皆さま、こんにちは。
全日本吹奏楽コンクール課題曲における「マーチ」作品は、一般的な行進曲とは違いコンサートマーチとしてステージ上で演奏されることに比重をおいていたり、審査が行われる課題曲として技術的な要素や各楽器への負担などが考慮されて作曲されることから、楽曲の構成などがどうしても近くなる傾向があります。2025年度の課題曲Ⅲ: マーチ「メモリーズ・リフレイン」は、そういった課題曲マーチとしての特徴を持ちながらも作曲者の個性が色濃く加わった作品だと思いました。以前の記事で、「マーチ」の分類になる課題曲をいくつかご紹介したのですが、まだまだご紹介したい作品がありますので、今回は過去の課題曲の中から課題曲らしいマーチと、その名演をご紹介しようと思います。

1982年 サンライズ・マーチ
課題曲D:サンライズ・マーチ
作曲:岩河 三郎
全日本吹奏楽コンクール
1982年(第30回大会) 金賞
演奏:亜細亜大学吹奏楽団
指揮:小長谷 宗一
目が覚めるような明るく輝かしいファンファーレ、第1マーチも第2マーチもトリオも歌いやすくて分かりやすいメロディで、作品としては親しみやすい曲調でありながら付点のリズムなどのマーチとして押さえないといけないポイントがちゃんとあり課題曲としても最適な、課題曲らしいマーチの初代と言える作品だと思います。1982年度の課題曲で、私が初めて聴いたのは中学生だったと思いますが今聴いても課題曲らしいマーチの良作として色あせることのない魅力に溢れています。
亜細亜大学の演奏は、パワフルで明るさに満ちていながらもマーチのツボをしっかりと押さえていて、この曲の良さがよく分かる名演だと思います。
2003年 マーチ「ベスト・フレンド」
課題曲Ⅳ:マーチ「ベスト・フレンド」
作曲:松浦 伸吾
全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:生駒市立生駒中学校吹奏楽部
指揮:牧野 耕也
私が高校生最後の年に演奏した2003年度の課題曲で、冒頭から始まる特徴的な付点リズムのファンファーレと横の流れのメロディとの対比が美しく、実際に演奏した身としては課題曲としてかなり手強い作品でしたが温かみが感じられる作品でたくさんの団体に演奏され、この年の全国大会高校の部では半数以上の55%の学校がこの曲を演奏するという人気の曲となりました。
生駒市立生駒中学校の演奏は、冒頭の難所である金管楽器のファンファーレがリズム・発音・音圧全てが理想的なバランスでとても素晴らしく、素直に歌われるメロディの温かさと爽やかに進んでいくマーチの安定感が特に印象的な名演だと思います。
2007年 マーチ「ブルースカイ」
課題曲Ⅳ:マーチ「ブルースカイ」
作曲:高木 登古
全日本吹奏楽コンクール
2007年(第55回大会) 金賞
演奏:大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部
指揮:丸谷 明夫
「ブルースカイ」の曲名の通り爽やかなファンファーレと、晴れわたる青空が広がるような雄大なレガートのメロディが特徴的で、終盤にトゥッティで奏でるメロディが吹奏楽の良さを存分に伝えてくれる作品になっており、今でもアマチュアの演奏会のプログラムで見ることができる大人気の作品だと思います。
淀川工科高校の演奏は、冒頭のファンファーレがパワフルでありながらも勢いが止まることなく進んでいく理想的なもので、レガートのメロディの自然な歌い方の美しさにマーチらしい音の処理による爽やかなスピード感がマッチしており、この曲の魅力を最大限伝えてくれる名演だと思います。
2009年 マーチ「青空と太陽」
課題曲Ⅳ:マーチ「青空と太陽」
作曲:藤代 敏裕
全日本吹奏楽コンクール
2009年(第57回大会) 金賞
演奏:東海大学付属第四高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳
2009年度の課題曲で、一見すると明るく親しみやすい曲調のマーチという印象ですが、冒頭のファンファーレの音の処理がなかなかに難しかったり、第1マーチの最初のメロディがクラリネットだけでスタッカート・レガート・跳躍というクラリネットでの難所が全て含まれていたりと課題曲としては難しい作品だったと思います。それにも関わらず、この年の全国大会の全部門で半数以上の50%の学校がこの曲を演奏するという大人気の曲となりました。
東海大学付属第四高校の演奏は、パワー全開のファンファーレ、美しい音色のクラリネットパートの歯切れの良いスタッカート奏法など、課題曲としての難所を感じさせない見事な演奏だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか。課題曲らしいマーチの中から印象に残っている作品と演奏を4つご紹介しました。
次回は、課題曲における「委嘱作品」についてご紹介する予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。