皆さま、こんにちは。
9月とは思えない日中の暑さが続く毎日ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
前回に引き続き今回も、バレエ音楽「ガイーヌ」を取り上げます。
INDEX
吹奏楽コンクール自由曲としての「ガイーヌ」と、剣の舞
「剣の舞」という曲は、日本では小学校の教科書にも載っているぐらいの有名な曲ですが、この曲がバレエ音楽「ガイーヌ」の中の1曲だということは意外に知られていないのかもしれないと思いました。吹奏楽コンクール全国大会で「剣の舞」が初めて演奏されたのは1990年ですが、この時の演奏が「剣の舞」の後に「収穫祭」という曲を演奏して終わるカットだったため、「収穫祭」もコンクールでよく演奏されるようになり、吹奏楽コンクールでの「ガイーヌ」といえば「レスギンカ」を入れたカットか、「剣の舞」を入れたカットのどちらかになるぐらいに有名なカットとなりました。今回は「剣の舞」を演奏したカットの団体をいくつかご紹介します。
中央大学 (1990年)
バレエ音楽「ガイーヌ」より
序奏、友情の踊り、アイシャの孤独、剣の舞、収穫祭
作曲:A.ハチャトゥリアン 編曲:林 紀人
全日本吹奏楽コンクール
1990年(第38回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人
1987年にレスギンカを入れたカットでの「ガイーヌ」を演奏した中央大学が、3年後に林紀人さんの新しい編曲で前回とは違う新たな曲を組み合わせたヴァージョンでの演奏です。中央大学と林紀人さんのコンビが生み出した名編曲です。
金管楽器の華やかなファンファーレの序奏《0:00~》で幕が開き、0:36からの序奏の後半部分も演奏した後に友情の踊り《0:57~》に繋がっていきます。踏みしめるようなリズムが特徴的な力強い踊りが繰り広げられていきます。哀愁漂うメロディを奏でる表情豊かな木管楽器が美しいアイシャの孤独《2:35~》から、突然リズミカルな 剣の舞《3:23~》に突入します。みんながよく知っている曲にも関わらず、今聴いても相当に完成度が高いのはとてもすごいことだと思います。剣の舞がディミヌエンドで終わり、収穫祭《5:38~》に綺麗に繋がります。この曲の原調はE-durなのですが半音下げたEs-durでもほとんど違和感がなく、吹奏楽らしい豊かな響きのする調で圧倒的なサウンドを聴かせてくれて見事に曲が終わります。
北海道札幌白石高等学校 (1992年)
バレエ音楽「ガイーヌ」より
序奏、友情の踊り、アイシャの孤独、剣の舞、収穫祭
作曲:A.ハチャトゥリアン 編曲:林 紀人
全日本吹奏楽コンクール
1992年(第40回大会) 金賞
演奏:北海道札幌白石高等学校吹奏楽部
指揮:米谷 久男
名演が多い1992年高校の部の全国大会から、北海道札幌白石高校の「ガイーヌ」の演奏です。
金管楽器の力強いファンファーレで始まる序奏《0:00~》から、荒々しい音楽を表現しながらも技術的な完成度が高い友情の踊り《0:56~》が繰り広げられていきます。一転してピアノで密やかに始まるアイシャの孤独《2:34~》では木管楽器の歌いこみが素晴らしいです。剣の舞《3:22~》では激しさがありながらも技術的な安定感がずば抜けていて特に印象的で、終盤の追い込みも圧巻です。収穫祭《5:36~》ではホルンの凄まじい音圧に圧倒され、スケールの大きな音楽を堪能することができます。
全体的に打楽器の存在感が素晴らしく、どの曲も技術的な完成度が高い上に音楽的な主張もしっかりと感じられる演奏で、名門校らしい自信に溢れた名演になっています。
柏市立柏高等学校 (1997年)
バレエ音楽「ガイーヌ」より
第4幕への序奏、友情の踊り、アイシャの目覚めと踊り、剣の舞、収穫祭
作曲:A.ハチャトゥリアン 編曲:林 紀人、石田 修一
全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 銀賞
演奏:柏市立柏高等学校吹奏楽部
指揮:石田 修一
