【吹奏楽ナビ】#28 全国大会 2011年高校の部①

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皆さま、こんにちは。

気温が下がったかと思ったらまた暖かくなったりと気温差が多い日々ですが、いかがお過ごしでしょうか。

今回は、全国大会2011年高校の部の名演をご紹介します。以前の記事でも触れましたが、2011年は中学・高校の部の全国大会が普門館で行われた最後の年となりました。普門館が使用停止になってしまったのは2012年のことなので、2011年が最後だとは誰も知らない訳ですが、この年の高校の部に特に名演が多く生まれたのは何か不思議な力を感じます。

立正佼成会普門館(東京都杉並区)2006年 著作者:Lombroso 

幕張総合高校

以前にも本連載で取り上げた幕張総合高校ですが、佐藤先生が指揮をされるようになって東関東支部大会に初出場してから、2011年に全国大会に初出場するまで5年を要しました。さらに2011年は全国大会三出制度によって当時の東関東御三家のうちの2校がお休みとなっていましたので、東関東支部のレベルの高さと幕張総合高校のその後の活躍を鑑みると、この年はまさに運命的な巡り合わせを感じます。

【名演紹介】千葉県立幕張総合高等学校(11年)

課題曲Ⅱ:天国の島
作曲:佐藤 博昭

紺碧の波濤
作曲:長生 淳


全日本吹奏楽コンクール
2011年(第59回大会) 金賞
演奏:千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部
指揮:佐藤 博

課題曲Ⅱ:天国の島

冒頭のピッコロソロから表情豊かな演奏を聴かせてくれますが、何と言っても0:29からのオーボエソロとファゴットソロのデュエットがダブルリード楽器特有の艶のある音色と豊かな表現力によって、お互いに言葉を交わしているかのようなアンサンブルが圧巻です。

木管楽器の見せ場が多いこの曲は幕張総合高校の長所が最大限アピールできる課題曲で、正確なアンサンブルとバランス感覚の良さを土台として音楽的な魅力に溢れています。1:48や2:30のクラリネットセクションの美しい音色と一体感が素晴らしく、3:35と4:15のクラリネットソロの豊かな表現力とよく通る音色が見事です。

紺碧の波濤

この曲の作曲者である長生淳さんの曲はダブルリード楽器が大活躍する曲が多いのですが、0:08のファゴットのデュオの存在感と表現力の凄さにまず耳を奪われます。1:03からのフルートソロの哀愁漂う歌いこみがアルトサクソフォーンに受け継がれ、その後の木管楽器全体での豊かなディナーミクを伴った歌いこみがとても音楽的で魅力に溢れています。

2:51からはかなり速いテンポ設定による疾走感が病みつきになるほどの快感を与えてくれますが、長生さんの曲特有の音数の多さによるアンサンブルの難しさを全く感じさせないバンドの技術力とアンサンブル力の高さがあってこその演奏です。難しい連符でも全く引かずにアグレッシブに攻める姿勢は高校生ならではですが、相当な練習量があってこそできる芸当だと思います。

5:01からのオーボエソロは超難所の最高音Fisが出てくることを全く感じさせない驚愕のテクニックと豊かな表現力で、ファゴットをはじめとした木管楽器が絡んでいった後の大らかな流れにのった歌が感動的です。再びテンポが速くなり、前半以上の疾走感で最後まで鮮やかに駆け抜けます。

とても全国大会初出場とは思えない素晴らしい演奏で、改めて東関東支部のレベルの高さを思い知らされました。

あとがき

いかがでしたでしょうか。幕張総合高校の名を全国に知らしめることとなった名演をご紹介しました。

前回の記事と、過去に取り上げた記事を合わせると、2011~2013年の幕張総合高校の軌跡を感じることができるかと思いますので、あわせてお読みいただけると幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。