【金管バンドナビ】#62 Brass in Concert 2025②

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

あっという間に秋が過ぎ去り、季節はいよいよ冬へ。日本各地では素晴らしいコンサートが数多く開かれています。一方で、欧州のコンテストシーズンもようやくひと段落し、金管バンド業界はクリスマスシーズンの真っ只中です。英国では、商業施設をはじめとするさまざまな場所で、小編成アンサンブルから金管バンド編成まで、多様なスタイルでクリスマス・キャロルが奏でられています。

さて今回は、前回ご紹介した “英国一のエンターテインメント・バンド” を決めるコンテスト『Brass in Concert 2025』の結果をお届けします。英国、そして欧州の強豪バンドたちが織りなす珠玉のステージ。今年、その栄冠を手にしたのはどのバンドだったのでしょうか。

Brass in Concert 2025 結果発表

2025年のコンテストシーズンを締めくくり、最後の栄冠を手にしたのは、一体どのバンドだったのでしょうか。

順位バンド/指揮者演奏順プログラム表題
🏆The Cooperation / Katrina Marzella-Wheeler🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿3La Première
🥈Brighouse & Rastrick / David Thornton🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿11Dracula: A Shadow Through Time
🥉Cory / Philip Harper🏴󠁧󠁢󠁷󠁬󠁳󠁿1Back to the Future
4GUS / Christopher Bond🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿4Love Beyond The Rose
5Schoonhoven / Eric Janssen🇳🇱8The Red Bike
6Flowers / Paul Holland🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿9The Heist
7Foden’s / Michael Fowles🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿7EXODUS | MOSES IN EGYPT
8Aldbourne / Glyn Williams 🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿10Through the Wardrobe
9Carlton Main Frickley Colliery / Allan Withington🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿6Eurovision 2025
10Kleppe Musikklag / Tormod Flaten🇳🇴5Wall Street – For The Love Of Money
11KNDS Fairey / Mark Heron🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿2Pictures at an Exhibition

スコットランドへの凱旋

なんと、1977年に始まったBrass in Concertで、48年の歴史上初めてスコットランドにトロフィーが渡ることとなりました。さらに、カトリーナ・M・ウィーラーが指揮しての優勝により、Brass in Concert史上初めて“女性指揮者による優勝”という快挙も達成されました。

今年、ウィーラーはスコットランドのエンターテインメント系コンテスト『Fife Brass Band Festival』で優勝を飾り、さらに全英選手権スコットランド地区予選では Kingdom Brass を指揮して 3 位に入賞しました。加えて、クーオペレーションと共に欧州選手権、ブリティッシュ・オープン、全英選手権決勝と、主要コンテストを次々に経験。しかし上位に食い込むにはあと一歩届かない状況が続いていました。

それだけに、シーズン最後の舞台でついに掴んだ優勝は、金管バンドファンにとっても、そして筆者自身にとっても、まさかの展開であり、思わず息をのむような衝撃の結果でした。

しかし、WoB Play(欧州金管バンド業界最大手の有料英語ライヴ配信サイト)で他のバンドと聴き比べてみると、決して “女性指揮者” という話題性だけで評価されたわけではないことがよく分かります。音楽性、エンターテインメント性、そしてバンドを統率する力――奏者とのコミュニケーションを含め、そのすべてが極めて高いレベルにありました。

まさに “勝つべくして勝ったバンド・指揮者” と言える内容で、2025年のBrass in Concert王者に相応しい、圧巻のステージだったと感じます。

https://4barsrest.com/news/62974/report-result-2025-brass-in-concert-championship

写真中央に写っているのは、女優の Elizabeth McNally(エリザベス・マクナリー)。彼女はシャネル創業者“ココ・シャネル”を見事に演じ切り、バンドの優勝に大きく貢献しました。

得点と賞

演奏点①(審査員 : Florent Didier)演奏点②(Benjamin Haemhouts)エンターテインメント&プレゼンテーション①(Sue Collier)エンターテインメント&プレゼンテーション②(Al Booth)プログラム内容(Anne Crookston) 合計
60/6054/6036/4016/2019/20185/200

優勝したバンドには、賞金 £4,000 に加え、ヤマハよりニューサム・ブラス・イン・コンサート・チャンピオンシップ・トロフィーが授与されました。(金管バンド界では、偉人の名が冠された賞が多いのも特徴です。)

ソリスト賞ならびにセクション賞(審査員 : Jocelyne Moren)

  • 最優秀パフォーマンス賞(£250)
  • 最優秀首席コルネット賞 : Alex Ramsay
  • 最優秀フリューゲルホーン賞 : Stephanie Kennedy

上位3バンドは接戦

クーオペレーションの優勝得点は185点、2位のB&Rが179点3位のCoryが175点と、上位3バンドの得点差は本当に僅差でした。しかしその中でも、優勝したクーオペレーションのステージは一段と抜きん出ており、まさに納得の結果と言えます。

筆者の個人的な見解としては、2位と3位については、審査員の好みや評価軸の違いが結果に表れたのではないか、と感じています。

2つの注目バンド

まず一つ目は、今回4位に入った GUS Band と Chris Bond のタッグです。昨年は9位だった GUS ですが、今年は全英選手権中部地区予選で優勝。しかしその後は、ブリティッシュ・オープンの下位大会であるグランド・シールドでは10位、全英選手権決勝でも9位と、やや伸び悩む結果が続きました。

それでも本大会では大きく順位を上げ、惜しくも入賞には届かないものの4位(賞金 £1,000)にランクイン。指揮者であり作曲者でもあるボンド氏との相性はとても良いようで、すでに来年前半戦の指揮依頼も決まっているとのこと。来季の活躍が今から楽しみです。

二つ目は Foden’s Band です。2021年から2023年の Brass in Concert 優勝まで、まさしく “Foden’s Year” と言える勢いで主要コンテストの優勝・上位入賞を重ね、その流れのまま 4barsrest の世界ランキングでも1位に上り詰めた実力派バンドです。

しかし 2025 年は、全英選手権北西部地区予選こそ優勝したものの、欧州選手権ではまさかの12位、ブリティッシュ・オープンでは4位、全英選手権決勝でも11位、そして本大会では7位と、近年しばしば眼にする “世界ランキング1位のバンドに立ちはだかる呪い” を思わせる結果となりました。

それでも、観客が選ぶ最優秀エンターテインメント賞(£1,000)を受賞し、首席ユーフォニアム奏者 Gary Curtin(ガリー・カーティン)が最優秀ソリスト賞(£200)、さらに Jonathan Bates(ジョナサン・ベイツ)が最優秀テナーホーン賞に選ばれるなど、その人気と実力は健在です。

2026年の新シーズンでの巻き返しに、大いに期待が高まります。

さいごに

というわけで、Brass in Concert 2025はいかがだったでしょうか。
普段のコンテストとは異なり、エンターテインメント性を競う大会ということもあって、観ていてとても楽しい内容になっています。もしみなさんが金管バンドの演奏を楽しんでいるのであれば、コンサートのプログラム構成などにも大いに参考になるはずです。ぜひ一度ご覧になってみてください。

WoB Play(英語、有料)

さて、2025年も誠にありがとうございました。

来年からは、これまでのコンテスト紹介に加えて、人気の金管バンド作品のご紹介など、新しい取り組みにもチャレンジしていこうと考えています。みなさまには、引き続きご愛顧いただけましたら幸いです。

来年2026年は1/16(金)12:00の配信となります。

それではまた次回お会いしましょう。今回も誠にありがとうございました。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。