皆さま、こんにちは。
前回の「ダフニスとクロエ」第2組曲の記事はお楽しみいただけましたでしょうか。
・名曲紹介 #11 バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲
今回も「ダフニスとクロエ」についてですが、前回の第2組曲に特化した内容からもう少し幅を広げた内容でご紹介します。
名曲紹介 #12 バレエ音楽「ダフニスとクロエ」
ラヴェルは1913年に第2組曲を出版しましたが、「ダフニスとクロエ」初演の前年の1911年に第1場の後半から第2場前半にかけての音楽から抜粋した、「夜想曲」「間奏曲」「戦いの踊り」の3曲からなる第1組曲を出版しています。オーケストラの重要なレパートリーとなっている第2組曲とは違って第1組曲が演奏される機会はほとんどなく、「ダフニスとクロエ」全曲が演奏される時に第1組曲に入っている3曲も聴くことができるのですが、特に「戦いの踊り」は「全員の踊り」を超えるほどの難曲だと思われるので、吹奏楽でも演奏されることは滅多にありません。
余談にはなりますが、「ダフニスとクロエ」の曲はオーケストラの入団試験で演奏されるオーケストラスタディに入っている曲がいくつかあります。一番有名な曲は「パントマイム」でのフルートの長いソロで、クラリネットだと「夜明け」冒頭の12連符やエスクラリネットのソロやバスクラリネットの12連符、「全員の踊り」でのエスクラリネットソロやバスクラリネットの難所になります。ラヴェルの曲はほとんど全ての管打楽器のオーケストラスタディに入っているので、ラヴェルの曲がどれだけ難所が多いか、それと同時に管打楽器にどれだけ魅力あるフレーズを与えてくれているかが分かります。
今回は、「ダフニスとクロエ」の中で最もよく演奏される第2組曲の「夜明け」「全員の踊り」以外の部分を選曲した団体の名演をいくつかご紹介します。
習志野市立習志野高等学校 (1987年)
1987年(第35回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:新妻 寛
編曲:R.ブートリー
吹奏楽コンクールでの「ダフニスとクロエ」の演奏ではほとんどの団体が「夜明け」から始まる中、この演奏はいきなり「パントマイム」から始まるというかなり異色なカットになっています。
「パントマイム」は特に木管楽器のソロやソリが大活躍する曲になっているのですが、長所として前面に押し出せるぐらいどの楽器のソロもかなり上手で聞き惚れてしまいます。有名なフルートソロは圧巻の吹きっぷりで、このソロをこれだけ高いレベルで吹けるメンバーがいたからこそ「パントマイム」を選曲したのでしょう。この曲に必要な繊細な表現やアゴーギグも備わっていて、「パントマイム」を演奏させたら習志野高校の右に出るものはいないと思います。「全員の踊り」でのソロ群はもちろん上手で終盤に向けての熱狂も素晴らしく、ラヴェルの音楽とバンドのサウンドが合っているのもこの演奏の特徴でしょう。
この年に習志野高校が選んだ課題曲B「渚スコープ」もバンドのサウンドにぴったりでかなりの名演になっていますので、是非一緒に聴いていただきたい演奏です。
三重大学 (1991年)
1991年(第39回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:三重大学吹奏楽部
指揮:沖 公智
編曲:R.ブートリー
三重大学は古くから2000年代前半ぐらいまで全国大会に出場していた全国大会常連校でした。フランスの作曲家の曲を自由曲に選ぶことが多かった印象で、私が生演奏を聴いた年もフランスの作曲家シャブリエの曲でした。
この演奏の最大の特徴として、演奏にフランスの香りがするということに尽きます。かなり抽象的な表現になってしまいますが、楽器の演奏技術がどうとかサウンドがどうかという次元を越えてフランス音楽を感じることができます。フレーズの処理の仕方、一つ一つの音の表現などがラヴェルの音楽に相応しいものとなっていて、ただただ音楽に浸ることができる数少ない演奏です。
「夜明け」はハープが美しく聴こえる音量バランスでありながら各楽器の音色がよく聴きとれて、この曲の頂点への持っていき方とフレーズ感がとても素晴らしいです。「パントマイム」ではフルートソロなどの目立つ部分でなく音楽的にかなり難しいところを演奏していることがあまりにも玄人なのですが、その部分があまりにも繊細で美しくて聴きいってしまいます。「全員の踊り」は無理のないテンポ設定でありながらスピード感溢れる演奏になっていて、一番最後の音の切り方が吹奏楽的で音の響きを残すものではなくオーケストラ的でスパッと音楽的に終わるのがとても好感がもてます。
埼玉県立伊奈学園総合高等学校 (2001年)
2001年(第7回) 西関東吹奏楽コンクール 金賞・代表
演奏:埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部
指揮:宇畑 知樹
編曲:森田 一浩
1995年に全国大会に初出場してからは三出での休みを除いて毎年全国大会に出場し続けている埼玉県の強豪校である伊奈学園総合高校ですが、2度目の三金がかかった2001年に「ダフニスとクロエ」第1組曲の曲を演奏するという衝撃的な選曲で驚かせてくれました。「間奏曲」は合唱も入れて幻想的な雰囲気を作ることに成功し、何よりも超難曲である「戦いの踊り」のクオリティが恐ろしく高くて驚愕させられます。私はこの演奏を聴いて「ダフニスとクロエ」の曲に「戦いの踊り」というかっこいい曲があることを知り、オーケストラの全曲盤を購入しました。もちろん「全員の踊り」の演奏もとても素晴らしい出来になっています。
この年は全国大会に出場するも銀賞受賞となり、三出は達成しながらも三金にはならずだったのですが、西関東大会の演奏がとても素晴らしいのでこの曲の魅力が伝わればと思いご紹介することにしました。この伊奈学園総合高校の演奏以降、「戦いの踊り」は全国大会で演奏されていないので、実力のあるバンドに選曲してほしいという願いがずっとあります。
あとがき
いかがでしたでしょう?「ダフニスとクロエ」のあまり知られていない曲の魅力が伝わればと思い、3つの演奏をご紹介しました。
次回は、全国大会での演奏回数が全部門の1位の曲、レスピーギ作曲の「ローマの祭り」をご紹介します。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。
塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。