【金管バンドナビ】#29 金管バンドの作曲家④アラン・ファーニー

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

金管バンドの作曲家シリーズ、今回はトロンボーン奏者、そして指揮者や教育者でもあるスコットランド出身のアラン・ファーニーの特集です。過去3回の作曲者と比べると意外にも日本では知名度自体が高く無い作編曲者ですが、おそらく日本の金管バンド奏者の大半が一度は彼の作曲や編曲作品を演奏されているであろうというぐらい数多くの作品を世に生み出している作曲家です。本日はこのファーニー氏にスポットライトを当ててみたいと思います。

アラン・ファーニー(Alan Fernie)

スコットランドの首都エディンバラ近郊ミドロシアンにある炭鉱で栄えた街ニュートングリンジに生まれたファーニー氏は、13歳の時に学校や地域の金管バンドでトロンボーンの演奏を始めました。その後、専門的に音楽を学ぶためグラスゴーやロンドンで研鑽を積み、この時作曲や編曲活動を始めました。その後、オーケストラでの演奏を生業とした後、現在まで約20年に渡ってスコットランド東部にて教育活動に従事されています。

トロンボーンや作曲の他に指揮者としての活動も行い、スコットランドで活動をする数々のバンドと共に様々な賞を受賞しました。また学生の頃から始めた作編曲活動では次第に有名となり、現在では世界中で彼の作編曲作品が演奏され、出版や収録をされています。

2009年にはスコットランド・ブラスバンド協会より『The President Award』(協会長賞)を送られるなど、長年のスコットランドにおけるブラスバンド活動への尽力を表彰されました。さらにチャリティー活動としてアフリカにおける『Brass for Africa』という活動のためウガンダにて2ヶ月間活動を行ったり、イングランドにおける女性のみで構成されたバンド『Boobs and Brass』の企画やサポートを行ないました。

現在でもスコットランドにおいてフリーランスの音楽家として作曲家、教育活動や指揮、審査委員、演奏など幅広いブラスバンド活動を行なっています。

オリジナル作品

数多くの作曲作品を残しているファーニー氏ですが、とりわけ自身が生まれ現在も暮らしているスコットランドにまつわる作品が多く作曲されています。ファーニー氏の作品ではありませんが、以前ご紹介した『組曲:ハイランド讃歌 / スパーク』やレイ・ファー編曲でお馴染みのマルコム・アーノルド(Malcolm Arnold)作曲『4つのスコットランド民謡 』などなどスコットランドの音楽、とりわけスコットランド民謡は金管バンドでも数多く取り上げられ、さらに島国同士ゆえか日本でもとても人気です。

ファーニー氏の作品も前述の作品と同様に、歌心に溢れ、牧歌的で雄大なメロディ、そしてスコットランドの厳しい自然の中で培ってきたハイランドの男たちの歌やバグパイプ、フィドルのような力強いメロディなどなど個性的ですが、親しみやすい音楽が特徴的な作品が多いです。

とあるスコットランド集(A Scots Miscellany)

2009年の全英大会セカンド・セクション(上から3番目の位のコンテスト)の課題曲として選ばれた作品です。その後も全英各地のコンテストで自由曲として選ばれるなどコンテストでよく使われる作品としても有名ですが、コンサートでも使えるような非常に美しいメロディを持った曲でもあります。

この曲は以下の3曲で構成された組曲となっています。(以下の題名をクリックするとYoutubeに飛びます。)

  1. The Smiling School for Calvinists (カルヴァン主義者のためのスマイリング・スクール)
  2. Regards to G. Robin Henderson Esq. of Caithness (G. ロビン・ヘンダーソンに敬意を込めて)
  3. John Whyte’s Reel (ジョン・ワイトの踊り)

筆者のおすすめは2曲目の『G. ロビン・ヘンダーソンに敬意を込めて』、これまでご紹介してきた巨匠的作曲家とはまた異なる土着的で讃美歌のような作品で、美しいスコットランドの風景が思い起こされるような曲です。

ファーニー氏が生まれたミドロシアン地域の草原

アレンジ作品

数多くの名作を金管バンドのために編曲しているファーニー氏ですが、その中でも以下の作品はとても人気で日本でも数多く演奏されています。皆様の中でも演奏されたことがある方も多いのでは無いでしょうか?
カルメン組曲/ ジョージ・ビゼー (Carmen Suite / George Bizet)

クラックド・アイス・ラグ / ジョージ・コブ (Cracked Ice Rag / George Cobb)

蛍の光 / 民謡 (Auld Lang Syne / Traditional)

筆者の主観ですが、ファーニー氏の作品の多くはご自身がチャンピン・セクションでの活動というよりかは下位セクションのバンドとの関わり合いが深かったり、先述した『Brass for Africa』や『Boobs and Brass』に見られるように金管バンドに初めて触れる方や不定期に楽器の演奏を行う方用に作編曲をされることが多い事から聞き映えがする素晴らしい編曲にも関わらず、難易度が低く設定されているという素晴らしい特徴があります。

ユース用作品集

低難易度の作品の作編曲を得意とするファーニー氏は、生まれて初めて管打楽器を手にする子供たちやユース世代のためにも数多くの作品集を残しています。我らが日本でもミュージックエイト社がありますが、イギリスにおいてもファーニー氏やスパーク氏など作曲家が主体となってフレキシブルな編成で子供たちのための作品を発表しています。

アラン・ファーニー・ジュニア・バンド・ブック vol.1

収録曲

  • Stramash !
  • Inchkeith
  • Oogie Boogie

フレキシブル編成
パート1
フルート、ソプラノ・コルネット、Eb クラリネット、1st トランペット、1st コルネット

パート2
2nd クラリネット、2nd トランペット、2nd コルネット,フリューゲルホーン、テナーホーン、アルトサックス、フレンチホルン

パート3
ユーフォニアム、バリトンホーン、トロンボーン、テナーサックス、ベースクラリネット、フレンチホルン、テナーホーン、アルトサックス、バスーン

パート4
チューバ、バリトンホーン、ユーフォニアム、バスーン、バリトンホーン

打楽器
ティンパ二、ドラム

上記のように各それぞれの声部に分けられた楽器がそれぞれの楽譜(ト音、へ音、In C, In Eb, In Bb, In Fなど)で記譜されているので非常に使い勝手も良い楽譜となっています。

ジュニアー・バンド・シリーズ #75より「2つのラグタイム」 (2 Rag Times Junior Band Series #75)

こちらも上記同様にジョップリンの有名な『ザ・エンターテイナー』(The Entertainer)や『お気に入り』(The Favourite)などがさまざまな編成でも演奏が可能なように編曲をされています。

終わりに

今回は作曲家としての活動の他にも編曲者として、またユースや初心者向けの作品を数多く作られているアラン・ファーニーの特集でした。ユースや初心者向けと言ってもただ簡単に作られているだけでは無いものが多いので、ぜひ一般のバンドのみなさんも試してみてください。またもちろん、ファーニー氏のオリジナル作品も要注目です!

それでは今回もありがとうございました。またお会いしましょう。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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