柏市立柏高校は1991年の全国大会で「ガイーヌ」を演奏して金賞を受賞していますが、この年のカットは1990年の中央大学とほとんど同じカットでした。1997年に再び「ガイーヌ」を選曲しますが、おそらく全国大会では初めて演奏されたと思われる「第4幕への序奏」を入れたりいくつかの曲のカットを長めにとったりと、音楽表現の面も加えて市立柏高校の個性が光る演奏となっています。
ホルンのd-mollの和音からクラリネットのトリルとハープで幻想的な雰囲気をもった第4幕への序奏《0:00~》が始まり、クラリネットのソリやフルートのソリなど木管楽器の表情豊かな歌を聴かせてくれます。友情の踊り《1:01~》は少し早めのテンポながら金管楽器の音圧よりも木管楽器のメロディに焦点を合わせたキレのある演奏になっています。アイシャの目覚めと踊り《2:35~》はサクソフォーン属の独特なヴィブラートによって民族色を際立たせる手法で好みが分かれると思いますが、原曲のオーケストラ版ではサクソフォーンがかなり目立っているので解釈としてはありだと思います。この曲の終わりまで演奏した後、剣の舞《4:04~》がテンポ的には冷静さを保ちながらも金管楽器の音圧が良いアクセントになって繰り広げられていきます。収穫祭《6:20~》冒頭のホルンはレガートを重視した特徴的な演奏で、その後も木管楽器のメロディがよく聴こえるバランスで曲が進んでいきますが、7:27からのバストロンボーンの音圧が良いアクセントになっていたりと(少しテンポに遅れているのが惜しい!)金管楽器の存在感もしっかりとあり、ラストのトランペットセクションがぴったり揃っていて見事な演奏です。
少しのアンサンブルのズレや好みが分かれる音楽表現が影響してしまったのか、惜しくも銀賞という結果でしたが、個性豊かな演奏は私が中学生で聴いた時から強く印象に残っています。
東海大学付属第四高等学校 (2005年)
バレエ音楽「ガイーヌ」より
序奏、友情の踊り、アイシャの孤独、剣の舞、収穫祭
作曲:A.ハチャトゥリアン 編曲:中原 達彦
全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:東海大学付属第四高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳
「ガイーヌ」で「剣の舞」を入れたカットの楽譜としては林紀人さんの吹奏楽編曲版がほとんどでしたが、2003年に横浜ブラスオルケスターが中村睦郎さんの編曲版で全国大会に出場し、2005年には東海大学付属第四高等学校が中原達彦さんの編曲版で全国大会に出場しました。カットとしては林紀人さんの編曲版とほとんど同じなのですが、バンドのサウンドの魅力を最大限に引き出す編曲によって曲の印象がこんなにも変わるのかと驚いた記憶があります。
金管楽器のファンファーレでの美しいハーモニーを堪能できる序奏《0:00~》から、アンサンブルの完成度が高くて全く隙のない友情の踊り《1:00~》が鮮やかに演奏されていき、コントラバス中心の低音と木管楽器の美しい音色が印象的なアイシャの孤独《2:33~》を挟んで、音楽的に激アツな剣の舞《3:21~》に突入します。この熱量の高さは東海大学付属第四高校のこの年代の演奏としては珍しく感じますが、5:15からアグレッシブに追い込んでいくところも攻めていてかっこいいです。収穫祭《5:40~》は落ち着き目のテンポで始まりますが、冒頭や6:36や7:11のホルンの音圧が素晴らしく、雄大な音楽をこの曲にぴったりなサウンドで聴かせてくれます。ラストのトランペットセクションも見事に決まり、鮮やかに曲が終わります。
あとがき
いかがでしたでしょうか。ハチャトゥリアン作曲「ガイーヌ」の、剣の舞を演奏したカットのコンクールでの名演をご紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。
塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。