【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#3

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皆さま、こんにちは。

前回の 名演紹介 #2 華麗なる舞曲/洛南高(92年) はお楽しみいただけたでしょうか?

今回はリヒャルト・シュトラウス作曲の「アルプス交響曲」の名演をご紹介します。

リヒャルト・シュトラウスが作曲した「アルプス交響曲」は、演奏時間が約50分という長大な曲ですが、演奏するためにはとてもたくさんの奏者が必要な超特大編成の曲として知られており、オーケストラの規模としては木管楽器の人数が各楽器4人ずつの4管編成と呼ばれている曲です。

例えば、クラリネットパートでは特殊管と呼ばれるバスクラリネットとEsクラリネット、オーボエパートではヘッケルフォーンという珍しい楽器が編成に入っており、それに加えて金管楽器のバンダ(ステージ上のオーケストラとは別の場所で演奏する部隊)として最低でも10名が必要で、更には打楽器にウインドマシーンやサンダーシートという大変珍しい楽器が編成に入っていることもあって、演奏するのに少なくても100名は必要な曲なのです。

そのようなオーケストラの曲なので、まずは吹奏楽に編曲する編曲者の手腕が演奏の出来に大きな影響を与えると思います。また、全曲の演奏時間が長大なのでコンクール自由曲として演奏するためのカットを考えることも大事になり、演奏するための技術はもちろんですが様々なことをクリアしていかないといけないので、そういう意味での超難曲と言えると思います。

名演紹介 #3 アルプス交響曲/常総学院高(92年)

「アルプス交響曲」より 日の出、悲歌、嵐の前の静寂、雷雨と嵐、下山、夜
作曲:R.シュトラウス 編曲:八田 泰一


全日本吹奏楽コンクール
1992年(第40回大会) 金賞
演奏:常総学院高等学校吹奏楽部
指揮:本図 智夫

私が初めてアルプス交響曲を知ったのは中学3年生の時でした。後に母校となる兵庫県立明石北高校の定期演奏会で、1部のメインプログラムとして演奏されているのを聴き、なんて雄大でかっこいい曲なのだろうと感動したことを覚えています。

高校生になり、母校が過去にアルプス交響曲を自由曲に選び全国大会に出場していたことや、初めて聴いた年が自由曲として3回目の選曲だったことを知るのですが、元がオーケストラの曲であることやコンクールのためのカットが演奏団体によっていろいろと違うことを知り、過去の演奏を探していく中で常総学院高校の1992年の演奏に出会うことになります。

常総学院高校は吹奏楽コンクールの自由曲としてオーケストラ曲の編曲ものを多く演奏しているのですが、その演奏の特徴は何といってもオーケストラのサウンドの追求(特に弦楽器)だと思います。1992年の全国大会の演奏の動画を見ると、木管楽器でいえばAsクラリネットというEsクラリネットよりも小さな楽器やソプラニーノサクソフォーンを使用していたり、金管楽器ではトランペットがロータリー式の楽器を使用しているのが確認できます。

演奏について

曲は日の出から始まりますが、朝日を思わせるトランペットの鮮烈なAの音がとても印象的です。ホルンセクションの雄大なフレーズに木管楽器群の弦楽器を思わせるヴィヴラートを伴ったフレーズが合わさって、オーケストラ曲の素晴らしさが存分に味わえます。

オーボエから始まる悲歌(エレジー)で一気に雰囲気が変わりますが、中低音群の豊かな響きを経て、嵐の前の静寂でのクラリネットソロはまさにオーケストラのクラリネットの音色で素晴らしいの一言です。その後イングリッシュホルン→フルート→イングリッシュホルンとソロが表情豊かに受け継がれていきます。

ピッコロとホルンが空気を切り裂いて木管群の音域がだんだん下がっていき、風が吹き出して雨がどんどん強くなっていきます。雷雨と嵐では特にこの曲で有名なウインドマシーンという楽器が大活躍し、木管楽器の暴れ回る連符に負けない金管の咆哮がまさに山の嵐を想像させてくれます。最後にはサンダーシートによる雷が落ちて、嵐の激しさが頂点に達します。

嵐が過ぎ去って雷雨が止み、金管楽器の美しいコラールが聴こえてきます。夜になって音域がだんだん下がっていき、静寂で終わってからの物凄い拍手がこの演奏の素晴らしさを感じさせてくれます。とにかく一体感が素晴らしく、この大曲を演奏するにふさわしい実力のバンドだと思いました。

再演

少し余談になりますが、2017年に常総学院高校が吹奏楽コンクールの自由曲として25年ぶりにアルプス交響曲を選曲し、私はこの年の東関東支部大会の演奏を会場で聴くことができました。

サウンドの傾向が時代の経過によって変化してはいましたが、アルプス交響曲の演奏表現は昔と変わることがなくとても上手で感動し、やっぱり常総学院高校のアルプス交響曲は特別だなと納得したものです。

こちらは全国大会の演奏ではありますが、課題曲Ⅲの保科洋さんのインテルメッツォもとても素晴らしい演奏ですので、一度聴いてみてもらえたらと思います。

あとがき

いかがでしたでしょう?オーケストラ曲の素晴らしさを存分に味わえる演奏をご紹介しました。

ここまで1992年の全国大会の演奏を続けて紹介してきました。この年は金賞はもちろん金賞以外にも名演が多く、他にも紹介したい演奏がまだまだありますが、ひとまず今回で一区切りとさせていただきます。

次回は、関西支部代表といえばこの高校、この高校といえばあの自由曲!というぐらい有名な邦人作品の名演をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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