みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
金木犀の香りもすっかり落ち着き、少しずつ冬の気配を感じる季節となりました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
芸術の秋ということで、日本各地でも多くの演奏会が開催されています。一方、英国をはじめとするヨーロッパでは、各地でコンテストシーズンを迎え、ランキングの変動にファンたちは一喜一憂しています。
ということで、今回の金管バンドナビでは、10月11日に開催された全英選手権チャンピオンシップ・セクション決勝と、その結果についてお伝えします。ぜひお楽しみください。
全英大会決勝2025

全英大会決勝(National Brass Band Championships of Great Britain)は、毎年春先に開催される全8地域の地区大会を勝ち抜いたチャンピオンシップ・セクションの各代表バンドと、前年の優勝バンドが英国一の座を競う大会です。詳しくは、以下のリンクからご覧ください。
地区予選
決勝戦
課題曲2025
作品名:二つの楽章からなる交響曲(Symphony in Two Movements)
作曲者:エドワード・グレグソン(Edward Gregson)
作曲年:2012年
動機:全英ユース・バンドならびにウェールズ・ユース・バンドによる委嘱
形式:継続的な2楽章形式(第一楽章:トッカータ、第二楽章:変奏曲)
所見:
本作は2012年に作曲され、翌2013年の欧州選手権ではブラック・ダイク・バンドが自由曲として取り上げたことでも知られています。その魅力に惹かれ、以降も多くのバンドが課題曲や自由曲として選曲しており、現在では世界各地のコンテストで広く演奏される人気作品となっています。
こちらのリンクより当該作品について作曲者のウェブサイトに飛べます。(外部リンク、英語)
結果発表

英国の8つの地域から選ばれた強豪バンドたちが、誇りと栄誉を懸けて優勝を目指す全英大会決勝。
2025年、あの優勝カップを手にしたのは果たしてどのバンドだったのでしょうか。
| 順位 | バンド名 / 地域 | 指揮者 | 演奏順 | 備考 |
| 1 | Desford Colliery 🏴 | David Morton | 15 | |
| 2 | Black Dyke 🏴 | Nicholas Childs | 7 | 2024年大会より出場権獲得 |
| 3 | Flowers 🏴 | Paul Holland | 18 | 前年王者 |
| 4 | Whitburn 🏴 | Chris Shanks | 3 | |
| 5 | Brighouse & Rastrick 🏴 | David King | 14 | ブリティッシュ・オープン2025王者 |
| 6 | Hepworth 🏴 | Ryan Watkins | 10 | |
| 7 | Tredegar 🏴 | Ian Porthouse | 13 | |
| 8 | Ebbw Valley 🏴 | Matthew Rowe | 17 | |
| 9 | The Cooperation Band 🏴 | Katrina Marzella-Wheeler | 16 | |
| 10 | Oldham (Lees) 🏴 | John Collins | 11 | |
| 11 | Fodens 🏴 | Russell Gray | 4 | 2024年大会より出場権獲得 |
| 12 | GUS 🏴 | David Thornton | 12 | |
| 13 | Layland 🏴 | Daniel Brooks | 5 | |
| 14 | Aldbourne 🏴 | Glyn Williams | 2 | |
| 15 | NASUWT Riverside 🏴 | Stephen Malcom | 8 | |
| 16 | East London Brass 🏴 | Jayne Murrill | 1 | |
| 17 | Zone One Brass 🏴 | Richard Ward | 6 | |
| 18 | City of Hull 🏴 | Jonathan Beatty | 9 | |
| 19 | St. Dennis 🏴 | Darren R. Hawken | 19 |
優勝バンドはデスフォード・コリアリー・バンド

2025年全英選手権チャンピオンシップ・セクション決勝。今年の優勝バンドは、イングランド中部地区(Midlands)代表のデスフォード・コリアリー・バンド(Desford Colliery Band)でした。
なんと今年の中部地区予選では、GUSに敗れて2位だったデスフォード。
そのデスフォードが、決勝大会である全英選手権で見事バンドとして5度目、1991年以来34年ぶりの優勝を果たしました。
全英選手権中部地区予選では好成績を収めていたデスフォードですが、ブリティッシュ・オープン系コンテストでは2023年、最上級であるオープン部門で13位という結果を受け、近年は序列2番目のグランド・シールドに転落。ここ最近は、あまり好調とは言えない結果が続いていました。
そのため、今回の優勝は完全な大穴。多くのブラスバンドファンも驚きとともに祝福しました。
(英国金管バンド最大手ウェブサイト4barsrestによると、半数以上のデスフォードメンバーでさえ、自分たちの優勝を想定しておらず、結果発表時には帰りの列車に乗っていたと報じられています。)
しかし、過去の成績を振り返ってみると、決して弱いバンドとは言えません。
下の表からも分かるように、全英選手権決勝では1987年から1989年まで前人未到の3連覇を達成。また、欧州選手権や世界音楽コンテストの金管バンド部門でも優勝経験があります。
このデスフォードは、そもそも全英大会決勝に出場できる時点で非常に強力なバンドであることは間違いありません。
2013年には日本ツアーも行うなど、海外遠征にも積極的で、年々その知名度を高めています。
筆者自身も2013年のツアーにエキストラEb Bass奏者として参加しましたが、当時からとても素晴らしいバンドだったことを今も覚えています。
過去の成績 (デスフォード公式サイトより、外部サイト、英語)
Midlands Regional Champions – 1976, 1977, 1982, 1984, 1985, 1986, 1987, 1995, 1998,
2000, 2002, 2003, 2008, 2009, 2012, 2019, 2022, 2024
National Champions – 1987, 1988, 1989, 1991, 2025
European Champions – 1986
World Music Contest Champions – 1997
International Masters Champions – 2008
Granada Band of the Year Champions – 1982, 1983, 1984, 1986
Brass in Concert Champions – 1982, 1984, 1985
Butlins Mineworkers Champions – 2003, 2007, 2008, 2010, 2019
ベストソリスト賞
全英選手権にも、他のコンテスト同様さまざまな副賞が用意されており、今年の受賞者は以下の2名です。
最優秀奏者賞:Kevin Crockford (Soprano Cornet, Desford Colliery)
最優秀指揮者賞:David Morton (Desford Colliery)
全英選手権決勝2026
来年の選手権には、今年優勝したDesford Collieryに加え、2位のBlack Dyke、3位のFlowers、そして4位のWhitburnが出場資格を得ました。
全英選手権2025視聴方法
クレジットカード1枚とYouTubeが視聴できる環境があれば、以下の『WoB Play』から視聴可能です。
今回のチャンピオンシップ・セクションに出場した全団体の演奏のほか、9月に開催された下位セクションの決勝大会の演奏もお楽しみいただけます。
最後に
近年の英国金管バンド業界のコンテストでは、大穴予想のバンドが勝利したり、過去のレジェンドが再び息を吹き返したりと、混沌とした時代が続いており、観る者を熱狂させています。
日本の金管バンド業界も、この秋から冬にかけて素晴らしいコンサートが目白押しです。
ぜひ皆さま、お近くのコンサートに足を運んでみてください。
以下のリンクから、日本各地のバンドイベント情報をご覧いただけます。
次回は英国一のエンターテインメントバンドを決める『Brass in Concert』特集!
本日もありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。

