【吹奏楽ナビ】#38 「カヴァレリア・ルスティカーナ」

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皆さま、こんにちは。

私事ですが、3月末に久しぶりにオペラを観ることができました。演目はワーグナー作曲の「トリスタンとイゾルデ」で、休憩を含めて約5時間と長時間でしたが魅力的な音楽と演奏で飽きることなく鑑賞することができ、改めて“歌の魅力”というものを再認識しました。そこで今回から数回にかけては、吹奏楽コンクールで取り上げられる「歌曲」と呼ばれるオペラを中心としたジャンルの作品に注目してみようと思います。今回はその第1段として、歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の名演をご紹介します。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」

イタリアの作曲家、ピエトロ・マスカーニが作曲したオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」の曲として真っ先に思い浮かぶのは間奏曲ではないかと思います。この間奏曲はコンサートで単独で演奏されることが多く私も演奏したことが何度もありますが、間奏曲が有名すぎるためにオペラの内容があまり知られておりませんので、簡単にご説明しておきましょう。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」とは「田舎の騎士道」という意味で、シチリア島のある村での復活祭を舞台にした、美しい女性ローラとその亭主アルフィオ、元恋人のトゥリッドゥとその妻サントゥッツァの四角関係を巡る、一幕の悲劇のオペラとなっています。

吹奏楽コンクールでは「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲以外が取り上げられたことにより、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の曲とマスカーニの作風の魅力が広く知れ渡ることになりました。

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より プレリュード

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より プレリュード
作曲:P.マスカーニ 編曲:木村 吉宏


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 銀賞
演奏:尼崎市吹奏楽団
指揮:辻井 清幸

関西を代表する兵庫県の一般バンドの尼崎市吹奏楽団ですが、1990年代から200年代前半の時期は知られざるオーケストラ曲の吹奏楽編曲版を自由曲に選曲するという独自の路線を貫いていました。私が全国大会を生で聴くことができた2003年は、「カヴァレリア・ルスティカーナ」のオペラの一幕の前に演奏される一番最初の曲、プレリュード(前奏曲)のみを演奏するという選曲に驚かされました。

冒頭の繊細なピアニシモの音楽がよく響くホールに満たされていき、マスカーニの素朴かつ美しい音楽に一気に引き込まれます。フォルテの部分ではオーケストラ曲特有の弦楽器の音の張りと厚みを管楽器の息圧で表現できており、イタリア音楽の情熱的な表現も味わうことができます。2:27からのハープに導かれて始まるトランペットソロはオフステージで、朗々としていながらも少し切なさを感じる美しい音色に聴き入ってしまいます。随所に出てくる弱奏部の表現の上手さや大人ならではの落ち着いた音色の美しさも印象的で、最後がディミヌエンドで終わるのもコンクールらしくなくてとても素晴らしいと思います。惜しくも銀賞という結果でしたが、この年のコンクールの中でも強く印象に残っている演奏です。

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より
作曲:P.マスカーニ 編曲:宍倉 晃


全日本吹奏楽コンクール
2007年(第55回大会) 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実

吹奏楽コンクールで演奏される「カヴァレリア・ルスティカーナ」といえばこの編曲とカットというぐらいに有名な宍倉晃さんの吹奏楽編曲版ですが、全国大会での初演は2007年の埼玉栄高校で、この演奏が大変素晴らしかったためにその後爆発的に流行ったということもあると思います。

クラリネットを中心とした木管セクションの柔らかい音色で始まる前奏曲《0:00~》から、オペラでは舞台裏でのテノール歌手の独唱で歌われるシチリアーナ《1:15~》がトランペットソロで高らかに奏でられます。そこから前奏曲《2:24~》のクライマックスの後にオーボエソロを挟んで前奏曲が終わり、乾杯の歌《2:55~》の威勢の良い陽気な音楽が繰り広げられます。やがて教会の鐘《5:24~》が鳴り響き、有名な「間奏曲」の始まりと同じ旋律で祈りの合唱《5:32~》が歌われた後に、祈りの歌《6:13~》アルトサクソフォーンソロから木管楽器群に移り変わっていきます。最後に「間奏曲」の印象的な旋律をモチーフにしたコーダ《8:22~》となり、G-durのハーモニーが響き渡って劇的に曲が終わります。声楽科のご出身の大滝先生の指揮と宍倉さんの名編曲による見事なタッグで、埼玉栄高校の歴代の演奏の中でもトップクラスの名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。「カヴァレリア・ルスティカーナ」のコンクールでの名演をご紹介しました。

次回は、プッチーニ作曲のオペラ「トゥーランドット」の名演をご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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