みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
ついに今年も、欧州選手権(European Brass Band Championships)の季節がやってきました。筆者にとって最も好きなコンテストであり、その理由はいくつかありますが、なかでも一番の魅力は「これまでに聞いたことのない、新しい音に出会えること」です。
今年も、そんな異次元のサウンドや演奏が目白押しでした。そして順位も、信じられないような結果の連続。まさに大波乱となった今年の欧州選手権、今回はその前編をお届けします。
INDEX
大会概要

1978年に始まり、ヨーロッパ各国の強豪バンドが一堂に会してその頂点を競うコンテスト――ヨーロピアン・ブラスバンド選手権が、今年も開催されました。
コロナ禍で2度の中止を経たものの、今年で第45回を迎えたヨーロピアン・ブラスバンド選手権。
今年も欧州各地から素晴らしいバンドが集い、王座をかけて熱い演奏が繰り広げられました。
欧州選手権についての詳しい情報は以下リンクよりご覧ください。
出場バンド紹介
2025年バンド・ラインナップ
ブラスバンド・オーバーエースタライヒ (Brass Band Oberösterreich) | Günther Reisegger | オーストリア 🇦🇹 | オーストリア全国大会王者 |
ブラスバンド・レーゲンスブルク (Brass Band Regensburg) | Thomas Freiss | ドイツ 🇩🇪 | ドイツ全国大会2位 |
ブラスバンド・トレーズ・エトワーズ (Brass Band Treize Etoiles) | Frédéric Théodoloz | スイス 🇨🇭 | 2024年欧州選手権ならびにブリティッシュ・オープン王者 |
ブラス・リトアニア (Brass LT) | Bjørn Breistein | リトアニア 🇱🇹 | リトアニア・チャンピオンシップス王者 |
ブラスバンド・ラインモント (Brassband Rijnmond) | Paul Holland | オランダ 🇳🇱 | オランダ全国大会2位 |
ブラスバンド・ウィレブローク (Brassband Willebroek) | Frans Violet | ベルギー 🇧🇪 | ベルギー全国大会王者 |
コーリーバンド (Cory Band) | Philip Harper | ウェールズ 🏴 | ブラス・イン・コンサート王者 |
アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグ (Eikanger-Bjørsvik Musikklag) | Florent Didier | ノルウェー 🇳🇴 | シディス・エンターテイメント・コンテスト王者 |
フォーデンス・バンド (Foden’s Band) | Russell Gray | イングランド 🏴 | 全英地区大会北西部王者、現世界ランキング1位(4barsrest調べ) |
ヤータ・ブラスバンド (Göta Brass Band) | Michael Thomsen | スウェーデン 🇸🇪 | スウェーデン全国大会王者 |
オー・ドゥ・フランス・ブラスバンド (Hauts-de-France Brass Band) | Luc Vertommen | フランス 🇫🇷 | 全仏大会王者 |
イタリアン・ブラスバンド (Italian Brass Band) | Giuseppe Saggio | イタリア 🇮🇹 | 2023年欧州選手権14位 |
リュンビ・ターベーク・ブラス・バンド (Lyngby-Taarbæk Brass Band) | Gert Skovlod Hattesen | デンマーク 🇩🇰 | デンマーク全国大会王者 |
ザ・クーオペレーション・バンド (The cooperation band) | Katrina Marzella-Wheeler | スコットランド 🏴 | フィフェ・ブラスバンド・フェスティバル王者(オープン・エンターテイメント部門) |
ヴァレイシア・ブラスバンド (Valaisia Brass Band) | Arsene Duc | スイス 🇨🇭 | スイス全国大会ならびにスイス・オープン両王者 |
今年は欧州各地より15バンドが集結しました。いくつか筆者の注目するバンドをご紹介します。
ブラスバンド・トレーズ・エトワーズ (Brass Band Treize Etoiles)

長年、スイスを代表する強豪バンドの一つであったエトワーズは、近年破竹の勢いで実力を伸ばしています。(バンド名の由来は、本拠地であるスイス・ヴァレー州の州旗に描かれた13の行政区を象徴する星から来ているそうです。)
近年の各種大会での優勝記録は、以下の通りです。
・2022年
スイス全国大会
・2023年
欧州選手権
スイスオープン
スイス全国大会
・2024年
欧州大会
ブリティッシュ・オープン
強豪がひしめく『スイス全国大会』での優勝はもちろん、欧州選手権での2連覇、さらに英国で最も優勝が難しいとされる『ブリティッシュ・オープン』での優勝と好成績を重ねたことで、4barsrestの世界ランキングを駆け上り、一時は世界ランキング1位にも輝いたバンドです。
ブラスバンド・ウィレブローク (Brassband Willebroek)

