みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
前回まではコンテストについてやそのセクション分け、そして1月のバットリンズから5月のスプリングフェスティバルまでと実際のコンテストについてご紹介してきました。
今週からは後半戦、6月に行われる世界的にも有名な「ウィット・フライディ」から、オランダのカークレイドで開催され、総合的な音楽コンテストである「ワールド・ミュージック・コンテスト」までをご紹介いたします。それぞれ特色を持つコンテストですので金管バンド好きのみならず、英国好きな方にもきっとお楽しみいただけると思います。
6月ウィット・フライディ・バンド・コンテスト(Whit Friday Band Contests)
サドルワース・ウィット・フライディ・コンテスト(Saddleworth Whit Friday Brass Band Contests)、通称ウィット・フライディ(Whit Friday)は少なくとも1870年にマンチェスターの北東にあるステリー・ブリッジ(Stalybridge)にて開催され始めたとされ、一般的なコンテストと違いその会場をいくつかの地区や村に置いています。
というのも通常のコンテストは屋内型のホールなどにその拠点を置いて開催をされますが、このウィット・フライディに関しては基本的に野外での演奏となります。また更にマーチを行進をしながら演奏をしたり、各街中に設置されたポイントでの立奏など、ブラスバンドの古き良きルーツを色濃く残すコンテストとなっています。
2023年現在のコンテスト会場はDelph, Denshaw, Diggle, Dobcross, Friezland, Greenfield, Grotton, Lees Springhead, Lydgate, Scoutheads and Austelands, Uppermillの11ヶ所で 、各それぞれにスポンサーが付き賞金や賞が与えられます。これら独立した地区や村が開催する小規模のコンテストを総称してウィット・フライディと呼ぶのです。今回はデルフ(Delph)で開催された「デルフ・ウィット・フライディ・コンテスト」を例にとってご紹介します。
1946年に始まったこのデルフのコンテスト、2023年の審査員には元ブリッグハウス・ラストリック・バンドのバリトン・ホーン、ユーフォニアム奏者、そして現在は作編曲や指揮もこなすレイ・バーカー(Leigh Barker) が就任しました。また上の画像をご覧いただければわかりますが、それぞれに賞金やプライズなどの賞がとても細かく設定されています。
例えば多くの大会が上位3位までにしか賞をないのに対し、このコンテストでは7位まで用意されています。そしてユニークな賞で言えば、このコンテスト会場から半径8マイルで活動する出場バンドの中で最も優秀だったバンドに授与する最優秀ローカルバンド(Best Local Band)、また最優秀ソプラノ・コルネット奏者や最優秀ソロ・コルネット奏者、ベスト・ベース・セクションなど個人奏者やパートにも賞が設定されています。
また行進を始める箇所や歩く箇所、止まって立奏をする箇所など全て事前にプランニングされ以下のように知らされます。
またこのデルフの街は、この以前の記事でご紹介した映画『ブラス!(Brassed Off!)』の撮影地としても有名で、映画の中にデルフの街並みやウィット・フライディ・コンテストの様子が描かれています。
先述しましたが、この他にもウィット・フライディの中に同じように大小様々なコンテストがあり、バンドそれぞれが自分たちの狙いたい賞金や賞を基準に1日で何ヶ所巡れるかなどバンドや観衆それぞれがプランニングをして各地域を巡る面白いコンテストです。
7月ワールド・ミュージック・コンテスト(World Music Contest)
オリンピック、パラリンピック同様4年に1度、オランダ南部にあるドイツに隣接した都市カークレイド(Kerkrade)で開催される管楽器や打楽器を中心とした国際的なコンテストです。
1951年から始まったこのコンテストは金管バンドのみならず、ファンファーレバンドや吹奏楽、マーチングバンド、様々な編成で構成されたショーバンド、そして指揮者のコンクールを含めた、それぞれ独立したコンテストによって構成される大会です。
約2万人の競技者が演奏を競い合い、30万人以上の観客が集まるこの大会は4週間に渡ってオランダや各国が誇るオーケストラの数々の演奏なども楽しめる、コンテストのみならずエンターテイメントの集合体としても有名です。
このコンテストの金管バンドセクションでは以下(いくつか抜粋)のルールが制定されています。
(2022年度版)
- 打楽器を含めた35人以内の奏者
- 欧州選手権上位、各国のコンテスト上位バンドが出場可能(8枠)
- 欧州外でも好成績、高い演奏レベルを実証できるバンドが出場可能(4枠)
- 課題曲の演奏、及び35~40分以内の自由曲を含めたパフォーマンス
- 課題曲のみカーテン審査
金管バンド部門の優勝賞金は€4,000(約62万円)とそこまで高くはありませんが、オリンピック同様4年に1回のコンテストにおける優勝または入賞はバンドの世界ランキングや知名度を上げるのにとても有効です。
英国のバンドとしては、
- 渡航費用の負担が大きい
- 金管バンドだけの専門的なコンテストではない
- 5月中旬以降のコンサート・シーズンでの活動を優先するため
- 9月のブリティッシュ・オープンなど8月以降のコンテストに備えるため
などの理由からコンテストやランキング上位のバンドであり、例え出場権や招待を受けていても辞退をする場合もあり、「Wrold Music Contest」という世界音楽コンテスト・ブラスバンド部門優勝=世界一という点については疑問点もあります。
下の動画は筆者がコーリー所属中に出場したWorld Music Contestにおいて、同じ出場バンドであるノルウェーのバンドであるマンガー・ムジカとの共演の際の動画です。
今週は2つのコンテストをご紹介しました。ウィット・フライディは非常にイングランド色が強く、またWorld Music Contestにおいては国際色豊かな中、金管バンドの今後の未来への発展を大いに期待させる内容のコンテストです。
どちらも特色豊かでとても素晴らしいコンテストです。筆者の個人的な感想で言えば、World Music Contest 2013の課題曲がいまだに自分史上最難曲であったのと、会場そばで飲んだビールが自分史上最高に美味しく、一生忘れられない思い出となりました。(コンテストはマンガーに負けたので無念)
本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。
河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。
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