えて高音の安定感が尋常ではないレベルの高さで、ファゴットのソロとの絡みはあまりにも凄すぎて驚嘆するしかありません。本当に高校生なのかと信じられない気持ちです。

金管楽器のアグレッシブな打ち込みからテンポが上がり、サクソフォーンの中低音から乱舞が始まります。スピード感に溢れていて嵐のように曲が進んでいく中で聴こえてくるオーボエやフルートの音色の美しさが耳に残ります。途中で和太鼓のだけの見せ場がやってきますが、ここはパフォーマンスありで動きでも魅せてくれました。ぴったりと揃ったアンサンブルがお見事です。その後フルート・ピッコロ→ソプラノサクソフォーンと続いていく動きのバランスのとり方が素晴らしく、木管楽器の連符が鮮やかに決まっていくのが爽快です。

再びハープに導かれてオーボエ、ファゴット、フルートのソロの極上の絡みから切ないメロディが始まり、バンド全体で歌い上げるところがとても感動的です。終結部に向けてテンポが上がり、あまりにも見事に繋がっていく連符に耳を奪われて鮮やかに曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか?特に木管楽器のずば抜けたレベルの高さをこれでもかと堪能できる、高校生ならではのアグレッシブで表情豊かな名演をご紹介しました。この演奏でも支部の代表に選ばれないという東関東支部大会のレベルの高さに驚愕したことを今でもよく覚えています。

コンクールの名演といえば全国大会に目が行きがちですが、コンクールという性質が故に目立たない名演が支部大会などに数多くありますので、こういった名演に出会えるのも現地まで足を運んで鑑賞する魅力だと思います。

次回は同じ東関東支部大会での、今でも演奏機会が多くて皆に愛されている課題曲の名演をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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