【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#20

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皆さま、こんにちは。

先週の日曜日に全ての吹奏楽コンクール支部大会が終了し、全国大会に出場する団体が決まりましたので、今回から再び過去の全国大会での名演をご紹介していこうと思います。

今回は2000年の全国大会中学の部の演奏をご紹介しますが、今回ご紹介する演奏の指揮者の先生について少しお話ししておきましょう。

2023年現在、松本市立梓川中学校で指導されている妹尾圭子先生は、1999年に松本市立筑摩野中学校の指揮者として全国大会に初出場され、初出場で金賞受賞という鮮烈な全国大会デビューを果たします。筑摩野中学校は部員数が100名近い大編成のバンドでしたが、その後に松本市立鎌田中学校という2002年当時は27名の小編成のバンドを指導されて、赴任1年目でいきなり全国大会金賞受賞という素晴らしい結果を残しました。この年代が私の中高生の時代とぴったり被っておりまして、全国大会の演奏をCDで聴いていたので記憶が鮮明に残っています。

妹尾先生はその後いくつかの長野県内の中学校を渡り歩き、現在指導されている梓川中学校が今年全国大会初出場を決めたというニュースを拝見しましたので、今回は大変僭越ながら妹尾先生のサウンドがよく表れていると私が個人的に思う名演をご紹介させていただきます。

名演紹介 #20 課題曲Ⅰ、喜びの島/筑摩野中(00年)

課題曲Ⅰ:道祖神の詩
作曲:福島 弘和

喜びの島
作曲:C.ドビュッシー 編曲:真島 俊夫


全日本吹奏楽コンクール
2000年(第48回大会) 金賞
演奏:松本市立筑摩野中学校吹奏楽部
指揮:妹尾 圭子

現在では特に吹奏楽で大人気の作曲家、福島弘和さんが作曲して朝日作曲賞を受賞された課題曲Ⅰ「道祖神の詩」は、その2年前の課題曲Ⅱ「稲穂の波」の爆発的な人気もあって多くの団体に演奏され、全国大会では全部門合わせて28団体が演奏しましたが、金賞を受賞したのは5団体という評価がなかなかに厳しい課題曲となってしまいました。私もこの曲を課題曲としてコンクールで演奏したのですが、C-durという調での軽快な曲想が吹奏楽では大変難しく、特に木管楽器のスタッカート奏法が荒くなってしまいやすいので技術的にかなり高いレベルでないと上手に聴かせるのが難しかった印象です。ただ、「道祖神の詩」のスコアは高いレベルで完成されており、特に中間部が幻想的でメロディがとても美しいので、課題曲の名曲だと私は思います。

クロード・ドビュッシー作曲のピアノ曲「喜びの島」の真島俊夫さんによる吹奏楽編曲版は、2000年に妹尾先生の委嘱で書かれました。真島俊夫さんのフランス的な感覚で描かれた名編曲で、現在でもたびたび演奏されています。

演奏について

課題曲Ⅰ:道祖神の詩

冒頭から中学生とは思えないクラリネットの丸くて美しい音色に耳を奪われます。全体的によく整理されていてバランスがとても良いのが特徴ですが、特筆すべきは木管楽器のソロをはじめとした2:20からの中間部です。

中間部最初のオーボエソロは音域的に良い音がしにくいようで高校生以上でもかなり苦戦していたのですが、中学生とは思えないあまりにも美しい音色でハイCも綺麗に当てていて素晴らしいです。その後に続くアルトサクソフォーンソロの音色も美しく、その後のフルートソロは音色の美しさはもちろんのこと表現にも魅了されます。このソロに寄り添うクラリネットの対旋律や伴奏と低音の雰囲気がこの部分にふさわしくてとても音楽的です。

喜びの島

冒頭のフルートソロは繊細で美しい音色での流れるような表現に耳を奪われて、一気にドビュッシーの世界にいざなわれます。続くクラリネットソロは良い音がしにくい音域にもかかわらず美音かつ繊細で、トリルまでも美しいです。

0:38からのメロディの付点のリズムがちょうどいいところにはまっていて、音楽的なセンスの良さを感じさせます。全体的にキラキラとした音色とフランス音楽らしい繊細な表現が特徴的ですが、時折入る金管楽器のレガートが優しい音色で安心感を与えてくれます。

金管楽器の美しい音色やセンスの良い打楽器群が素晴らしいですが、何よりも木管楽器の美しい音色での鮮やかな表現と技術力の高さが際立って素晴らしく、この年の筑摩野中学校のメンバーの実力の高さだからこそ、真島さんの名編曲が生まれたのだと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか?木管楽器の音色の美しさと技術的なレベルの高さが際立っていて、中学生の豊かな感性と妹尾先生のご指導がマッチした名演をご紹介しました。

普門館という超特大かつ響かないホールにも関わらず、音量や迫力だけで勝負しない演奏が木管楽器吹きとしてとても好感がもてたのは今でも変わっていません。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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