1993年の欧州選手権で初優勝を果たし、2006年と2007年に連覇も達成。その後は目立った活躍がなかったものの、2022年にはワールド・ミュージック・コンテストの金管バンド部門で優勝し、2023年にはオランダ・オープンとベルギー全国大会を連覇。昨年2024年の欧州選手権でも3位の好成績をおさめるなど、勢いに乗ってるバンドです。
バンド創設当初から40年以上指揮を務めるフランス・ヴァイオレットとのコンビネーションも見どころの一つです。
アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグ (Eikanger-Bjørsvik Musikklag)

英国を除くヨーロッパ各国の中でも、ベルギーやスイスと同様に金管バンドの歴史が長く、国際コンテストで上位に食い込むバンドが多いノルウェー。
その中でも3強の一角を占めるのが、アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグです。
(他の2バンドはマンガー(Manger Musikklag)とスタヴァンガー(Stavanger Brass Band)です。)
日本人にはあまり馴染みのないノルウェー語のバンド名ですが、これは1971年にノルウェーのアイカンガー村とビョールスヴィック村の有志によって設立されたバンドであることに由来しています。
近年ではノルウェー全国大会、ブラス・イン・コンサート、欧州選手権2024など主要コンテストでの準優勝が続いていますが、もともと実力のあるバンドなため今回の欧州選手権2025も楽しみです。
ヴァレイシア・ブラスバンド (Valaisia Brass Band)

先ほどご紹介したトレイズ・エトワーズと同じくスイスのバンドですが、世界ランキング1位で前年度の欧州選手権覇者であるエトワーズを破り、2024年度のスイス全国大会およびスイス・オープンで王者に輝き、今年、堂々と欧州選手権への切符を手にしました。
日本ではまだあまり知られていませんが、実力は非常に高く、2017年にはブリティッシュ・オープン、スイス全国大会、欧州選手権の三冠を達成。さらに2015年から2021年にかけてスイス全国大会を連覇するなど、輝かしい成績を誇るスイスの強豪バンドの一角です。
日本でも流行ったヴァレイシア・ヴァリアンツ / トム・ダヴォレン(Valaisia Variatns / Tom Davoren)の委嘱バンドでもあります。
英国勢
今年金管バンドの本場英国からは、3バンドが出場します。
フォーデンス・バンド (Foden’s Band)

イングランドからは、現世界ランキング1位(4barsrest調べ)で、昨年は韓国ツアーも行った『フォーデンス・バンド』が参戦します。
『ウィット・フライデー各種コンテスト』や『全英大会地区予選北西部』で優勝するなど、堅実に実績を重ねているイングランドの強豪の一つです。欧州選手権への参戦は、2022年以来3年ぶりとなります。
ザ・クーオペレーション・バンド (The cooperation band)

過去にはベルギー出身の国際的ユーフォニアム奏者グレン・ヴァン・ローイ(Glenn van Looy)とのタッグで好成績を収めていましたが、2024年からは元ダイクのバリトン・ホーン奏者カトリーナ・マルゼラ・ウィーラー(Katrina Marzella-Wheeler)と組み、順調に実力を伸ばしているスコットランドの3強の一角です。(他の2バンドはウィットバーン(Whitburn)とキングダム(Kingdom)です。)
欧州選手権へは2022年以来3年ぶりの参戦です。
コーリーバンド (Cory Band)

現世界ランキング3位、ブラス・イン・コンサート王者であるウェールズの強豪コーリーも参戦します。今年は全英大会地区予選ウェールズ地区にて3位まで後退し、25年ぶりに全英大会決勝への出場権を逃す結果となりましたし、さらにメンバーの大転換も起きている現状、今年の欧州選手権におけるコーリーの演奏はどうなるのか、必見です。
最後に

欧州選手権に今年も素晴らしいバンドたちが出揃いました。
次回は課題曲、そして各自由曲のご紹介と結果発表です。
欧州選手権王者のタイトルとヨーロッパ大陸をイメージしたあのトロフィーを持ち帰るのはどこのバンドなのか、お楽しみに。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。