【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#5

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皆さま、こんにちは。

リード楽器の奏者としてはとても憂鬱な気分になる梅雨の季節がやってきてしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。

前回の記事はこちらになります。
名演紹介 #4 大阪俗謡による幻想曲/淀川工業高

今回は海外吹奏楽オリジナル作品から、ローレンス作曲の「エルフゲンの叫び (原題:Warcrye Of Elfegen)」の名演をご紹介します。

作曲者のジェフリー・ローレンスという人物についてはほとんど情報がなくあまり知られておりませんが、「エルフゲンの叫び」が収録されているCDのブックレットに作品の情報と共に書かれているプロフィールをご紹介しておきます。

イギリスの名門近衛楽隊、グレナディア・ガーズ軍楽隊と、ロイヤル・エア・フォース(王室空軍)セントラル・バンドのいずれも首席コルネット奏者を歴任、退役後は作曲・編曲・指揮の分野でも活躍しているローレンスの新作で、出版社が主催する’99年度の「スタジオ・ミュージック作曲賞」を受賞した作品。風変わりなタイトルだが、イギリスの故事か伝説に由来したものと思われる。Warcryeは古い英語で「ときの声」の意味。

BRN <バンド・レパートリー・ネットワーク> 2000-12 Vol.13 CDのブックレット(後藤 洋氏著) より引用
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名演紹介 #5 エルフゲンの叫び/福工大附城東高(06年)

エルフゲンの叫び
作曲:G.ローレンス


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:福岡工業大学附属城東高等学校吹奏楽部
指揮:屋比久 勲

私はこの演奏を聴いてエルフゲンの叫びという曲を知りましたが、この曲の出版社の楽譜紹介ページに書かれている曲についての詳細をご紹介しておきましょう。

この曲は、北欧の獰猛な戦士の故郷である神話上の王国エルフゲンの情景を描いたものです。冒頭の静寂の中、不気味な「ときの声」が聞こえてくると、事態は一気に動き出し、丘の上や下を慌ただしく動き回り、戦闘態勢に入ります。人影が丘の上を駆け巡り、戦闘態勢に入る。その激しさは絶えず増し、やがて激しい戦いが始まる。やがて戦いはおさまり、混乱から一転して穏やかな時間が訪れる。戦いが一段落すると、平和を訴える声が聞こえてくる。しかし、その声は無視され、再び戦いの火ぶたが切って落とされた。冷酷なエルフゲンの戦士たちは、勝利を得るまで満足することなく、非常に大きな声で、勝利のクライマックスを聴かせ、別の戦いは避けられない結末を迎える。

出版元のStudio Musicの製品ページ Details(詳細) より引用

この曲を吹奏楽コンクールで演奏して全国大会に出場したのは全部で3団体ですが、その全ての指揮者が屋比久勲先生となっていて、正に屋比久先生の十八番曲でした。その中でも、福岡工業大学附属城東高校での屋比久先生最後の年となったこの演奏が特に素晴らしいのでご紹介します。

演奏について

曲はオーボエの美しく表情豊かなデュオから始まります。この部分はスコアではフルートでの演奏になっているので賛否両論ありますが、この年のオーボエがあまりにも上手なので元々がオーボエのデュオだと思わせるぐらいの説得力があります。

金管楽器を中心とした中低音がよくブレンドされた暖かいサウンドを聴かせながらだんだん高まっていき、ピッコロのソロに導かれてのAの和音が輝かしく高らかに鳴り響いた後は木管楽器の超高速の連符地獄が幕を開けます。恐ろしく正確かつ一音一音が聴きとれて更にスピード感も感じられるクラリネットとサクソフォーンには見事を通り越して恐怖を感じるほどの素晴らしすぎる完成度です。その後ろでハイトーンを凄い音圧で決めていく金管楽器にも脱帽です。

連符がだんだんと収まっていき、イングリッシュホルンの表情豊かなソロから始まる中間部は暖かさが感じられる泣けるメロディを、美しくブレンドされたサウンドで歌いこんでいくのがとても感動的で、コンクールの演奏時間の都合でカットされているのがとても惜しいぐらいです。

木管楽器のベルトーンを経て再びの連符地獄には金管楽器の限界に近いハイトーン連発も加わって、熱狂は最高潮になります。そこから中間部のメロディが調を変えて登場し、そこに木管楽器の連符が加わっていき、一番最後のFの和音が高らかに鳴りきった直後のブラボーがこの演奏の凄さを物語っています。

この演奏の何よりも一番恐ろしいことは、この演奏が前半の部のプログラム2番であることです。全国大会は午前9時に開演なのでプログラム2番は9時15分開始になり、そんな時間からこのような超難曲をこの完成度で演奏してしまったことに驚愕してしまいます。私は高校1年生の時の関西支部大会でプログラム1番の朝一を経験したことがありますが、関西支部大会の開演時間は午前10時だったのでそれよりも早い時間に演奏する全国大会のプログラム1~4番は想像を絶する大変さだと思います。

屋比久サウンド

屋比久勲先生が指揮した学校の吹奏楽部のサウンドは屋比久サウンドと呼ばれていて、特に2000年代後半から先生が指揮されていた鹿児島情報高校時代のサウンドが、低音を中心とした無理のない良い音で各楽器が混ざり合ってよく響く屋比久サウンドの集大成だと思っておりますが、私はこのサウンドが生まれた2005年と2006年の福岡工業大学附属城東高校のサウンドが個人技術の高さも加わっていて一番だと思います。

この屋比久サウンドを一番感じられるのが、2005年の課題曲Ⅳ、佐藤俊介さん作曲のサンライズマーチです。シンプルな曲の構成かつシンプルな和音進行で進んでいくこの曲は屋比久サウンドにぴったりで、この曲の良さを最大限に引き出しています。ぜひ聴いていただきたい演奏です。

あとがき

いかがでしたでしょう?吹奏楽コンクールらしい海外吹奏楽オリジナル作品の、屋比久勲先生と福岡工業大学附属城東高校の名演をご紹介しました。

次回からはシリーズものとして、私が吹奏楽コンクールの会場で生で演奏を聴くことができた名演をご紹介していこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。


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エルフゲンの叫び【Warcrye Of Elfegen】
グレード:5.0
作曲者:ジェフリー・ローレンス (Geoffrey Lawrence)
演奏時間:6分38秒

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