【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#11

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皆さま、こんにちは。

いよいよ夏の吹奏楽コンクールの季節がやってきました。

今回から数回に渡りまして、コンクールでの演奏回数が多い“名曲”に注目して、その数多ある演奏のなかからいくつかの名演をピックアップしてご紹介しようと思います。今回取り上げる作品は、ラヴェル作曲のバレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲です。

名曲紹介 #11 バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

バレエ音楽「ダフニスとクロエ」は、ロシア・バレエ団のセルゲイ・ディアギレフの依頼を受けて、モーリス・ラヴェルによって作曲されました。ディアギレフは1910年にこのバレエを上演するつもりでラヴェルに作曲を依頼しますが、作曲が間に合わずに初演が延期されることになり、スコアが完成したのは1912年でした。特に「全員の踊り」の作曲と改訂に1年もの時間を費やしたとのことです。ラヴェルは初演の翌年の1913年に第3場の音楽から抜粋した、「夜明け」「パントマイム」「全員の踊り」の3曲からなる第2組曲を出版しました。この第2組曲は今日ではオーケストラの重要なレパートリーとなっています。

その「ダフニスとクロエ」が吹奏楽コンクール全国大会で演奏されたのは2023年の時点で113回となっており、演奏回数としては全部門の2位で中学と高校の部では1位となっています。

吹奏楽コンクールだけでなくプロオーケストラの演奏会プログラムにも入ることが多いので魅力的な良い曲なのはもちろんなのですが、プロが演奏するのも難曲と言われているので吹奏楽で弦楽器のパートも管楽器で演奏するのは超がたくさんつくほどの難曲になっています。迫力があって聴きばえがする曲調でありながらラヴェルの音楽的な魅力が詰まっている名曲なので吹奏楽コンクールの自由曲として取り上げる団体が多く、たくさんの名演が生まれました。

今回は、「ダフニスとクロエ」の中で最もよく演奏される第2組曲から、「夜明け」「全員の踊り」を選曲した団体の名演をいくつかご紹介します。

出雲市立第一中学校 (1976年)

1976年(第24回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:出雲市立第一中学校吹奏楽部
指揮:渡部 修明
編曲:渡部 修明、錦織 雄司

吹奏楽コンクールでの「ダフニスとクロエ」の名演を語る上で、この演奏を外すことはできないでしょう。「ダフニスとクロエ」の全国大会初演でありながら、今でも語り継がれている名演です。

出雲市立第一中学校は順位制の時代に1位を受賞している古豪でありながら、現在も全国大会に出場し続けている名門校でもあり、日本の吹奏楽界に多大な影響を与えました。

この演奏を聴くととても中学生とは思えない音楽性とサウンドに驚愕させられるのですが、更にこの時代は中学の部の人数が45名以内となっていて45名の演奏とはとても信じられません。現在よりも人数が少ないことでスコアで演奏されてない音があるのですが、そのことを差し引いても余りある魅力に溢れた演奏だと思います。

「夜明け」での繊細なサウンドの中でクラリネットの低音域の芯のある音でのメロディの表現に心を奪われます。木管楽器を最大限に生かしている金管楽器のよくブレンドされたサウンドも特徴的で、それでいて盛り上がったところのパワーは充分すぎるほどです。「全員の踊り」は、今まで吹奏楽コンクールで演奏されたことがない曲で8分の5拍子という複雑なリズムをここまで演奏するのにどれだけ練習したのだろうと驚愕してしまいます。

この演奏があったことで、その後「ダフニスとクロエ」をたくさんの団体が演奏したことを考えると、とてつもない功績を残した名演であることは間違いないでしょう。

宝塚市立宝梅中学校 (1988年)

1988年(第36回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:宝塚市立宝梅中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之
編曲:R.ブートリー

関西支部の兵庫県にある宝塚市立宝梅中学校には1990年に全国大会5金を達成した黄金時代があり、その演奏は今でも語り継がれています。指揮者の渡辺秀之先生は現在は宝塚市立中山五月台中学校で指揮をされていて、当時の宝梅中学校のサウンドが時代が変わっても引き継がれているのですが、やはり黄金時代の宝梅中学校の演奏は技術力の高さも相まって唯一無二の存在となっています。

この超難曲を中学生とは思えないぐらいに見事に演奏できる技術力の高さはもちろんなのですが、特筆すべきは各楽器が混ざり合った美しいサウンドでラヴェルの繊細な音楽を表現するのに相応しく、特に「夜明け」の美しさは格別です。「全員の踊り」での各楽器のソロや難所のアンサンブルもバッチリ決まっていて、一切の隙がなく磨き上げられた演奏になっています。

1988年の全国大会中学の部では「ダフニスとクロエ」第2組曲を演奏して金賞を受賞した学校が宝梅中学校の他に3校もあるのですが、この3校もそれぞれに個性があって素晴らしい演奏です。足立区立第十四中学校、川越市立野田中学校、春日井市立柏原中学校の演奏も是非聴いてもらいたい演奏で、中学の部における「ダフニスとクロエ」の大当たりの年だと言えるでしょう。

埼玉栄高等学校 (1995年)

1995年(第43回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実
編曲:R.ブートリー

西関東支部の強豪校である埼玉栄高校の「ダフニスとクロエ」といえば1986年の伝説的な演奏が圧倒的に有名で、1999年の演奏もとても上手なのですが、私が一番に推すのはこの1995年の全国大会での演奏です。

この演奏の特徴として、木管楽器の技術力が相当に高く、それでいて音楽的で全体のサウンドも素晴らしくて非の打ち所がないところがあげられます。

冒頭の12連符の音がフルートだけでなくクラリネットも聴きとれて、しかもクラリネットのスラーがしっかりレガートになっている演奏は今の時代でもなかなか聴くことはできません。1:44の「夜明け」のエスクラソロは相当上手なのですが、特に驚くべきは5:11の「全員の踊り」でのエスクラソロで、原曲のスコア通りにデクレシェンドができているのは吹奏楽コンクールの録音を含めても滅多に聴いたことがなく、5:28でソロが最高音域になっても全て明瞭に聴きとれるのもかなり凄いことで、正にプロのレベルです。

「夜明け」のメロディを演奏する木管楽器群がヴィブラートをかけながらも美しくブレンドされていて音楽的に攻めの表現がよく見えるのは埼玉栄高校ならではだと思いますし、特にサクソフォーンがとても良い仕事をしていると思います。「全員の踊り」での木管楽器はもちろん金管楽器と打楽器の技術力ももの凄いレベルの高さで、曲の終盤の熱狂的な表現にも圧倒されます。

この年に埼玉栄高校が選んだ課題曲Ⅰ、行進曲「ラメセスⅡ世」は曲の最初から最後まで金管楽器が大活躍するとてもハードな難曲なのですが、埼玉栄高校の演奏はとても素晴らしいので、課題曲も含めて是非聴いてもらいたい演奏です。

あとがき

いかがでしたでしょう?「ダフニスとクロエ」第2組曲より「夜明け」「全員の踊り」の名演をご紹介しました。他にもご紹介したい演奏がたくさんありますが、今回は3つに厳選させていただきました。

次回は、同じく「ダフニスとクロエ」から、「夜明け」と「全員の踊り」以外の部分も演奏しているなかなか珍しい名演をいくつかご紹介しようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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