【金管バンドナビ】#33 金管バンドの作曲家⑧トム・ダヴォレン

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

今週は、英国ウェールズ出身、現在はアメリカに拠点を移し作曲家や指揮者として活躍中のトム・ダヴォレン(Tom Davoren)をご紹介します。近年金管バンドのみならず、さまざまな管楽器のためのアンサンブルやソロ作品でも人気作曲家のダヴォレン氏、今後ますます要注目の作曲家です。

プロフィール

1986年英国ウェールズにて生まれ、その後南ウェールズにある『英国王立ウェールズ音楽歌劇大学』の管楽器パフォーマンス(チューバ)にてディプロマ資格を取得。さらに『カーディフ大学』にて作曲専攻の学士号と修士号を取得しました。この期間にはウェールズ芸術人類評議会や同業組合作曲賞より研究用奨学金を授与されました。

また欧州金管バンド協会主催コンテストや国際ユーフォニアム、チューバ協会にて表彰をされ、さらに全米バンド協会主催作曲家コンテストでの優勝など華々しい成績を残しています。

その後渡米、『カンザス大学』にて管楽器指揮法にて博士号を取得し、『ベネディクティン大学』にて各種バンドの音楽監督並びに助教授に就任し、金管バンドや吹奏楽、そしてオーケストラや管楽器のためのソロ作品の作曲、そして指揮者、指導者としても世界中で活躍しています。

また客演指揮者としてや作品の委嘱依頼などで日本のバンドとの関わり合いも増え、近年では東京シティコンサートブラスの正指揮者にも就任し、今後ますます活動の幅を広げていくこと間違いなしの作曲家兼指揮者です。

作品

ダヴォレン氏の作品は英国の一流バンドであるコーリーバンド、またアメリカの金管バンドであるバトルクリーク・ブラスバンド、また軍楽隊である英国王立中央空軍バンドやアメリカ海軍バンドなど金管バンドだけでなく幅広いジャンルのためにも作曲しています。

また大編成のバンド作品の他にも、ユーフォニアム奏者であるスティーヴン・ミード氏(Steven Meed)やトランペット奏者のイェンス・リンデマン氏(Jens Lindemann)など、国際的に活躍しているソリストたちへの作品の提供も行っています。

歌の国ウェールズ出身のダヴォレン氏の作品にはとても心に残りやすい美しいメロディ、そして元チューバ奏者ということからベースラインの重厚さ、そしてさまざまな拍子やリズムで音楽をより立体化させるなどとても興味深く、金管バンドの新たなサウンドが感じられる素晴らしい作品ばかりです。本日はダヴォレン氏の作品より筆者のおすすめを数曲ご紹介いたします。

Valaisia Variants

2018年当時、スイス国内チャンピオン並びに欧州大会王者でもあったヴァレイシアバンド(Valaisia Brass Band)の委嘱によって作曲された作品です。2019年、スイスのモントルーで開催された欧州大会にて当バンドが特別公演のプログラムとして初演を披露しました。

作曲者曰く「全体的に映画音楽のような形式を取ったメロディとドライヴしていくリズム、そしてソロ・コルネット、テナーホーン、そしてユーフォニアムのソロやトリオを織り交ぜて作曲しました。」と解説を残しています。

余談ですが、筆者がダヴォレン氏とお会いした際、ちょうどこの曲の指揮を依頼されており作曲の経緯や背景についてお話を伺ったところ「メロディは天啓のように降りてきました。」と歌の国ウェールズ生まれの才能あふれる音楽家らしい回答を頂きました。

Vivat!

Vivat!つまり万歳と名付けられたこの作品は2012年に開催された全英選手権のファースト・セクションの課題曲として委嘱された作品で、さらにこの年、当時女王であった英国エリザベス女王の在位60周年の祝賀としての意味合いも含まれていました。

この曲は、途切れることなく演奏される色彩豊かな3つの章に分かれており、2023年に行われた英国チャールズ3世とカミラ女王の戴冠式でも使われたヒューバート・パリー作曲(Hubert Parry)の戴冠式用賛歌『I was Glad.』を題材として作曲されました。

英国王室、そして英国の絢爛さや栄光、そして過ぎ去った過去などが描かれており、英国で1番素晴らしい金管バンドを決める大会のための課題曲として素晴らしい作品です。

Legacy

2018年、ウェールズの強豪バンドの一つトラディーガー・タウンバンド(Tredegar Town Band)の委嘱で作曲されたこの曲は、ウェールズ議会の政治家であってアナイリン・ベヴァン(Aneurin Bevan)のこれまでの業績と、彼が重要視した英国の国民保険サービス(The NHS)の70周年を題材に作曲されました。

作曲された当初、初演はウェールズ議会の議員会館にて当時トラディーガーのソプラノ・コルネット奏者であったイアン・ロバーツ(Ian Roberts)を取り立たせて演奏されました。その後、2020年開催の全英大会地区大会ように作曲者自身が改編し、課題曲として設定されました。

遺産、遺物、伝承されるものという意味を持つLegacyという題名通りべヴァン氏の業績、そしてそれだけではなく英国人であれば誰もが一度は利用したことのあるNHS(日本でいう国民健康保険)がもたらした多大なる恩恵、それらが象徴的に表現された3つの楽章で構成されています。

作曲者自身が書いたプログラムのノートの最後には、べヴァン氏が残した以下の言葉が掲載されています。

‘No society can legitimately call itself civilised if a sick person is denied medical aid because of lack of means.’ (Aneurin Bevan, 1952)

(‘病人が財力の欠如を元に医療行為を拒否される社会であれば、いかなる社会も文明的とは言えない’ アナイリン・べヴァン, 1952年)

2024年現在、英国やアメリカはもとより豪州や欧州各地で作曲家、指揮者、コンテスト審査員として大活躍の作曲家トム・ダヴォレン氏をご紹介しました。英国ウェールズ出身でさらにチューバ奏者出身ということで、奏者としての経験やバンドでの経験を元に作曲される多彩な音楽は世界中で愛されています。

今回はコンテストで使用されたことのある大曲を中心にご紹介しましたが、ユースバンド用やコンサートのようなライト・ミュージックもたくさん作曲されている方ですので、ぜひご自分のバンドのレパートリーの参考にしてみてください。

トム・ダヴォレン公式サイト

https://www.tomdavorenmusic.com/

それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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