【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#21

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皆さま、こんにちは。

朝晩の気温が下がってきて秋の気配が感じられるようになってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。

今回は、2007年全国大会中学の部の演奏をご紹介しますが、関西支部の名門中学校である生駒市立生駒中学校について少しご紹介しておきましょう。

生駒中学校は1998年に全国大会に初出場していきなり金賞デビューを果たすと、そこから全国大会三出を4回連続で達成する名門校となります。2014年に指揮者の先生が変わってから数年間全国大会に出場できない期間がありましたが、2019年に山上隆弘先生の指揮で関西支部代表に帰り咲き、2023年まで4回連続で全国大会に出場しています。

私が中高生の時は牧野耕也先生が指揮をされていた生駒中学校の隆盛期で、全国大会で2度生演奏を聴くことができましたが、中学生らしい素直な音楽性と軽快で楽しい曲想の音楽、特にマーチがとても上手だったのが強く印象に残っており、毎年のコンクールでの選曲を楽しみにしておりました。

今回ご紹介する2007年の演奏は牧野先生時代の生駒中学校の演奏の中で、課題曲自由曲を通して印象に残っている演奏になります。

名演紹介 #21 課題曲Ⅲ、組曲「モスクワのチェリョムーシカ」より/生駒中(07年)

課題曲Ⅲ:憧れの街
作曲:南 俊明

組曲「モスクワのチェリョムーシカ」より モスクワを疾走、ワルツ、ポルカ、ギャロップ
作曲:D.ショスタコーヴィチ 編曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2007年(第55回大会) 金賞
演奏:生駒市立生駒中学校吹奏楽部
指揮:牧野 耕也

南俊明さんが作曲した「憧れの街」は、この2年前に朝日作曲賞に入選した2005年の課題曲Ⅱ、マーチ「春風」に引き続いて2回目の朝日作曲賞入選となった曲です。この曲の最大の特徴はトリオに低音木管楽器のソリがあるところで、普段ソロがほとんどない低音木管楽器にスポットライトが当たる数少ない曲でした。

「モスクワのチェリョムーシカ」は、ショスタコーヴィチが手がけた唯一のオペレッタです。チェリョムーシカとは日本でいうところの1950年中頃からのいわゆる団地で、当時の社会主義における風刺的な内容になっています。

演奏について

課題曲Ⅲ:憧れの街

冒頭のファンファーレが爽やかに決まり、マーチが快活なテンポで始まります。コンサートマーチの速めのテンポで進んでいきますが、マーチの土台である表打ちと裏打ちが常に軽快さを保ちながらテンポの乱れなく演奏されていくのは圧巻です。メロディも爽やかで歌い方が自然で中学生ならではの純粋さを感じることができます。

トリオは一転してレガートのメロディが美しく、こちらも表打ちと裏打ちが乱れることなく安定感抜群です。1:52の低音木管楽器のメロディは発音の美しさが際立っていて素晴らしいです。

2:18からは金管楽器の音圧に圧倒されますが、全ての動きが聴き取れるバランスの良さが素晴らしいです。2:59のオーボエ・クラリネット・フルートのソロの音色とアンサンブルに耳を奪われて、再びマーチのテンポに戻って爽やかに曲が終わります。

組曲「モスクワのチェリョムーシカ」より

1曲目「モスクワを疾走」《0:00~》は、ゆっくり目のテンポながら疾走感を感じられる音楽作りになっていて、要所でトロンボーンが大活躍します。これだけすっきりと整って聴こえるのは個々の奏者の発音の美しさがあってこそだと思います。

2曲目「ワルツ」《1:54〜》は、ほの暗いメロディの中にワルツの揺らぎが感じられて、決めのリズムやフォルテの広がりもあって隙がなく見事な出来です。

3曲目「ポルカ」《4:27〜》は、冒頭のトランペットのリズムの良さが際立っていて、その中に軽快さも表現できているのは圧巻です。低音の軽快な音の処理がとても上手で、この曲想をよく表現できています。

4曲目「ギャロップ」《6:12〜》は、エネルギー溢れる金管楽器の音圧や木管楽器の張りのある音に耳を奪われますが、その中にも冷静さがあってテンポが乱れないのが素晴らしいです。終曲に向けてのアッチェレランドが圧倒的で鮮やかに曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?中学生らしい音楽性と中学生離れした技術力の両面が魅力的な生駒中学校の名演をご紹介しました。

現在の中学生の技術力はとてつもなく高いレベルにまで上がっていて驚いてしまいますが、その反面中学生らしい素直な音楽性をもったバンドは少なくなってきている印象で、現在では珍しくなった個性がある貴重な演奏だと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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