【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#18

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皆さま、こんにちは。

9月に入ってもまだ猛暑が続いていて日差しからは秋の気配が見えない今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

今回は、バッハ作曲の「トッカータとフーガ ニ短調」をご紹介します。

名曲紹介 #18 トッカータとフーガ ニ短調

ヨハン・セバスティアン・バッハが作曲したオルガン曲「トッカータとフーガ ニ短調」は、トッカータ冒頭部分があまりにも有名なのでJ.S.バッハの曲の中で最も広く知られている曲と言っても過言ではないでしょう。この曲はストコフスキー編曲の管弦楽版がありますが、吹奏楽でよく演奏されるようになったのはフランスのギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の名演があったからこそだと思われます。当時の吹奏楽指導者の多くがギャルドに憧れ、1961年の初来日公演で演奏された「トッカータとフーガ ニ短調」を聴いて触発されてこの曲に挑戦しようという流れになったのは想像に難くありません。風をパイプに送って鳴らすパイプオルガンと息を使って鳴らす管楽器、空気が通って音を鳴らすという共通点があることからも、この曲と吹奏楽との相性はかなり良いのだろうと思います。

原曲がオルガン曲なので、吹奏楽に編曲する場合はオーケストレーションを含めて編曲者の特徴がかなり出ることになります。指揮者の先生が自分の学校のために編曲するということも少なくなく、演奏団体のカラーがよく出ている編曲とも言えます。今回は、4つの演奏をご紹介します。

出雲市立第一中学校 (1967年)

1967年(第24回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:出雲市立第一中学校吹奏楽部
指揮:片寄 哲夫
編曲:E.ライゼン

J.S.バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」の名演を語る上で、真っ先に紹介しないといけない歴史的な名演です。

まだコンクールが順位制だったこの時代は、東京都の豊島区立第十中学校と兵庫県の西宮市立今津中学校のどちらが1位になるかを争っていた二強の時代だったのですが、1967年にこれまで3位にも入ったことがなかった出雲市立第一中学校が彗星の如く現れて1位になり、出雲市立第一中学校にとって初めて1位となった歴史的な演奏になるのです。

曲の冒頭から終わりまで中学生とは到底思えない凄まじい音圧に圧倒されるのですが、木管楽器のテクニックは相当なレベルの高さです。特にクラリネットはプロのオーケストラ奏者のような芯があって美しい音色でありながら、クラリネットの指使い的に相当難しい3:02からのパッセージも難なくこなしていて異次元の上手さです。演奏の一体感も素晴らしくて正に神がかった演奏で、歴史に残る名演となっています。

宝塚市立宝梅中学校 (1986年)

1986年(第34回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:宝塚市立宝梅中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之
編曲:渡辺 秀之

全国大会五金を達成するなど一時代を築いた宝塚市立宝梅中学校が、全国大会で初めて金賞を受賞した記念すべき演奏です。

トッカータ冒頭は全盛期の宝梅中を知っている身としては珍しくかなり張りのある強奏になっていますが、これがバッハの音楽にバッチリはまっていて緊張感に満ちた演奏となっています。指揮者の渡辺先生ご自身の編曲によるところもありますが、まるで一つの楽器のように聴こえるよくブレンドされたトゥッティサウンドで和音のはまり方も素晴らしく、バッハを演奏するのに相応しいバンドだと思います。

渡辺先生は、その後に赴任された宝塚市立中山五月台中学校と、指揮をされている宝塚市吹奏楽団でもこの曲を選曲して全国大会で演奏しているので、先生ご自身が大好きで十八番の曲なのだろうと思います。

埼玉県立伊奈学園総合高等学校 (1999年)

1999年(第47回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部
指揮:宇畑 知樹
編曲:森田 一浩

サウンドの美しさが格別な伊奈学園総合高校が森田一浩さんの新編曲で挑んだ、吹奏楽での現代版「トッカータとフーガ ニ短調」と言える演奏です。

演奏はかなりの正統派ですが、森田さんの編曲によって場面ごとの変化がよく感じられ、バッハの音楽の高貴さがフィーチャーされている印象です。トゥッティのサウンドの美しさと一体感は伊奈学園総合高校の特徴ですが、そこに木管楽器高音の美しい音色感や低音域の幅広い音色感が加わって一段上のサウンドに昇華しています。ゆっくりなテンポでのフーガのバランスのとり方も素晴らしく、吹奏楽でのバッハのお手本であり最上級の演奏だと思います。

福島県立磐城高等学校 (2011年)

2011年(第59回) 全日本吹奏楽コンクール 銀賞
演奏:福島県立磐城高等学校吹奏楽部
指揮:根本 直人
編曲:根本 直人

磐城高校は東北支部の強豪校で、根本直人先生が指揮をされていた時代の磐城高校は邦人作品の現代曲やバルトークを多く選曲していたのですが、2011年は同校としては初めてJ.S.バッハの曲を選曲します。

指揮者の根本先生ご自身の編曲ですが、バッハの曲を現代の吹奏楽の編成を最大限に生かして色彩感豊かで豪華絢爛なアレンジとなった「トッカータとフーガ ニ短調」と言えるでしょうか。特に打楽器の使い方が凄まじくていろいろな音が聴こえてくるのですが、演奏の集中力と一体感がもの凄くてバッハの音楽の世界観からは外れていないと思います。正に快演と呼ぶに相応しい演奏で、磐城高校の個性が最大限伝わる、今でも強く印象に残っている演奏です。

あとがき

いかがでしたでしょう?ヨハン・セバスティアン・バッハのあまりにも有名な名曲「トッカータとフーガ ニ短調」の吹奏楽コンクールでの名演を4つご紹介しました。

近年では吹奏楽コンクールで演奏される機会が少なくなってしまいましたが、演奏側としても観客側としても音楽的な名曲に触れることはとても大事だと思いますので、また名演が生まれてほしい曲の一つです。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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